2001年8月31日(金)「しんぶん赤旗」

志位委員長の会見

雇用対策について


 日本共産党の志位和夫委員長が三十日の記者会見で、雇用対策について述べた部分は次のとおりです。


 失業率が5・0%という重大な事態になって、雇用問題が深刻な社会問題、政治問題になっている。小泉首相は、「失業者が増えるのはやむをえない」「改革の生みの苦しみだ」とする姿勢をとっているが、これだけ急激に雇用問題が悪化するもとで、これに胸を痛めず、当然視するという姿勢は許すことのできないものだ。

 そういう姿勢での小手先の「対応」ではなく、本腰を入れた雇用対策が政治にもとめられた責任だ。私たちは、つぎの三つの角度からの抜本的対策が、いま必要だと考える。

新たな失業者をつくらない政策への転換――日本でもリストラ規制のルールを

 第一は、新たな失業者をつくらない政策への転換だ。とくに大企業のリストラを応援する政治から、リストラを抑えるルールをつくる政治への転換が、たいへん重要になっている。

 この間、自民党政治がすすめてきた、「産業再生法」などによる大企業のリストラを応援する政治が、いまの深刻な失業増の原因になっていることは明りょうだ。しかも今後も、すさまじい勢いのリストラ計画が、各分野の大企業で目白押しになっている。電機、自動車関係など大手三十社で、十六万人規模の人員削減計画が実行されようとしている。くわえてNTTの十一万人の大リストラ計画もすすめられている。何十万人という規模でのリストラ計画が新たに強行されようとしている。

 はっきりいって、いま、大企業の経営者のなかに、「雇用にたいする企業の社会的責任」を投げ捨てるモラル破たん――モラルハザードがおこっていると思う。これはまさに、人減らしを促進する政治がもたらした結果だ。「産業再生法」の廃止をはじめとして、リストラ応援の政治をあらためることが、強くもとめられている。

 また、「不良債権の早期最終処理」というかけ声で、乱暴な中小企業つぶしの政治がすすめられようとしているが、これも根本から見直して、景気をよくしてこの問題を解決するという政策への転換をはかるべきだ。

 そして、解雇規制のルールをつくることが必要だ。ヨーロッパの多くの国でおこなわれている解雇規制法を、日本でもつくることをもとめていきたい。

 この点での一つの新しい動きとして注目したのは、EU(欧州連合)の閣僚理事会が六月に、「一般労使協議指令」という新しい解雇規制のルールを合意したことだ。この「指令」は、従業員の再配置、大量解雇等に関して、労働者への情報提供と協議を義務づけるという内容になっている。その協議も一方的な労働者にたいする通告では協議にならないので、「合意に達する目的をもって」協議することを義務づけている。この「指令」は、ルノーのベルギー工場の閉鎖など、大企業のリストラと雇用問題が社会問題になるなかで、EUの閣僚理事会でも合意にいたったものだ。

 政府、産業界、労働界もふくめて、こういう「EU指令」も念頭において、解雇規制のルールをつくるための真剣な検討をおこなうことを提案したい。

雇用を増やす本腰を入れたとりくみを――「労働の分かち合い」を日本でも本格的に

 第二は、雇用を増やす本腰を入れたとりくみをおこなうことだ。私たちがかねてから主張してきたように、賃下げなしの「労働の分かち合い」(ワークシェアリング)――時間短縮による雇用の創出を、本格的に日本でも実行に移すべきだ。とりわけ、「サービス残業」の根絶については、厚生労働省が根絶にむけた「通達」をこの四月に出しているが、「通達」の厳正実施をはじめとして、この無法の一掃にとりくむことは急務となっている。くわえて、残業規制のルールをつくること――労働基準法の改正をおこない、残業の上限を法律で規制していくことも必要だ。ただし、これらを実行するさいに、中小企業にたいしては、適切な助成措置を講じる必要がある。

 もちろん、消防・介護・医療など、国民生活に不可欠の分野での公的な雇用の拡大にもあわせて本格的に着手する。

 これらの新しい雇用の創出に、政治が本腰をいれてとりくむということが、私たちの第二の提案だ。

失業者の生活保障の抜本的な拡充を――ヨーロッパなみの水準をめざして

 第三は、失業者への生活保障を抜本的に拡充することだ。三百三十万人の、現に苦しんでいる失業者の方々に対する生活の保障――失業給付、失業扶助などの抜本的な拡充をはかる必要があ る。

 日本では、完全失業者のうち、失業給付を受けているのは、わずか三割にすぎない。その最大の理由は、失業給付が最長でも十一カ月で切れてしまうからだ。二年目以降は給付がなくなる。OECD(経済協力開発機構)諸国の比較をやった研究があるが、日本は失業給付の水準が最下位だという結果も出ている。

 欧州諸国では、失業者のうち、七割から八割は、失業給付や失業扶助など、何らかの生活保障を受けている。つまり、失業しても、つぎの職業が見つかるまでは、労働者としての地位を基本的に保障するという考え方がヨーロッパにはある。それが、日本にはない。OECD諸国の比較資料を見て驚いたのは、OECD諸国の中で、失業して二年目以降の失業者への生活保障がゼロになる国というのは日本だけだということだ。

 失業者にたいする生活保障が最低の水準という恥ずべき現状をあらためる――小手先の手直しではなく、ヨーロッパの水準をめざして抜本的拡充にとりくむことが、私たちの三つ目の提案だ。

 これらの三つの点をセットで――総合的な対策としてとりくむことが必要だ。そのなかで、完全失業者の約半数をしめる若年層への特別の対策を重視することも、たいへん重要となってくる。

政府の「雇用対策」の問題点――大量失業促進の政策とセットでは解決にならない

 政府もいろいろと「雇用対策」を検討しているようだが、その問題点について、二点ほどのべておきたい。

 一つは、政府は、さかんに、「雇用のセーフティーネット(安全網)をつくる」ということをいうが、これが大量失業を促進する政策――リストラを応援する、中小企業をつぶす、そして失業者をどんどんつくるという政策と、ワンセットで提起されているのが、大きな問題だ。これでは問題は解決しない。

 それどころか、「安全網」があることを根拠にして、かえって大企業のリストラや大銀行による中小企業つぶしが、大手をふって促進されることになる。これでは、「安全網」といっても、「国民のための安全網」ではなく、「大企業のための安全網」になってしまう。大量失業を促進するという政策そのものの転換がなければ、どんな「安全網」をつくっても解決にならない。

 いま一つ、政府に真剣な自己検討をもとめたいのは、これまでの政府の「雇用対策」が、何の実効性ももたず、破たんが証明されているということだ。九八年十一月以降、政府は、四回の「雇用対策」をやっており、その目標を合計すると二百五万人の雇用が創出されるはずだった。ところが、その期間に失業率は4・1%から5%に上昇し、失業者数は二百七十九万人から三百三十万人へ五十万人以上増えた。

 結局、政府がこれまでやってきた「雇用対策」なるものは、さきほどいった三つの観点のすべてが抜け落ちた思いつきの羅列、小手先細工の羅列だった。「安全網」というが、それ自体として「安全網」にもなっていない。この反省と総括を抜きにして、同じような「対策」をくりかえしても、絵にかいたもちになる。

 雇用問題については、つぎの国会でも大きな問題になるが、以上のような考え方にたって、政策の発展・充実をはかり、国会でもおおいに論戦し、雇用をまもる国民運動にもおおいにとりくんでいきたい。




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