2002年1月7日(月)「しんぶん赤旗」

NHK「日曜討論」2002年の日本

志位委員長が語る


 日本共産党の志位和夫委員長は六日、NHKの「日曜討論 各党に問う 2002年の日本」に出演し、山本孝解説委員のインタビューにこたえました。大要は次のとおりです。

小泉「改革」

暮らし、経済、憲法をこわす「改革」

アメリカいいなり、大企業の横暴ただす改革こそ

 山本 まず小泉政権にどう対応していくかということについて、構造改革を旗印に非常に高い支持率を集めているんですけれども、この内閣とどう対決していきますか。

 志位 小泉さんがいってきたのは、「自民党政治を変える」、「自民党をぶっこわす」とまで言った。ところが私は、国民のみなさんが一番変えてほしいと願っていた自民党の一番悪いところ、つまり利権と腐敗の政治、あるいは巨大ダムとか空港とかの税金のむだ遣い、これはまったく変えてこなかったと思うんですよ。

 それで、じゃあ何を「ぶっこわしたか」といいますと、私は、自民党ではなくて、国民のくらし、日本の経済、憲法をこわしてきたと(思います)。「構造改革」という名でやられたことは結局、失業、倒産、それから社会保障の負担増という将来不安ですね。それから日本の経済は「デフレの悪循環」という大変なところに落ち込んでいる。そして、テロの問題を口実に憲法破りがされる。こういうところをこわしてきたわけですね。

 ですから私たちは、間違ったまやかしの「改革」にたいして、改革っていうんだったら、「属国ニッポン」といわれるようなこのアメリカいいなりの政治、あるいは「ルールなき資本主義」といわれるような大企業の横暴勝手の政治、これをただす本当の改革を大きく対置してたたかっていきたいと思っています。

 山本 いま小泉改革はくらしをこわすと、こういうお話ありましたけれども、小泉さんご自身はね、改革を、持続的な経済成長をやっていくためにこそ改革が必要なんだ、こういうことをずっと強調していますよね。これは間違いですか。

 志位 間違いですね。たとえばいまの経済全体を見ますと、いわゆる「デフレの悪循環」といったんですけれども、景気の悪化と物価の下落と同時並行で進んでいるわけです。これはかつてない現象なわけですね。どこからこれが起こっているかというと、社会全体の需要が足らなくなっている。これは雇用者の所得が落ちて、消費が落ちて、需要が足らなくなっている。そのほうから生産が落ちて、もうどんどんどんどん悪循環が始まっているわけですね。

 ですからこういう時には、経済を本当に立て直そうと思ったら、需要対策が必要なんですよ。ただ従来型の公共事業の積み増しというやり方は失敗したわけですから、悪い需要対策はダメで、私は需要の六割を占める家計の消費、庶民のくらしを元気にする、社会保障の充実とか雇用の確保とか、こういうことによって景気を立て直していくと、そのことが財政も、真に立て直す道が開かれると思いますね。

来年度予算案

これでは暮らしも、経済も、財政もだめになる

抜本的組み替えが必要

 山本 需要を起こさなきゃならない、とこういうことなんですけれども、どうも新年度予算はですね、やっぱり引き締め型の予算だといわれていますね。この予算、どう評価しますか。

 志位 そういう時なのに、ますます国民のくらしを痛めつけて、日本の経済の悪循環をひどくする予算になっていると思いますね。私は、この予算案に、三つの大問題、大欠陥ありといっているんですよ。

 第一は、「国債発行を三十兆円以内におさえた」と、これが(首相の)最大の唯一といっていい、自慢の話なんです。(山本「公約ですね」)これなんですけれども、これは先ほど山本さんもおっしゃっていましたけど、「隠れ借金」を四兆円つくるという、非常に不透明な赤字財政をひどくするやり方で、ごまかしで、ウソですね。これは。

 第二に、公共事業を一兆円削ったというんですけれども、同じ日に決めた補正予算案で二・五兆円の従来型の(公共事業の)積み増しをやっているわけですね。だからつまり浪費は温存と拡大。

 第三に、結局「三十兆」ということで何が削られたかというと、国民のくらしの予算ですよ。たとえば医療費の負担増。それから老人マル優の廃止。あるいは中小企業予算のカット。奨学金のカット。これはひどいですね。こういうところにしわよせがくる。

