1998年2月27日「しんぶん赤旗」

志位和夫書記局長の総括質問(上)


日本共産党の志位和夫書記局長が二十五日の衆院予算委員会でおこなった総括質疑のうち、銀行支援、景気対策の部分(大要)を紹介します。


銀行支援

「“国民には巨額負担、銀行は負担減”は通用しない」(志位氏)

法案が成立したからといって、この計画をこのまますすめていいのか

 志位和夫書記局長 日本共産党を代表して橋本総理に質問いたします。

 まずはじめに三十兆円の銀行支援計画についておききしたい。橋本内閣は、国民の多くの反対の声をおしきって、この計画のための関連法案を強行的に成立させました。しかし、私自身も国会冒頭の本会議と、予算委員会のこの場で問題点を究明いたしましたが、なぜ「銀行の破たん処理には税金を使わない」とする公約を反古(ほご)にするのか、なぜ政府も「全体として体力のある」と認めた銀行業界に税金をつぎこむ必要があるのかなど、肝心かなめの問題点については、総理は、国民にたいしていっさいまともな説明をされていないと私は思います。

 法案が成立したからといって、この計画をこのまますすめていいのかが、いま問われています。私は、この計画をすすめるなら、日本の金融業界にあらたな無法をもちこむことは必至となると考えます。総理にいくつかの問題について端的にうかがいたいと思います。

「銀行に追加負担をもとめる」という自民幹事長の発言をどう思うか

 志位 まず一つは、国民には巨額の負担をもとめながら、銀行業界の負担は減らしてやるつもりなのかという問題であります。三十兆円計画の(うち)十七兆円は、二〇〇一年三月末までに預金保険機構に穴があいた場合に、その穴埋めのために使われるわけです。ところが、銀行が払っている預金保険料のうち七分の三にあたる特別保険料の部分は、二〇〇一年三月末までの時限措置でありますから、それ以降は銀行の保険料は大幅に減るわけであります。“国民には巨額負担、銀行は負担減”、こういう事態が起こるわけであります。

 総理は、一月十九日に私とこの委員会でこの問題を議論したさいには、銀行の保険料負担の問題について、「中長期的観点から検討する」としか、おのべになりませんでした。しかしその後、さすがに自民党のなかからも、これでいいのかという見直しの声が起こっているようであります。

 私は先日、民放の討論番組で、自民党の加藤幹事長と討論する機会がありましたが、その場で加藤氏は私にたいして、「特別保険料の期間を二〇〇一年の後も、つづけて集めることも、これから考えるべきだ」、こうのべました。つまり穴があいたら銀行に負担を求めて、そこで穴埋めさせることも考えなきゃならないのではないのかというご発言を、政権党の幹事長の発言としてされたのは、なかなか重大な発言だと私は思います。総理におききしますが、加藤幹事長のようなお考えはありませんか。

 橋本竜太郎首相 まず第一に、これは議員に大変失礼な口ききだが、その番組を私、みておりませんでしたので、幹事長がどういうふうなお返事をしたかは存じません。そのうえで議員が引用されましたことを、けっして疑うのではありません。しかし、いずれにしてもこの保険料の問題、(平成)十年度末までに結論をということにいたしておりますので、その間、十分に検討し結論をえたいと思います。

 志位 これは私の目の前で加藤幹事長がいわれたことですから、間違いのないことなんです。やはり政権党のなかからも銀行に負担増を全然もとめないで、国民にだけ負担増でいいのかという声が起こっているというのは、この計画の道理のなさをしめしていると思います。

 総理、このままいけば恐るべき矛盾が起こりますよ。二〇〇一年三月末まで銀行はバブルでみずからつくった不始末は全部国民に穴埋めさせたあげく、二〇〇一年三月末になったら自分の保険料を大幅に下げてもらう。まるで食い逃げのような事態が起こってしまう。私は、いまからでも“穴があいたら税金で”というやり方ではなくて、銀行業界の負担でことを解決する、この当たり前のルールに立ち戻る。それが大事だということを今後も要求していきたいと、まずのべたいと思います。

贈賄銀行まで税金投入の対象にするのか

 志位 二つ目の問題です。贈賄銀行にまで税金、公的資金を使うのかという問題であります。三十兆円のうちの十三兆円の分というのは、銀行から優先株などを引き受け、体力増強をはかってやるというものであります。全銀協会長の岸氏は、大手銀行はそろって申請する方向だと表明いたしました。

