2001年7月25日(水)「しんぶん赤旗」

CS放送朝日ニュースター 志位委員長語る

参院選の手ごたえ、小泉外交の問題点などについて

 日本共産党の志位和夫委員長は、参院選遊説の合間をぬって、二十三日放映のCS放送「朝日ニュースター」の番組「各党はいま」に出演し、選挙戦の手ごたえや小泉外交の問題点などについて、星浩朝日新聞編集委員の質問に答えました。(なお、番組は七月十九日に収録されました)


痛み押しつける「改革」に対決し、暮らしと平和守るわが党の姿勢に熱い反応が

 冒頭、星氏が「参院選の手ごたえ」について質問。志位氏は、つぎのように語りました。

 志位 たいへん熱い反応が返ってきますね。とくに、私たちは、小泉「改革」は、国民に耐えがたい痛みを押しつける―倒産と失業、社会保障の切り捨て、増税、こういう痛みを押しつける「改革」で、日本の経済も危うくしてしまうとずっと訴えつづけてきたのですが、この「痛み」という問題が選挙戦のなかで大きな問題として浮上してきたと思うのです。

 小泉内閣の支持率も下がりはじめたのですけれども、小泉さんに期待しているという方も含めて、「痛みに耐えられますか」という問いには、もう半分ぐらいの方が「これはもうムリです」という世論になっていますね。

 そのなかで、ほんとうの意味で国民の暮らしを守り、平和を守る立場からの新しい政治をおこそうという共産党の「日本改革」の提案が光り始めているという状況になってきていると思うので、最終盤、どれだけ(訴えを)広げられるかの勝負だと思っています。

 そのうえで志位氏は、今回の選挙を「日本改革選挙」と名づけ、国民の立場で自民党政治をおおもとから転換する―三つの転換を訴えてきたことを説明。「大きな手ごたえを感じている」とのべました。

小泉政治は自民党政治もっとひどくする――「不良債権の最終処理」は大倒産、大失業を強いるものに

  小泉政権ができたときに、野党の一部もメディアの一部も、“小泉さんはイエスだけれども、自民党はノー”と、なんとなく小泉改革にたいする期待があったが、共産党は早くから小泉さんもノーということだったと思うのですけれども。

 志位 小泉「改革」といわれているものは、これまで自民党がやってきた政治の延長上にあるものですし、それをもっとひどくするものなのですよ。

 九〇年代に自民党がやってきた政治というのは、ゼネコンと大銀行をいかに応援するかの政治でしょう。そして、国民の暮らしをいかに痛めつけるかの政治でしょう。

 今度、小泉さんの「構造改革」の名でやられている政治も、たとえば、「不良債権の最終処理」は実際には中小企業を何十万という規模でつぶしてしまう、つまり大倒産、大失業を国民に強いるものですから、たいへんな国民いじめです。

 なんのためにやるかといいましたら、「骨太方針」のなかにもはっきり書いてありますが、「大銀行の収益性」をあげるためだと。銀行のもうけ口をつくってやるために中小企業を国策としてつぶす話ですから、これもいままで自民党がやってきた政治のまさに延長上にあって、それをもっとひどい形ですすめるのが小泉さんの政治です。

 私たちは、その点をはっきり最初から見て、厳しく批判をし、きっぱり対決をしてきましたが、これはいまずいぶん国民のみなさんのなかに広がってきていると思います。

消費税減税、雇用の拡大で景気を草の根からあたため、不況打開をよびかける

  痛みの話ですが、小泉さん、あるいは竹中経済財政担当相は「ここで痛みを甘受しないと、将来もっと大きな痛みがくるからがんばろう」という理屈で、ある程度の理解が広がった時期もあったわけですが、これにはどういうふうに反論されているわけですか。

 志位 まず、痛みそのものが耐えられるような限界をこえた痛みだということです。

 たとえば数十万という規模の中小企業の倒産は、いま不況のなかで倒産が増えて、それでも年間一万九千件ぐらいでしょう。十年分、二十年分という倒産を一気に引き起こすという話ですから、到底耐えられる痛みの限界をこえている。これ以上何を耐えろというのか、という点が一つですね。

 それから、いま「構造改革」という名前でやられようとしていることは、すべて家計を直撃するのです。消費を冷え込ませ、景気全体を悪くする。景気を悪くしたら、そこで新しい不良債権が生まれてくる。ほんとうに終わりなき不良債権処理になって、ここにも悪循環が起こるわけですね。その悪循環をいかに断ち切るかが政治の責任です。