 こうなったら私は、くらしもだめになるし、経済もだめになるし、財政もだめになる、本当に“三重苦予算”だと思いますね。抜本的な組み替えが必要ですね。

金融問題

国民の預金は保護せず銀行は保護

70兆円の公的資金の枠組み撤廃を

 山本 それから金融不安がいろいろ取りざたされているというようなことから、あらゆる手段をとるんだということで公的資金の再投入、金融機関に対するね、これも議論になっているんですけれども、これは反対ですか。

 志位 これは反対ですね。国民の税金を大銀行にまた注ぎ込むというのは反対ですね。なんでこんなことがいま問題になるかっていうと、「不良債権の早期処分」――二、三年という期間を区切って、無理やり不良債権全部バランスシート(銀行の帳簿)から落としてしまえと、これを強行しているから、これが起こるわけですよ。

 しかしこれの実態を見ますとね、たとえばあまり報道されないんですけれども、去年一年間だけでも信用組合、信用金庫だけで四十六つぶれている。つまり金融庁主導で、どんどん金融マニュアルで(山本「地方の信用組合ですか」)、そうです、不良債権のほうにカウントして、引当金を積まして、積みきれないからつぶれると。これはもうものすごく地域経済を冷やしてますよ。ここでも景気の悪循環が起こっていますね。

 こういうむちゃなやり方をやるから(銀行の)自己資本が足りなくなって、また公的資金だと。すると景気が悪くなるでしょう。また「不良債権」だと、また自己資本だと、いくら税金入れても足らないという話で、こういうやり方はやめるべきですね。

 山本 となりますと、当然これ、ペイオフの問題がからんできますけれども、これも反対ですね。

 志位 私は、ペイオフはいまやる条件がないと思うんです。ペイオフというのは、国民、預金者から見ましたら、預金が全額保護されないということですよね。(山本「一千万円までということですね」)まあ、そういうことになりますね。ところがさっきいった銀行に対する七十兆円の公的資金の枠組みはそのまま続けるというんでしょう。つまり国民の預金は保護しない、銀行は保護する、これは道理がありませんね。

 ですから私は、いま必要なのは七十兆円の枠組みそのものをやはり撤廃して、銀行の不始末は銀行業界の責任と負担で解決するというルールに戻すべきだと。これをやってこそ国際信用というのはできますよ。

雇用・社会保障

大企業のリストラの横暴を抑える

薬価引き下げただけでも医療費の値上げ必要ない

 山本 金融機関の不良債権の処理、これはすすめていくわけですね。そうなりますと、やはり、失業だ倒産だということが心配されて、完全失業率はさらに上がりそうだと。どういう雇用対策をとるべきだと思いますか。

 志位 雇用対策という点ではね、私は、まず大企業がやっているリストラの横暴を抑えるということがすごく大事だ。

 山本 まず、根っこからだめだと。

 志位 ええ。やっぱりね。いまの日本のリストラというのは、国連の社会権委員会という機関からも「ひどすぎる」という勧告が、昨年の八月にあったぐらい無法なんですよ。たとえば、「サービス残業」というただ働き。それから有給休暇を取らせない。転籍は強要する。座敷ろうのようなところに押しこめて人権じゅうりんをする。こういうやり方で進めているわけですから。

 やっぱり私は、そういう無法なやり方を、ひとつひとつただしていくと。そしてそれを抑えていく。「サービス残業」と有休をちゃんと解決しただけで、二百万ぐらい雇用が増えますからね。そういう形で雇用を増やしていくという対策が必要ですね。

 山本 医療制度改革で、小泉さんは「三方一両損」などといいますが、そのなかに診療報酬の引き下げが入っていますね。これは共産党は反対なんですか。

 志位 これは吟味が必要ですね。診療報酬のなかで、薬価、これは大幅に引き下げる必要がある。これは政府の関連の審議会でも、一・五兆円は薬剤費を引き下げられるという試算がありますからね。それをやっただけでも、医療費の値上げは必要なくなる。いま医療費の値上げは本当に、国民の不安を広げてますよ。ともかくお金の心配で、病院に行けないという受診の抑制が本当に深刻で、これが国民の健康を悪化させるという問題を広げてますからね。医療の中の不効率な部分もちゃんと見直すと。