 しかし、都市銀行十行のうち六行、東京三菱、住友、三和、あさひ、第一勧銀、破たんしましたが拓銀、この六つの銀行は、大蔵省汚職に連座した贈賄銀行であります。業界ぐるみで大蔵省の金融検査官を接待づけにして、見返りに情報をえる、脱税工作をやってもらう、金融新商品で便宜をはかってもらう、さまざまな無法のかぎりをつくしたという、そういう大きな汚職問題に発展しているわけであります。総理にうかがいますが、こういう贈賄銀行まで公的資金の投入の対象にするのですか。端的にお答えください。

 首相 まず第一に申しあげたいことは、今回の緊急対策というものが預金者の保護をはかりながら、同時にわが国の経済の動脈、まさにその金融システムにたいする信頼性を一刻もはやく回復をさせ、日本発の金融恐慌を引き起こさない。そうした決意のもとに自由化、国際化にむけた金融システム改革をすすめていく、その基盤をより強固なものにしようとするためのものであるということです。ですから議員はいろいろな角度からお話しになりましたけれど、一つ申しあげなければならないことは、預金者保護が必要になる場合、それは破たんという問題と連結していることです。議員はそこをひじょうにうまくお話しいただきましたけれども、破たんした金融機関は、このシステムで救済される対象ではありません。その場合は、預金者が保護されるわけです。そして、そのうえでわれわれは金融システムを安定させていくために、この資金を活用してまいります。

 そのさいに刑事的にあるいは民事的に責任を追及されるべきは、当然のことながら、司直の手によって裁かれることになるでありましょう。それと、審査委員会(預金保険機構の「金融危機管理審査委員会」)にゆだね、審査委員会がつくる基準とどういうふうになるのか、これは審査委員会におまかせすることでありまして、私がとやかく審査委員会に指図をするような種類の話ではありません。

「審査委員会が判断」は責任逃れの答弁

 志位 預金者保護のためだといって、あなたがたは十七兆円を使おうとしているわけですが、この問題は、一月のこの委員会でもさんざん議論しました。預金者保護は銀行業界の共同責任でやるべきだし、そのための体力は全体として十分にある、この場で銀行局長もお答えになったとおりであります。税金を使ういわれはない。金融システムのためだというけれども、ああいう贈賄銀行のようなやり方、これが金融システムをこわしているわけじゃありませんか。

 私が、贈賄銀行まで公的資金の対象にするのか、ということをおききしたのにたいして、総理は、審査委員会の判断だとおっしゃった。しかし、それは責任逃れの議論です。大蔵大臣は審査委員会のメンバーでしょう。そして審査委員会は全会一致でしょう。ですから総理が、贈賄銀行には公的資金なんてもってのほかだ、これはだめだと決断して大蔵大臣に指示をすれば、入れられないんです。政治の責任を回避してはいけません。総理は、そういう問題についてどういう態度をとるのか。政治家として、内閣の責任者として、どういう態度をとるかが問われているんですから、はっきりお答えください。審査委員会にげたをあずけてはだめですよ。

 首相
 私はずいぶんはっきりお答えをしたと思うのです。まず第一に、司直の手によって裁かれるべき事案、それは刑事であれ、民事であれ、当然のことながら、その裁きを受けるでしょう。審査委員会は審査委員会として、独自の権能において、基準をつくり、判定をされます。私は明確にお答えをしたはずであります。

銀行業界の無法が信用秩序を破壊している

 志位 その審査委員会に政府の代表がはいっている。全会一致で決めなければならない。あなた方の主体的判断をうかがったのにたいして、そのことについて見識もなければ、回答もない。ほんとうに責任のないやり方だと思いますよ。

 では、もう一問ききましょう。審査委員会の佐々波委員長は昨日の報道ででていましたが、「個別銀行の問題と金融システムの問題は、切り離して考える」、こういっております。贈収賄問題と公的資金を入れることは別だという。こんな考えが許されるかどうか、このことについて総理にうかがいたい。

 公的資金の注入の大義名分として、総理がおっしゃっているのは「信用秩序の維持」でしょう。しかし、いったいだれが日本の金融の信用秩序を破壊しているのか。大銀行のルール無視の無法体質ではありませんか。大蔵省を買収して“粉飾検査”をやらせていたことが不良債権の傷口を大きくし、拓銀などの破たんを招き、今日の金融不安をつくりだしたのではないか。今回の贈賄工作にみられた、まさに銀行業界ぐるみの護送船団的な贈賄工作、無法な体質が、日本の信用秩序を破壊しているのです。