 私たちは、いまの経済のなかで一番冷え込んでいるのは、経済の六割を占める消費ですから、これを直接あたためる対策を―さきほどいったような消費税の減税はじめ、しっかりとっていく。雇用の拡大も、労働時間を短縮して雇用を増やすという、ワークシェアリングという方式を本格的にとっていく。そのことによって、景気を草の根からあたためて事態を打開していこう。これしかないのですね。

青天井の国民負担生む医療費の総額抑制――医療制度そのものが崩れる

 さらに、志位氏は社会保障分野での「痛み」の具体論についても、つぎのように指摘しました。

 志位 もう一つ、社会保障の「構造改革」というのは、結局、社会保障を「自立・自助」にしてしまう、国の責任を放棄するという方向です。

 たとえば、医療費の問題でも、「骨太方針」のなかに医療費の総額抑制という方針が入りました。この前の党首討論でも、私ははっきり反対しましたけれども、自民党も民主党も結構だという方向でした。

 (これは)結局、その年の医療費の上限を決めてしまって、それをこえたら全額自己負担にして、保険の適用外にするという方向の話です。この間、お年寄りの医療費もどんどん値上げされた、サラリーマンの医療費も値上げされた、それで受診抑制が起こってたいへんになっているのに、さらに、青天井の負担増を求めるということになります。

 こんなことをやったら、国民的な規模で健康悪化がすすんで、医療費がもっとかかって、医療制度そのものの土台が崩れる。ここでも悪循環が生まれますね。

「小泉不況」――景気の悪化を認めながら景気対策の方針なし

  ここにきて、小泉さんは「構造改革なくして景気回復なし」ということだったのですけれども、肝心の景気の方が失速しはじめてきて非常に深刻な状況になってきているのですけれど…。

 志位 これはもう、小泉不況と呼んでもいい状況だと思いますね。

 これだけ不景気がひどくなって、政府自身も「景気の悪化」を認めざるをえなくなっているのに、景気対策のなんの方針もないわけですよ。つまり、景気対策はもうやめてしまったのだというのが、いまの政府の方策ですから、どんどん景気の実態は悪くなりますね。

 株というのは、将来の景気の先行きが悪ければ下がるわけですよね。ほんとうに深刻な事態であって、与党のなかからも、また補正予算を組むとか、このままだとたいへんだという声がずいぶん広がらざるをえないという状況です。

 (ここで志位氏は景気対策で「与党のなかからでてくる発想は、だいたい二つある」として、金融緩和策と公共事業の積み増し策を批判。前者はもう十分すぎるほど金融緩和をやっており、日銀総裁も“水ばかりまいても植物は育たない”というように、金は余っているのに借り手がないなかで、金融緩和をやっても意味がないと指摘しました。また、政策的にインフレにするという主張も「たいへんな悪性インフレになる」とのべました。後者については、九〇年代に合計七十六兆円の積み増しをやって、全然効果があがらず、借金だけが残ったと指摘し、「話にならない愚策」だと批判しました)

 志位 そうすると(与党には)手がないわけですよ。ですから、私たちがいっているように、家計を温める(しか方法がない)。私たちは消費税の問題、雇用の問題、社会保障の問題、家計をあたためて景気をよくすると(主張していますが)、そこに転換しないと、ほんとうに脱出する道がないというところまで、景気はきていますね。

京都議定書問題――アメリカの横暴になにもいえない日本政府

  国内も景気を含めて低迷が深まっているのですけれど、国外に目を転じますと、問題が山積し解決の方向がみえないわけです。とくに(地球温暖化防止の)京都議定書の問題は非常に大きい。これについて小泉さん、どうも歯切れが悪い。アメリカと(欧州との)橋渡しといってもそう簡単にできるかなという気がするのですが…。

 志位 そうですね。

  世界中のNGO(非政府組織)はこれにたいして非常に目を光らせて日本にたいして非常に落胆しているという気がします。これはどうみておられますか。

 志位 いま、ボンで地球温暖化防止の国際会議をやっていますが、そこにきた世界のNGOのグループが「今日の化石賞」というのを、日本におくった。つまり、地球温暖化防止の努力に一番逆行しているのが日本だと、一番の悪役にされてしまったところまで恥ずかしい外交になっていますね。