 山本 ですから、診療機関も痛みを受けなさいよということだろうと思うんですがね、そうではないんですか。

 志位 私はいまの診療報酬については、きちんと、“物中心”から“人中心”に組み替える必要がある。そこのところでの不効率な部分はきちんとメスを入れるし、しかし手当てが必要な部分はきちんと手当てするということが必要だと思いますね。

有事法制

「米軍有事」のための新規立法には反対

「不審船」対応――国内外に納得のいく説明必要

 山本 それから有事法制ですね。さきほどの山崎さんの話では、今度の通常国会でこれをやりたいんだということだったんですが、この問題はどういうふうに考えますか。

 志位 私は、有事法制は、いったい何のための有事法制なのか、ここをはっきりさせる議論をちゃんとやる必要があると思いますね。

 なにかさっきの話を聞いてますとね、「テロだ」「不審船だ」と、だから有事法制だという議論がありますがね、テロというのは、警察と司法の力で解決するのが基本だと思っています。それからああいう領海の警備の問題、排他的経済水域も含めた警備は、海上保安庁の仕事ですよ。つまり戦争のときの非常時体制とは全然関係ない話を持ち出して、これはもう有事法制だというのは、非常に危険だと思うんですね。

 それから、じゃあ、いま日本にどこかの国が、突然大規模な武力攻撃をしかけてくる可能性があるのか。私たちはこれを国会で質問しましたよ。そうしましたら、防衛庁の長官は、「いやそんな想定はできません」と、これもリアリティーを欠いた話なんですね。

 そうすると、残るのは、米軍がアジアで介入、干渉の戦争をやる、そのときに日本も一緒になって戦争をやると、そのときに日本国民を総動員する――土地の強制収用とか、お医者さんの徴用とか、こういうための有事法制が本音じゃないかと。あのアーミテージさん(米国務副長官)も、(対日政策)レポートのなかでそういう文脈で(有事法制を)求めていますよね。これはきっぱり反対です。

 山本 不審船の問題は、これは海上保安庁の話だということですが、停船を求めても逃走するとか、向こうは武装しているわと。ですから果たしていまの法体系で対応できるのだろうかということがあろうかと思うんですね。そこのところはどうですか。

 志位 「不審船」の問題についていえば、まず一般論からいいますと、領海にしろ、排他的経済水域にしろ、警備、警察活動は海上保安庁の仕事だと。これが一つですね。

 それから今度の事件についていいますと、領海ではなくて排他的経済水域で起こった事件なわけですから、私は、国際法、国内法の両面で、国内外にちゃんと納得のいく事実関係と法的根拠の説明がいると思うんですよ。政府はこれをちゃんとしていないと思うんです。そうしないと、やはり日本の行動については、諸外国、中国にしても韓国にしても、ああいう(侵略)戦争を起こしたという経緯がありますからね、非常に不安感が強い。(山本「不安感がありますからね」)ですから諸外国にも納得いくような説明がいりますね。私たちも国内法、国際法の両面で、検証と吟味をしているところです。

 山本 まあ海上保安庁などはですね、領海外だから、漁業法違反でしか対応できないんだと、これではやっぱりやっていけない、こういっていますわね。そこんところをもっときちんと検証する必要があるということですか。

 志位 やっぱりその時に基準になるのは、まず国際法ですね。国際法でいいますと、排他的経済水域で警察行動の対象になるのは、漁業をやっていた場合と、資源探査をやっていた場合と、環境破壊をした場合、この三つになっているわけですよ。ですからそういう国際法という基準できちんと整理をしていく必要があると思いますね。

国民にとって「頼りがいある党」へ

 山本 なるほどね。志位さんが委員長になられましてから一年あまりになるわけですよね。どうも選挙を見ていますとあまりふるいませんね。これどこに問題があるんですか。

 志位 選挙は、明もあれば暗もあるんですけれども(笑い)、去年の参議院選挙のたたかいでは、私たちが掲げた政策は今後に生きるという総括をしましたし、現にいまの政局の展開を見ても生きていると思います。ただ率直にいって、あれだけの突風が吹いたなかでは、党員のみなさんも後援会員のみなさんも大いにがんばっていただいたんですけれども、力不足という面があった。(山本「…ありますか」)ええありました。ですからやっぱり党員を増やし、「しんぶん赤旗」の読者を増やすという、草の根の力を本当に強める。そして国民のみなさんからみて、「共産党は頼りがいのある党だな」と思ってもらえるような党になると、ここが今年の課題だと思っています。

 山本 どうもありがとうございました。