 そういう破壊者にたいして、刑事罰を問うのは当然です。しかし、そういう銀行の頭取で、いったいだれが責任をとりましたか。だれも辞めていないじゃないですか。あの贈賄銀行に名をつらねた東京三菱銀行の頭取だって、全銀協の会長にとどまっているではありませんか。だれも責任をとっていない。「不祥事と金融システムは別」という議論は通用しないと思いませんか。お考えをおききしたい。

 首相 私は、本来なら株主の方がたが経営者にたいしてもとめるような問題について、私にもとめられることも、お答えをしづらくするなと思います。そして、司直の手によって裁かれるべきは裁かれると申しあげました。そのうえで審査委員会は、私はその独自性を守るべきものだと思います。いずれの形であれ、これにたいし、私は介入する意思はございません。(審査委員会の)委員長がのべたという見解、議員はこれにつ いて論評を加えられました が、私は委員長としての見識をのべられたものと思います。

計画を強行すれば金融業界にいっそうのモラル破たんをもたらす

 志位 総理は審査委員会の審議に介入する意思はないといわれましたが、人ごとじゃないのですよ。政府の代表もはいっているのですから。介入する意思はないということは、是非の判断すら、責任をもってやらない。責任放棄だといわなければなりません。

 日本の金融業界の信用秩序の維持というとき、問われているのは、銀行の体力じゃありません。体質であります。あなた方はよく(日本の銀行の)海外での資金調達が困難になるという。だから、資本注入が必要だという。しかし、いわゆるジャパンプレミアム、日本の銀行の海外での資金調達が困難になる、この指標がどういうときに上がっているか。過去を調べてみたら、九五年の大和銀行の損失隠し(事件)のときに上がっている。去年十一月の山一証券の簿外債務(問題)のときに上がっている。そして三回目に上がったのが、今回の大蔵省汚職ですよ。まさに無法な体質に海外の不信任が集まっているわけですから、この問題について、きっちりとした見識をもつべきだ。私たちは十三兆円を使うことにも、十七兆円を使うことにも反対ですが、贈賄銀行に資本注入などというのは、国民のだれも納得できる問題ではありません。はっきりとした対応をもとめていきたい。

 私は、この三十兆円の計画を強行するならば、「金融システムの安定」どころか、金融業界と金融行政にいっそうひどいモラル破たんをもたらすと思います。国民はゆえなき負担増を押しつけられ、財政破たんは加速するでしょう。私は、このことをこの場で強く警告しておきたいし、私たちは今後ともこの計画の中止を求め、日本にほんとうにまともな、金融業界の民主的なルールをうち立てていくために、力をつくしていきたいと思います。

景気対策

「9兆円負担増の誤りを認めよ」(志位氏)

個人消費落ち込みの原因が9兆円負担増であることを認めるか

 志位 つぎに、景気対策に移りたいと思います。この問題でまず第一にただしたいのは、総理が今日の不況の深刻化の原因と責任を、どう認識されているかという問題です。

 不況は昨年の四月以降、いちだんと深刻化、悪化の道をたどっております。そのもっとも重大な特質が消費不況にあることは、だれも否定できない事実だと思います。総務庁の家計調査を見ますと、四月〜十二月で比較して、九七年度の実質個人消費は、九六年度に比べてマイナス一・二%落ち込んでおります。勤労者世帯の平均で三万八千円も落ち込みました。国内総生産の六割を占める個人消費が、凍りついた状態にあるわけです。これが最大の問題です。

 これが何によってもたらされたか。その直接の原因が、消費税増税をはじめとする九兆円の負担増にあったことは明らかだと思います。個人消費の落ち込みの直接の原因が九兆円負担増にあることを、総理はまず事実の問題としてお認めになりますか。これは一月十三日の衆議院の本会議での私の質問、二月十九日の本会議でのわが党の不破委員長の質問にたいして、総理から納得のいくお答えがきかれませんでしたので、はっきりこの場でお答え願いたい。

