1998年1月14日「しんぶん赤旗」
日本共産党の志位和夫書記局長が1月13日の衆院本会議でおこなった代表質問の全文と政府の答弁は次のとおりです。
日本共産党を代表し、不況対策と金融問題について、橋本総理に質問します。
まず第一にただしたいのは、不況のもとで国民に巨額の負担増をおしつける政策を、このままつづけていいのか、ということです。
今日の不況の深刻化の原因が、消費税増税をはじめとする9兆円もの負担増を国民におしつけたことにあることは、だれも否定できない事実です。わが党は、昨年の国会論戦で、景気回復の「二大主役」ともいうべき個人消費と中小企業の回復がいちじるしく遅れていること、このもとで巨額の国民負担増をおしつければ景気は底割れし、日本経済のかじ取りを根本から誤ることになることを強く警告しました。総理は、それに耳をかさず、「4〜6月期に影響があるが、それ以後は景気は回復していく」としてこれを強行しました。しかし今では、それが大失政だったことは明白ではありませんか。特別減税実施という、国民負担増政策の一部手直しを、年末になってあわてて発表せざるをえなくなったこと自体、自らの経済政策の破綻(はたん)を認めるものではありませんか。
海外からも、IMF(国際通貨基金)は、消費税率引き上げが、「景気回復が不十分な中では、明らかに急激すぎた」と、橋本内閣の政策ミスを批判しています。米紙ニューヨーク・タイムズは、総理を、1929年の大恐慌のさいに経済無策ぶりを批判されたフーバー大統領になぞらえ、「フーバー・ハシモトの下での日本経済の運営の失敗の程度は、現代の大テーマの一つである」、「もっとも破滅的な誤りの一つは、消費税を3%から5%に引き上げる決定をしたことにあった」と痛烈に批判しています。
総理は、不況のもとで9兆円負担増を国民におしつけた重大な誤りと政治責任を認めますか。「そうおっしゃりたければ、おっしゃっても結構」などという、先日の記者会見の発言のような無責任な居直りではなくて、国民の前にはっきりとその間違いを認めるべきであります。明確な答弁をもとめます。
そのうえで私は、深刻な不況から国民生活を防衛するために、つぎの二つの緊急課題について、総理の姿勢をただしたいと思います。
一つは、大幅の庶民減税にふみきることです。2兆円の特別減税は、それ自体は当然のことですが、規模が小さいうえに一時的措置であり、とても冷え込んだ個人消費を温める力はありません。所得税減税を恒久化するとともに、消費税を5%から3%にもどすことが、家計消費を温めるためには、もっとも効果があります。首相は、あわせて七兆円規模の庶民減税にふみこむことを、ただちに決断すべきであります。
いま一つは、社会保障の連続改悪の計画を中止することです。医療費の連続負担増、年金制度の大幅きりさげ、介護保険導入にともなう福祉施策のきりすてなど、国民生活の支えを土台からほり崩す計画のもとで、国民は人生設計に見通しが持てず、老後の不安をつのらせています。将来への不安が、家計と消費を委縮させ、不況をいっそう深刻なものとしています。社会保障の負担増などによって、個人消費が今後10年間、毎年0・6%程度おしさげられるという民間研究所の試算もあります。
総理は、社会保障の負担増が、家計と経済にあたえる影響をどう認識しているのですか。社会保障の負担増の計画は、今日の経済情勢とのかかわりでも、緊急に見直すべきではありませんか。
総理は、国民負担増の政策を、「財政危機」を理由に合理化しています。しかし、公共事業や軍事費などの浪費の構造には、本格的なメスは入れられていないではありませんか。たとえば、各分野の公共事業の長期計画をみると、どれも前の計画よりも膨脹しています。全国各地で浪費が大問題になっている港湾整備長期計画の総投資額は、5兆7000億円から7兆4900億円へと2兆円ちかく膨らんでいます。「景気対策か、財政再建か」の二者択一ではなく、浪費の構造にメスをいれることで、それを両立させる道を探求することこそ、未来に責任をおう政治家のつとめではありません。
つぎに政府が、国民の税金を使って30兆円もの銀行業界支援の計画をすすめようとしていることについて質問します。
まず総理にただしたいのは、今日の金融不安をもたらした責任がどこにあると認識しているかということです。北海道拓殖銀行にしても、山一証券にしても、この間の一連の金融機関の破綻の原因は、バブル時代からの乱脈経営による不始末にありました。その責任は、まず何よりも乱脈経営をおこなった直接の当事者に、さらにバブルに踊った金融業界全体に、そして金融業界の乱脈を奨励し放置してきた歴代政府と大蔵省にあることは、明らかではありませんか。国民には責任は一切ありません。バブルの不始末を国民の税金で穴埋めすることは、「罪なき人を罰する」ものであり断じて納得できない――総理は、この多くの国民の批判の声にどう答えますか。
政府は、「預金者保護」を税金投入の第一の口実にしています。
しかし、銀行が破綻したさいの預金者保護は、国民の税金ではなく、銀行業界の共同の責任でおこなうというのが、一昨年の「住専国会」での総理自身の公約だったではありませんか。住専処理への税金投入にたいして国民の怒りが燃え広がるなかで、総理は、銀行の破綻処理については、「金融システム内の負担により対応することが原則」――すなわち国民の税金は一切使わないと、この本会議場ではっきり言明していたではありませんか。総理は、この国会と国民への公約を反古(ほご)にするつもりですか。