 もともと京都議定書というのは、九七年に締結されたときにはアメリカも合意してつくったものなのです。アメリカのずいぶん無理難題な要求もいれて、やっと十年越しの議論をまとめた。そしてアメリカもいったんはサインしたものなのです。それをブッシュ大統領になって一方的に離脱宣言をやるということは、だれがどう考えても、国際信義違反、国際ルール違反なんですね。フランスのシラク大統領も「これは許しがたい挑戦だ」というわけです。

 ところが、小泉さんが訪米してブッシュさんにあっても、アメリカの横紙破りのやり方にたいして一言も批判しないわけでしょう。一言も批判しないで日米で協議しましょうということになったら、これは京都議定書つぶしに動いた、京都議定書を葬るために日米同盟を結んだといわれても仕方ない動きになるわけです。アメリカが一国で横暴を振るったときになにもいえない日本、これが一番の問題ですね。

 私は今からでも、日本が率先してしっかり批准する、そうすれば議定書が発効するわけですから、そのうえでアメリカをいかに枠組みのなかに組み入れるかという努力をやることこそ、議長国の務めだと思いますね。

 また、「アメリカを巻き込まないと実効性がない」という政府の言い分について、志位氏は「いま(議定書を)否定しているものを、批判もしないでズルズル待っていても、京都議定書そのものが発効しなければ、全部ご破算になってしまうわけです」と指摘。アメリカを最後には組み入れるためにも日本がきっぱり批准し、そのうえでアメリカをきびしく説得し、国際的世論で包囲していくというのが「唯一の道だ」と強調しました。

沖縄米軍婦女暴行――地位協定の改定は当然だが、基地縮小・撤去が大事

  アメリカとの関係ですが、また沖縄で婦女暴行事件があり、地位協定の問題が出ています。政府は相変わらず、地位協定の運用改善をやっていけばいいということなのですが、沖縄を中心に反発が出ています。

 志位 運用改善というのは九五年に、少女の事件があって、そのときに地位協定改定の声が澎湃(ほうはい)として沸き起こったのにたいして(できたものです)。

 ああいう(凶悪)犯罪が起こったときに米側の「好意的考慮」によって引き渡すこともあるというもので、あくまでもアメリカ側の意思によるのです。こんな屈辱的なことはないわけで、日本にたいし、アメリカが恩恵をほどこしてやるということです。犯罪をしておいて、こういう運用改善でお茶を濁すというのは許されない話です。私たちは、地位協定の抜本改定は当然だと思います。

 ただ、地位協定を改定したら犯罪はなくなるかといえば、そうならないのですね。基地がある限り犯罪はなくならない。とくに、沖縄の基地、日本の基地は、世界で一番性犯罪の率が高いのです。ヘイルストンという沖縄の海兵隊司令官が沖縄県民にたいして「バカな弱虫」と暴言をはいて問題になりましたけれども、要するに占領者意識が抜けないのです。そういう軍隊だったらとっととアメリカに帰ってほしい、という声を広げたいと思いますね。

教科書問題――侵略戦争を正しい戦争と教えられたら日本の将来はどうなるのか

  われわれの新聞で小泉外交を「脱亜入米」という表現を使ったんですが、アメリカとはいい関係ですけれど、アジアとの関係は非常にまずくなっていますね。そのなかで教科書問題、国内問題と外交問題がからんでいますが、これはどういう位置付けですか。

 志位 これは、八二年に教科書問題が起こったときに、当時の内閣官房長官談話があり、教科書検定の際の近隣諸国条項というのが入り、きちんと侵略や植民地支配の反省をふまえたものにするというのが国際公約ですから、国際的にも問題になるのは当然のことなのですね。

 私たち、中国や韓国のみなさんが批判するのは当然なんだけれど、それだから問題だというだけにすまない大問題だと思うんですよ。

 あの「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書はおそろしいことが書いてあって、たとえば太平洋戦争の呼称を「大東亜戦争」と呼んでいますね。「大東亜戦争」という呼び名は、真珠湾攻撃の直後に当時の政府・軍部が決めた呼称で、要するに“この戦争は日本の自存自衛とアジア解放と日本を盟主とした大東亜共栄圏をつくることが戦争目的である”、それを簡潔直截に示す表現が「大東亜戦争」という呼称なんですね。

 これを堂々とあの教科書には書いてあって、全体のトーンも、正義の戦争、立派な戦争だったという描き方をしているわけですね。ですから、もしもそういう教科書で教え込まれたら、子どもたちが間違った戦争を正しい戦争だと思いこんでしまったら、これは日本の未来にとってもたいへん深刻な禍根を残す事態になると思いますし、だからこそ周辺諸国も心配しているのは当然なんですね。