 首相
 私、なんべんか同じ問題について議員をはじめ御党のみなさんからご質問を受け、同じように繰り返しお答えをしてきたと思います。そしていままた同じことを申しあげる結果になるのかなと思いますけれど、消費税の税率の引き上げの前三カ月における駆け込み需要、そして四月〜六月における影響、落ち込みというものを多少甘く見ていたということはすでに国会で申しあげてきました。しかし夏以降、秋に向かってこれが戻していくという考え方をとっておりましたのが、七月のバーツ(タイの通貨)危機以降の状況、さらにはわが国の秋以降の金融機関の破たんといった問題が大きく影響していることも、すでに国 会で申しあげてきております。

実質可処分所得を奪ったことが消費支出落ち込みの原因

 志位 結局、総理の答弁は、予想以上に駆け込み需要の反動減があったということ、これが一点。それから予期しえなかったアジアの通貨危機と金融不安が起こった、これが二つ目。両方とも主として予想しえなかった事態によって、いまの事態が起こっている。これが答弁だと思うんですね。

 はたしてそうでしょうか。消費がなぜ冷え込んでいるのか。私はその最大の原因は実質可処分所得の落ち込み、すなわち所得から税や社会保険料を差し引いた手取りの所得が、実質ベースで落ち込んでいるところにあると思います。所得税増税によって可処分所得が奪われたうえに、消費税の増税によって物価が強制的に引き上げられたことで、可処分所得が実質的に押し下げられました。とくに消費税の増税は毎日の売り買いの現場に直接ひびくわけですから、消費支出に直接のブレーキをかける、もっとも深刻な影響をもたらしました。

 (パネルAをしめす)これをご覧いただきたいのですが、これは総務庁の家計調査報告からつくったパネルであります。赤い棒は実質可処分所得の状況ですが、九五年、九六年と〇・七%、一・五%と弱よわしいけれども伸びていた。それが九七年度四月〜十二月期で計算してみましたらマイナス〇・七%、これだけ落ち込んでいるのです。青い棒は実質消費支出の推移ですが、九五年、九六年と〇・二%、〇・六%の伸び、これもわずかな伸びです。それが九七年度にはさきほどいったようにマイナス一・二%落ち込んだ。この相関関係は明りょうではありませんか。

 実質可処分所得、これがまさに大きく落ち込んだことが消費支出を落ち込ませた。九兆円負担増が所得を奪い、所得を奪ったことが消費の冷え込みにつながっている。

 これは私だけが指摘している問題ではありません。最近の『エコノミスト』誌にさくら総研の主任研究員の方が論文を書いておりますが、ここでも実質可処分所得がマイナスに落ち込むということを指摘し、「消費不振の理由は、あいまいな『消費者マインド』という概念をもちださなくても、可処分所得の異例な低さによって説明可能である」。これが事実に即した見方だと思いますが、総理、いかがでしょう。(経済企画庁長官が答弁席に向かう)総理にうかがっているんです。総理どうぞ。

 尾身経済企画庁長官 
消費低迷の原因ですが、さきほどのご議論のとおり、消費税の引き上げにともなう駆け込み需要、およびその反動減があったという点が第一点です。また、アジアの問題、それから金融機関等の破たんがあったことも原因でございます。実質可処分所得の問題と消費の問題はどちらが卵か鶏かという問題もあろうかと思いますが、基本的には消費者の懐は千二百兆円の個人金融資産にも見られますように、そこそこ豊かでございます。しかしながら、その消費が思ったほど伸びていないのは、経済の将来にたいする不安感、たとえて申しますと、会社は順調にいっているけれども、しかし、いくつかの大きな金融機関、思ってもみなかったような金融機関も破たんをするような現状のもとにおいて、自分の家計を支えているご主人の会社は大丈夫かな、というような意味での将来にたいする不安感というものが、そうとう程度、財布のひもを固くしたのではないか、と考えているしだいです。

 そういう意味で、ひとつは金融システムの安定化を図る、そしてその点についてのコンフィデンス(信頼)を回復していただくということと、全体の規制緩和やあるいは所得減税その他、税制、減税を含めた予算を順調に、予定どおり通していただくことにより「経済全体が順調にいくな」という信頼感を回復することが、何より大事であると考えているしだいでございます。

「卵か鶏か」ではない。政府の報告書でも認めていること

 志位 庶民の懐は、そこそこ豊かといわれましたが、まさに財布の中身を奪ったのです。財布の中身を奪ったこと、所得を落ち込ませたことが消費を冷え込ませた。それはあなたがたの政策で奪ったのですよ。将来の不安というけれども、あとで議論しますが、社会保障の切り捨て、どの問題をとったって、将来の不安をつくりだしているのは、あなたがたではないか。私がきいたことにあなたは答えていない。九兆円の負担増が所得を落ち込ませ、そのことが消費を冷え込ませた。この問題に答えていない。どちらが卵か鶏かなどと、わからないようなことをいっている。(笑い)

