2001年11月22日(木)「しんぶん赤旗」
「リストラを理由にした人権侵害は許されない」。二十一日の党首討論で日本共産党の志位和夫委員長は、「政府は国連勧告にもとづき実効ある措置をとれ」と小泉純一郎首相に迫りました。党首討論の大要は次のとおりです。
国連で是正勧告うけた日本の長時間労働 |
志位和夫委員長 私は、失業、雇用問題について質問いたします。
小泉内閣の半年間で、完全失業率は、4・8%から5・3%と史上最悪になりました。私が重大だと思うのは、この事態が、日本の労働者にたいする世界でも異常な人権侵害と結びついているという問題です。
今年の八月三十一日に国連の社会権規約委員会―これは国際人権規約のうち、社会権にかかわる各国の実態を審査している委員会ですけれども、日本政府にたいする勧告書を出しました。ここでは、労働者の人権問題として次の二つの重大な問題提起がされました。
一つは、長時間労働の問題です。勧告書は、日本政府が「過大な労働時間を容認していることに、重大な懸念を表明する」として、「労働時間を削減するために必要な立法上および行政上の措置をとることを勧告する」とのべています。
もう一つは、中高年の労働者にたいする人権侵害の問題です。勧告書は「労働者が四十五歳以降、十分な補償なしに給与を削減され、あるいは解雇される恐れがあることに懸念を表明する」として、日本政府にたいし「四十五歳を超える労働者が元の給与水準、および雇用の安定を維持することを確保するための措置をとることを勧告する」とのべています。これはご存じだと思います。
総理にうかがいますが、総理はこの勧告を尊重し、実効ある具体的措置をとるご意思はおありですか。
小泉純一郎首相 日本政府としてもそういう勧告を承知し、お互い経営者側、労働者側の話し合いを通じまして、労働時間の短縮に努力してまいりました。そしていま、こういう雇用情勢が厳しい中で、いままでの賃金水準を維持したいという気持ちはわかりますけれども、ある場合においては賃金水準よりも雇用を確保しようという動きが一部でも生まれてきています。
そういうワークシェアリング等の問題もありますので、これは政府が介入すべき問題と、あるいは経営者側と労働者側の話し合いによって解決するべきことが本来望ましいわけでありますので、そういう点について政府がどういう面で支援できるかということも含めまして、われわれとしては雇用の確保と、そしていまいったような労働時間の短縮の問題。お互いの経営者側と労働者側の話し合い解決、そういう面を政府としても支援していきたい。そういう勧告が生かされるような努力は、今後も継続していく必要があると思っております。
志位 労働時間の短縮に努力しているということをおっしゃいましたけれど、この間の政府の対策では、効果がないわけですよ。千八百時間という目標の年間労働時間を達成できない。労働時間は逆に延びている。
ですから、そういう状況を踏まえて、こういう厳しい勧告がされたということをしっかり受けとめていただきたい。
志位 そして、いま賃下げの問題が出ました。私は一つ、たいへん大きな具体的な問題についてうかがいたいんですが、いまNTTで十一万人の大リストラ計画が進んでいるのは、ご存じだと思います。
これは、五十歳を超えた社員は、NTTを一律、全員ですよ、退職させて、別の会社に再就職させて、その際に賃金を二割ないし三割カットするという計画です。
これは、国連がまさにやってはならないと勧告書でいっている、中高年の労働者にたいする「十分な補償なしの給与の削減、あるいは解雇」そのものが、いまやられようとしている。
NTTというのは日本最大の企業です。そして、国が株式の46%を持っている企業です。そういう会社が、国連の勧告をまったく無視してそういう人権侵害を進める。これを許していいものか。
もしこれを許すならば、ほかの企業はみんな「右ならえ」して、そういう中高年の人減らし競争が進みますよ。
中高年というのは、子どもさんの教育費、あるいは住宅ローン、あるいは親の介護の費用、新しい費用がかさむ、そういう世代です。
そういう世代を対象にして、まさに大きな人減らし、あるいは賃下げをやる。そして、六十歳定年制を事実上無視したようなこういうやり方。これは国連が当然、これは人権にかかわる問題だという勧告をしてしかるべき問題だと思います。
私は総理に、国連の勧告書を無視するようなそういうリストラ計画は、政府としてやめさせる。こういう態度をとるべきだと思いますが、いかがですか。
小泉 これは企業によっても違いがあると思います。NTTにおきましても、生き残りに必死ですね。そして、これは賃金水準がどうあるべきか、それはまず会社の存続なしには、社員の雇用も確保できない。社員の中には、お互い助け合って、ある程度賃金水準は上がらなくても、ワークシェアリングによって多少は我慢しようという、労働組合側からの動きも出ている。
そして、賃金が上がってリストラもない、解雇もない、それで生き残って発展できるならこれが一番いいんです。そういう状況じゃない場合、利益をあげなきゃならない。社会に向かって生き残っていかなきゃならないときに、どうやって経営者が社会的責任を果たすかというのは、やはり経営者側と労働者側とでよく話し合いをしてもらいたい。
日本としては、いままでも労働時間の短縮、だんだんだんだん、不十分だといわれながらも、けっこう短縮されてまいりました。いまでも有給休暇、取ってくれ取ってくれというのを、働くのが好きな人がいて、取ってくれない人もいるから、できるだけ有給休暇を取ってくださいということもありますし、雇用の面におきましても、私はできるだけ会社側も経営責任を果たしながら、どうやって雇用を確保していくかということも大事ですから。
政府があれもこれもやれという、一企業に対して命令するというのもよくありませんし、その辺はよく話し合いのもとに、お互い経営者の企業責任、そして労働者の雇用確保、そしてどの程度の賃金だったら生活できるのかという所得保障。こういう総合的に勘案して私は、判断していくべきものではないかと思っております。
志位 総理は「会社の存続」といわれましたけれど、NTTグループ、これは(今年)三月期決算では七千億円以上の黒字ですよ。そういう事態ですよ。
「労使の合意」とおっしゃいましたけれど、たとえ「労使の合意」でも人権侵害は許されないんです。
そして、リストラのためだと、これはしょうがないんだといいますけど、何をいおうとですね、国連が改善を求めているようなそういう人権侵害は、私は、やってはならない(と思う)。
人間あっての企業ですよ。人権を守らないような企業、人権を守らないような経済、人権を守らないような政府には未来はないということを最後に強調して、終わりにいたします。(拍手)
社会権規約委員会 正式名称は「経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会」。国連の「社会権規約」は、労働に関する諸権利、社会保障、生活条件の向上、すべての者への教育の権利、文化的生活に参加する権利などの保障を締約国に義務付けています。締約国政府は五年ごとに規約全体についての包括的報告書(グローバル・レポート)を提出。それを社会権規約委員会が審査し、積極的側面、懸念事項、提案・勧告等からなる最終見解を採択し、当該国に送ります。