 こんな教科書を検定合格させた責任は重いわけで、いまからでも合格取り消しの措置をきちんととる。そして、植民地支配や侵略戦争にたいする反省を内外に明らかにしてこそ、アジアのみなさんと心の通った関係をつくれるわけですから、私はそういう関係をつくれる政府じゃないとほんとうにダメだと思いますね。

靖国参拝――どんな形をとろうと首相が参拝するのは、侵略戦争への美化につながる

  もう一つ、アジア外交との関係でいえば、小泉さんは八月十五日にはなんとしても靖国神社にいくといっていますけれども、この参拝問題も中国、韓国が態度を硬化させていますね。

 志位 靖国神社に参拝するというのが、戦争の犠牲者にたいする一般的な追悼という問題とは全然次元を異にする深刻な問題だという認識が小泉さんにないですね。

 つまり、靖国神社というのは戦前、軍が所轄した軍事的な宗教施設だったわけで、天皇のために「名誉の戦死」をした人を「英霊」としてまつるという神社だったんですよね。ですから特別な人しか入れなかったわけですよ。そのことが軍国主義を推進する精神的な推進力になった。

 それに、戦後A級戦犯が合祀(ごうし)されたという問題も加わって、そういうところに内閣総理大臣が参拝するというのは、どんな形をとろうと、どんなごまかしをやろうと、侵略戦争への賛美、美化になるというのはだれが考えても明らかなんで、これはきっぱりやめるべきだと思いますね。

小泉外交――アメリカのやることはなんでも結構といい、アジアには心を寄せないのが特徴

  どうもアメリカとの関係、アジアとの関係が非常におかしくなった小泉外交全体のしきりをどうみますか。

 志位 おっしゃるとおり、(小泉さんは)自分でも「私ほど親米派はいない」というほどの親米派を自認する人で―もちろんアメリカ国民と仲良くすることは私たちも望んでいるんだけれども、アメリカ政府のやることはなんでも結構だと、京都議定書もいいなりになってくる、それからミサイル防衛も理解を示す、集団的自衛権も相手がいってくれば研究しましょうという。

 ほんとうにアメリカのことはなんでもいいなりで、「聖域なき改革」というけれど、アメリカいいなりだけは聖域中の聖域にしているような政権の姿が一方にある。

 アジアにたいしては、アジアの方々の気持ちというのをおよそ考えない、およそ、そこにたいしては心を寄せて考える気持ちがない。気持ちを逆なでしても気にも留めないということが、歴史教科書、靖国で起こっていますね。

 こういうやり方でいきますと、日本はアジアのなかでほんとうに孤児になってしまうし、アメリカとの関係でもほんとうの意味での友好関係はつくれない。私は対等平等であってこそ、アメリカとの友好関係はほんとうにつくれると思いますし、アメリカとの友好関係をちゃんとつくってこそ、アジアとの関係もやっぱり友好になるんですね。

 私たちはアジアともアメリカともほんとうの友好(関係)をつくれる日本をめざしていますけれど、両方に反しているのが小泉外交ですね。

自公と民主のヤミ連合――民主が自公連合に吸収されていくことになりかねない

  いつも選挙最終盤になってくると、公明党と共産党の激しい対立があるのですけれど、今回もお互いの機関紙などみていますと、公明党、たとえばある場所では共産党候補を落とすために民主党を応援したりしていることもあったり、熱を帯びているのですが…。

 志位 公明党が一部で異常な動きをしているというふうに伝えられました。これは、新聞報道でも伝えられて、関係者の発言もあったので、私たちは公然と批判をしているわけです。公明党はともかくも与党なのに野党である民主党に塩を送る。民主党はともかくも野党なのに、与党である公明党からの票を期待する。こういう関係です。

 これがいくつかの選挙区でやられようとしている。ほんとうに、私は驚くべきやり方だと思うのです。

 民主党が、こういうやり方のなかで、もし当選した場合、いったいどういう立場で国会活動をやるのかということが問われてきますし、ある意味で自公連合に民主党が吸収されていくということにもなる。

 私たちはそういうフェアでないやり方については、きちんと正面から問題にしていきたいと思っています。

 このあと、参院選後の国会や政局への対応、衆院の解散問題などがとりあげられ、それぞれ簡潔に答えつつ、最後に志位氏は「私たちは、日本共産党の躍進を大いに期して、最後までがんばりますが、日本共産党の前進の度合いが政治に大きな影響を与えることもまちがいない」とのべました。