 しかし、ここにもってきましたが、経済企画庁の「平成九年経済の回顧と課題」には、なんと書いてあるか、知ってますか。ここでは個人消費が「足踏み状態」にある要因として、こういってます。「消費税率引上げ及び所得税等の特別減税の終了、社会保険料率の引上げ等の各種施策が家計の実質可処分所得を抑制したこと」。自分たちでいっているじゃありませんか。この報告書では、消費税増税などの負担増政策が、合計で家計の実質可処分所得を八・六兆円奪ったと、はっきりそういう試算までやっています。そしてこういってます。「国民負担の増大等が実質可処分所得を抑制しており、消費を足踏み状態としている」。ここに消費の落ち込みの主要な原因があると書いてあるじゃありませんか。あなたの役所で出している報告書ですよ。私は、こんな経済企画庁長官にきいたってしようがないと思う。総理にきいているんです。

 個人消費の冷え込みというのは、実質可処分所得の落ち込みの結果であって、実質可処分所得を奪ったのは、ほかならぬ橋本内閣による九兆円の負担増の政策なんです。このことは、いまや、公式の政府の報告書でも認めていることですから、総理、これは事実関係として、きちんとお認めになっていただきたい。

 首相
 先ほど議員とわが党の加藤幹事長が、あるテレビで対談をした、それが御党「赤旗」に掲載されているその切り抜きを、その論議のプロセスを目を通しました。そのなかでも、議員が同じような議論を展開しておられる。その記事によりますと、幹事長は、はっきりしたお答えをしめさなかった。「多少の影響はあるかもしれない」といういい方をしたと書かれておりました。間違いないですね。私のいってること。

 志位 (加藤氏は)多少はあったと(いった)。

 首相 はい。私も、同様にお答えさせていただきます。(笑い)

「予期できなかった」ですまされない──誤り認めなければ対策も方向違いになる

 志位 多少あったんじゃないんですよ。経済企画庁のこのリポートでも主な要因として、まさにその問題を指摘しています。ここでは、消費の落ち込みとして、三つのことをあげています。駆け込み需要の反動減が一つ。しかし、これは一時的な要因です。二番目が、いまの実質可処分所得の落ち込み。三番目に総理がいわれる景況感の厳しさ、消費マインドの冷え込みということをあげていますが、それは、消費の冷え込みに影響を与えている「可能性がある」と、副次的な要因としていっているだけなんです。主要な要因は、九兆円負担増の政策が所得を奪った、ここにあるということを、ここでもいっているんです。

 私は、いま起こっていることは「予期しえなかった」と、責任逃れしてすむような問題ではないと思います。九兆円負担増をかぶせれば、こういう結果になることは、はじめからわかっていた問題であります。そのことを私は、昨年二月の国会のこの委員会の質疑で、総理にたいして警告しました。個人消費の回復の著しい遅れがみられること、とりわけ勤労者の可処分所得が伸び悩んでいることを事実に即して指摘し、こういうもとで、九兆円の負担増をかぶせれば、必ず家計は底割れする。このことを総務庁の家計調査にもとづいた試算をしめして警告いたしました。

【パネルB】
 これは、去年(予算委員会の質疑で)使ったパネル(パネルB)なんですが、ご覧になっていただきたい。青い棒は、可処分所得の伸び率が、いかに伸び悩んでいるかということです。下に伸びている棒は、九兆円負担増による影響です。この表を見たときに、総理は、覚えていらっしゃると思うけれども「ひとつの見識として受けとめる」とおっしゃいましたよ。このとおりになったじゃありませんか。家計の底割れが起こった。これは、あなたがたの政策の失敗なんです。失敗を認めないと景気対策はできません。方向違いの対策しかできませんよ。これは間違っていた、九兆円負担増は間違っていたと、はっきりお認めになるべきです。

 首相 これはふまじめと、とられると困るんですが、いま、去年のパネルそのままだといわれましたが、新しいパネルをつくっていただければ、それだけでも消費がふえたなというぐらいの感じがいたしました、率直に申しあげて。(志位「まじめに答えなさい」)ふざけていると思われても困るなと思いながらと、いま申しあげましたが。

