2001年9月21日(金)「しんぶん赤旗」

同時多発テロ事件への日本政府の対応についての申し入れ


 二十日の小泉純一郎首相と野党党首との会談で、日本共産党の志位和夫委員長が小泉首相に手渡した申し入れ文書は次の通りです。

 米国で起こった同時多発テロ事件にたいして、十七日に、不破議長と私は連名で、各国政府首脳にたいする書簡をおくり、テロ根絶のために、軍事力による報復でなく、“法にもとづく裁き”によって解決するために、国際社会が協力した努力をはかることが重要であること、その立場から各国政府が積極的な対応をおこなうことを要請しました。この書簡は、内閣官房をつうじて、首相にもお届けしました。

 いま、米国を中心に、軍事力による報復を優先させる動きがすすめられていますが、これはテロ根絶に有効でないばかりか、いっそうのテロ行為と武力報復の悪循環をうみだす危険をもたらすものです。それはまた、現在の国際社会が承認している原則(「武力報復の禁止」)とは合致しないものであり、こういう手段に訴えることは、国際社会に武力行使の是非をめぐる新たな対立をもちこみ、現在、テロ反対・テロ根絶の大義にたって広がりつつある国際社会の大同団結に障害をもちこむ危険があることも、直視しなければなりません。

 私たちは、このことを深く憂慮し、各国首脳への書簡で、「性急に軍事報復を強行することではなく、“法にもとづく裁き”――すなわち、国連が中心になり、国連憲章と国際法にもとづいて、テロ犯罪の容疑者、犯罪行為を組織、支援した者を逮捕し、裁判にかけ、法にてらして厳正に処罰する」ために、国際社会が協力して可能なあらゆる努力をつくすことこそ、テロ根絶のうえでももっとも有効な対応であると提唱しました。

 この問題について、日本政府がおこなっている一連の対応に、私たちは、強い危惧(きぐ)の念をのべざるをえません。以下の点について、政府が真剣な検討と対応をおこなうことを、強く求めるものです。

(1)

 卑劣なテロを世界から根絶しなければならないということが、国際社会と日本国民の強い総意であることは、いうまでもありません。問題は、テロ勢力をおいつめて厳格な審判をくだし、世界からテロを根絶するという目的を達成するうえで、国際社会がどのような手段をとるべきか、どのような手段が有効であり、また法と道理にかなっているか、という選択の問題です。

 この点で、日本政府のいまの対応には、率直にいって、この選択の問題について、主体的な検討をおこなった形跡がみられません。米国が軍事報復の方針をすすめていることを無条件の前提として、その枠のなかで、日本がこの軍事報復にどう協力するかの対応に終始することは、大きな危険をはらんでいます。

 いま、世界で問われているのは、テロとのたたかいで、軍事報復と戦争の道を選ぶか、国際社会の共同を広げ“法による裁き”を実現する道を選ぶか、の選択です。私たちは、各国首脳への書簡で、後者の道こそが、卑劣なテロを根絶するという目的にも大義にもかなう選択であることを提唱しました。

 政府が、軍事報復の路線を無条件に唯一の道とする態度ではなく、私たちが書簡で提唱している“法による裁き”の追求という対応がありうることも念頭において、いま、どのような手段をとることが、問題の解決のために最も適切かという選択の問題について、真剣な主体的検討をおこなうことを、切に要望するものです。

(2)

 首相は、米軍が軍事報復作戦にふみきったさいに、「日本政府が、憲法の枠内で最大限の協力をおこなう」ことを表明し、昨日、「医療、輸送・補給などの支援活動を実施する目的で、自衛隊を派遣するための所要の措置を早急に講ずる」などの方針を明らかにしました。

 わが国の憲法九条は、国際紛争の解決の手段として、武力行使と武力による威嚇を、きびしく禁止しています。テロ問題も、国際紛争の一つです。それとのたたかいに武力を行使することが、憲法が禁止している「国際紛争を解決する手段」としての「武力による威嚇又は武力の行使」にあたることは、いうまでもありません。憲法のこの条項にてらせば、米軍の武力報復作戦への参加・協力が、憲法に違反することは明白です。

 輸送・補給などの「後方支援」活動――兵たん活動が、戦争の不可欠で不可分の構成部分であり、それへの参加が、憲法に反することは、ガイドライン法のさいの国会審議をつうじても、すでに明らかにされていることです。

 ガイドライン法でさえ「周辺事態」に限られていた米軍支援の活動を、地球的規模に広げる新規立法などは、きっぱり中止すべきです。

(3)

 首相は、「テロ対策」として、自衛隊による在日米軍警備などを可能にする法改定をおこなう方針を明らかにするとともに、有事立法の制定も日程にのぼせようとしています。

 これらの問題は、どれも、国会で、いろいろな角度から、これまで討論がおこなわれ、多くの未解決の問題点が残されているものです。とくに重大なことは、それらの立法計画の根底に、軍事的対応のために憲法の平和原則と基本的人権を踏み破ろうとする危険がうかがわれることでした。

 「テロ対策」が緊急だからとして、これらの立法を、いわば機に乗じてすすめようとすることは、たいへん危険なことです。

 わが党は、この問題でも、政府が慎重で冷静に対処することを強く求めるものです。

 二〇〇一年九月二十日内閣総理大臣

 小泉純一郎殿

日本共産党幹部会委員長

志位 和夫




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