しかも政府はその当時、銀行業界が共同の責任で対応すべき理由として、(1)「全体として不良債権額に対し十分な償却財源があること」、(2)「米国においても、S&L以外の金融機関の破綻処理については、金融システム内で対応したこと」をあげていました。この二つの理由が、今日では通用しなくなったというのですか。全国銀行協会連合会の佐伯会長自身が、「不良債権処理は終わりにちかづいている。銀行業界は全体としてみれば不良債権処理の体力をもっている」といっているときに、なぜ銀行業界の共同責任で対処させるというあたりまえのことができないのですか。
政府も認めているように、アメリカでは、預金者保護は銀行業界の責任と負担でおこなわれています。1991年に、銀行の大型倒産があいつぎ連邦預金保険公社の基金が底をつく事態となったときに、連邦議会で大論争がおこなわれ、税金投入を禁止するという大原則がうちたてられました。アメリカの銀行の保険料負担は当時の日本の20倍にまでひきあげられ、一時的に国際競争力が低下しましたが、銀行業界が自己責任原則の筋をとおしたことが、金融システムへの信頼を回復させたといわれています。アメリカでできたことが、どうして日本でできないのですか。明確な答弁をもとめます。
第二に、中小企業への「貸し渋り対策」ということも、税金投入の口実とされています。
大銀行がやっていることは、「貸し渋り」などという生やさしいものではありません。優良な中小業者からも強引に資金を回収し、一方的な利子の引き上げや担保の積みましを要求し、倒産においこむという、横暴勝手がまかりとおっています。「6000万円の借入金を繰り上げ返済すれば、それを上回る新規融資を出す」と銀行からいわれた中小業者が、必死の金策で資金を工面して返済したら、手のひらをかえすように融資の話をとりけされ、だまし討ちのような形で倒産においこまれたケースも伝えられました。
銀行のもつ公共的役割にてらして、どんな理由があれ、こういう横暴勝手は許されません。現行法でも、資金供給についての報告をもとめ、立ち入り調査をおこない、業務改善命令などの行政措置をとることは可能です。政府は、銀行の横暴勝手をただすどのような実効ある行政指導をおこなっているのですか。形式的な「お願い」をするだけで何一つ有効な手段をとっていないではありませんか。
政府系金融機関の融資の充実は当然ですが、自分の収益のためには中小業者がどんなに苦しんでもかまわないという銀行の横暴勝手にこそメスをいれるべきです。それもやらずに、この問題を税金投入の口実にするなど、絶対に許されるものではありません。
第三に、「金融危機への対潤vを口実に、銀行の資本強化――体力増強のためにも巨額の税金が使われようとしています。東京三菱銀行をはじめ、海外拠点をもつ大手銀行をその対象とする方針がつたえられましたが、なぜ日本一の富をたくわえている銀行にまで税金を使って体力増強か。国民のだれも納得できるものではありません。
日本の金融業界と金融行政が内外から不信をまねいているのは、“体力”ではなく無法な“体質”の問題です。「金融システムの安定」というのなら、一連の金融機関の破綻であかるみにでた、乱脈融資、簿外債務、損失補てん、総会屋や暴力団との癒着などの無法な体質をただし、国民に情報を公開させることこそ急務です。自民党議員への利益供与、道路公団理事や大蔵省金融検査官への接待疑惑、自民党への巨額の政治献金、金融業界への天下りなど、政官財癒着の体質をたちきる改革をはかることこそ急務です。
総理は、こうした体質を異常だと認識していますか。それをただすためにいったいどんな具体的な方策をおもちですか。無法な体質をたださずに、国民の税金で体力を強化することは、銀行業界のいっそうのモラル破綻をまねくだけであり、最悪の“護送船団行政”というほかないではありませんか。
結局、三十兆円の銀行支援の計画とは、一にぎりの巨大銀行に世界的規模で新たな大もうけをさせるために、銀行がみずからつくったバブルの不始末のつけを税金で穴うめし、銀行の当然の責任である預金者保護を税金で肩代わりし、そのうえ税金で大銀行の直接の体力増強まではかってやろうというものではありませんか。
すでに銀行業界には巨額の公的支援がおこなわれています。経済企画庁の試算によっても、超低金利政策のもとで、この六年間で二十八兆六千八百億円もの利子所得が家計から吸い上げられ、その多くが金融機関に移転されました。このうえ、国民の血税をびた一文たりとも使う道理はありません。負担増と低金利で庶民の体力を奪い、大銀行の体力増強に庶民の税金をそそぐ――これほど逆立ちした政治はありません。
日本共産党は、血税を使っての三十兆円の銀行支援という空前の暴挙を撤回することを強くもとめるものです。政府があえてこれを実行したいというのであれば、国民の信を問うべき重大な性格の問題です。景気対策、金融問題について、日本のかじ取りはこれでいいのかを問うために、解散・総選挙によって、国民の審判をあおぐべきであることを強く主張して、質問を終わります。