 というのは、いま、ご質問をうかがいながら幹事長と議員のご論議のようすが紹介されています、そのテレビ番組の要約に目をとおしておったからであります。そして、私は、いま先ほど申しあげましたように、その影響はまったくないなんていいはるつもりはありません。しかし同時に先行していた減税にたいし、どこかで財源をきちんと整備をしなければならないなかで、消費税の税率を引き上げなければならなかったこと、当時、税制調査会におられた方がたのご論議をよくご記憶でありましょう。あるいは確かに将来にわたって、国民の暮らしのセーフティー・ネットワークとしての社会保障を構築していくうえで、その見直しに着手をするタイミングを昨年にもとめました。

 たしかに、私は四月以降、バーツから始まりましたアジアの危機を予測していたわけではありません。また、大型金融機関のなかで、しかもばく大な簿外債務が隠されていたというような状況を想定していたわけではありません。そうした結果、金融不安がシステム安定化策を用意しなければならないような状況になることを想定していたわけではありません。ですから、おしかりは甘受いたしますが、同時に、きちんとお願いをすべきときには国民にお願いをするのも責任ではないかと私は思います。 所得の低い層の消費の落ち込みがより激しい。

 志位 結局、これだけ理をつくしてただしても、事実にてらしてただしても、誤りを認められない。多少影響があったという程度のことで、国民みんなが実感している、九兆円の負担増が消費の落ち込みをもたらしたということを、(首相「これでしょう」とのべて、志位氏と加藤氏のテレビ討論を報道した「しんぶん赤旗」の切り抜きをしめす)それがそのときの記録ですが、これだけ理をつくして私がただしても誤りをお認めにならない。そういうことではつぎの方向性がでてこないと思います。

 さきほど総理は、先行減税のためだといいましたけれども、先行減税、所得税の減税、それと消費税(増税)でネットで、差し引きサラリーマン世帯の九割は増税です。差し引き増税ですよ。ですから、先行減税をやっても、所得の力など全然うまれてこないのです。ですから、消費は実際に冷え込んだのです。将来の高齢化のためといったけれども、年金だって介護だって医療だって、負担増のプランしかしめしていないじゃありませんか。

所得の低い層の消費の落ち込みがより激しい

 私がこれだけ理をつくしても、消費税が上がったから商売が大変だし、景気が冷え込んでいる、この事実すら認めないで、もっぱらアジアの問題だ、金融の問題だという。これが全然、影響がないと私はいいませんが、“そっちのほうが主要で、私は責任ないよ”という態度では、私はだめだと思います。

 もう一ついいますと、この九兆円の負担増というのは、個人消費を全体として大きく落ち込ませただけではありません。消費税の増税は、総理もよくご存じだと思いますが、所得の低い層に重くのしかかります。そのもとで、国民の消費動向を所得階層別に見ると、所得の低い層に、著しい消費支出の落ち込みが見られるのが特徴です。

(パネルCをしめす)これは簡単なパネルですが、新しいものであります。消費がいかに落ち込んでいるかという問題について、世帯の平均と、低い所得層の比較であります。赤い棒は全世帯平均の落ち込み、九六年度と九七年度の比較でマイナス一・二%、さきほどいった数字であります。世帯を五分位にわけて第一分位、これは青い棒でありますが、一番所得の低い層、ここの落ち込みは一・七%マイナス、それからつぎに所得の低い第二分位は、一・八%マイナスです。総理、いまの消費不況のなかで、所得の低い層ほど消費の落ち込みは激しい。この事実はお認めになりますか。こういうご認識はありますか。第一分位、第二分位の方が消費の落ち込みが激しい。どうですか。

 首相 いまおしめしいただいた表は、またおしかり受けるかもしれませんけれど、第一分位の方が第二分位よりもパーセンテージ、マイナスは少ないのじゃないでしょうか。ただ、全世帯との論議であれば、私はいまの議員のご指摘をそのとおりに受けます。

9兆円負担増がもたらした3つのマイナス消費税を3%にもどす緊急措置を

 志位 これは事実の問題です。確かに、第二分位の方が少し消費の落ち込み方は激しいけれども、一分位、二分位という比較的平均よりも低い層が、消費の全体の冷え込みを引っ張っているという事実はご確認願いたい。

 それから、消費税の増税が打撃を与えたもう一つの重大な分野は、中小企業であります。消費税の増税というのは、いま不況にあえいでいる中小業者のみなさんに二重に追いうちをかけるものになりました。一つは、個人消費の落ち込みというのは、いちばん中小企業の経営に深刻に響く、これ自体響くという問題です。いま一つの問題は、税率引き上げ分を販売価格に転嫁できないで、業者のみなさんが自腹を切って負担している、こういう実態があるという問題です。

(パネルDをしめす)これはもう一枚のパネルですが、これは中小企業庁と通産省がおこなった調査を、パネルにしたものです。最近のものであります。中小企業全体でみまして、消費税を「転嫁せず」、「ある程度転嫁している」、ある程度転嫁というのは一部負担という意味ですが、それが二四・一%です。そのうち小売業は三一・四%。そのうちサービス業は三八・一%。二割から四割弱の業者の方が、消費税を転嫁しきれないで、自腹を切って税金を払っています。 最近、ある報道で、飲食店を経営されている方が、売り上げ半減で赤字経営のうえ、税務署から消費税の督促を厳しく受けて自殺に追い込まれたという痛ましい話も報道されました。そういう状況に置かれています。

 ですから総理、九兆円負担増は何をもたらしたか。少なくとも事実で、三つのことは確認できると私は思います。

 第一は、勤労者の実質可処分所得を押し下げ、個人消費を冷え込ませたという問題。

 第二は、とくに所得の低い層の消費を直撃し、それが全体を押し下げたという問題。

 そして第三は、中小企業は個人消費の冷え込みのうえに、消費税の税率引き上げ分が転嫁できないという二重の打撃を受けたという問題です。

 これらは事実の問題として、だれも否定することができない問題だと思います。九兆円負担増がもたらしたこういうマイナスの影響、これを取り除く対策、とくに冷え込んだ個人消費を直接あたためる対策がどうしても必要だ、私はそう思います。

 そのためには、所得減税の恒久化とともに、消費税の税率を、私たちは廃止を目標にしておりますが、景気対策として、三%に戻す緊急措置を取ることがどうしても必要だと考えます。それ以外に九兆円負担増がもたらした不況の深刻化の泥沼から脱出する方法はほかにはない。少なくとも緊急対策として、これは手をうたなければ、ほかに景気をもちあげる方法はないと考えますが、総理の見解をうかがいたいと思います。

 首相 
消費税率を、地方消費税分一%を含めまして、五%への引き上げは、議員よくご承知のことでありますけれども、平成七年度から先行実施をいたしました所得税、個人住民税の恒久減税の規模を踏まえるほかに、老人介護対策などの充実に要するその財源等も考慮し、国民にお願いをする消費税の負担をぎりぎりのものとする、そうした観点から平成六年の秋に法定をし、平成九年四月から実施されました。この増減税一体の税制改革が、高齢化の進展という、わが国の構造変化に税制面から対応しようとするもので、わが国の将来にとって極めて重要な改革であったと考えております。

 いま議員は、消費税を、自分たちとしては本来はゼロだと(のべました)。しかし三%に戻せというご指摘をいただきましたが、私は消費税率の引き下げが、いま考えていられる状況ではないと思います。

失政をあらためる意思も展望もない政府に、
日本経済のかじ取りはまかせられない

 志位 高齢化の進展のためだということをおっしゃられるので、この問題は次のテーマとして議論してみたいと思います。

 私は、景気対策として橋本内閣が向いている方向性、根本的に向いてる方向が間違っているのではないか、こういわざるをえません。もっとも切実にてこ入れがもとめられている個人消費、これがあれだけ冷え込んで落ち込んでいる、家計消費が凍りついているにもかかわらず、それをあたためるための本格的な対策はまともなものはとらない。てこ入れしているのはもっぱら三十兆円の銀行支援、あるいはこんどの予算案でも法人税の減税や土地や株の減税など、おもに大企業のうるおう七千億円の減税です。こっちのほうはどんどん金の糸目をつけずにだすけれども、かんじんのいちばん冷え込んでいる庶民の懐をあたためるための対策はとらない。これでは、私は不況からの脱出、泥沼からの脱出はできないと思います。

 私はきょう、景気の問題について、るるお話をしてきましたが、これだけ明白な経済政策の失敗を認めず、誤った政策をあらためる意思も、能力も、展望もしめさない政府には、私は日本経済のかじ取りはまかせられないなということを強く感じたしだいであります。



著作権:日本共産党中央委員会