2002年5月8日(水)「しんぶん赤旗」

有事3法案で志位委員長が追及


戦争反対、非協力の「思想」も罰するのか

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衆議院の有事法制特別委員会で、パネルを示し追及する志位委員長=7日

 アメリカの起こす介入戦争に国民を強制動員する仕組みがつくられる――日本共産党の志位和夫委員長は、七日の衆院有事法制特別委員会で「武力攻撃事態法案」の重大問題を追及しました。

「周辺事態」を「武力攻撃事態」と読み替えれば強制動員も可能に

 「周辺事態法」では、戦争への国民動員は強制力を持たないことが建前となっています。ところが、政府も認めるように、「周辺事態」と「武力攻撃事態」は大きく重なることから、同じ一つの事態を「周辺事態」から「武力攻撃事態」に読み替えることができるということになります。

 志位氏は、国が自治体や民間に対し行使できる権限が「周辺事態法」と比べて大幅に拡大していることをパネル(上の表)を示して指摘。「周辺事態法」の審議のときには、自治体を強制動員することはできないなどと答えていましたが、事態は同じでも、「武力攻撃事態」と読み替えただけで、国民も自治体も強制動員できる仕組みになると述べました。

物資保管命令違反の一律処罰で「沈黙の自由」も侵害

 志位氏は、国民の強制動員が可能となることによって引き起こされる深刻な問題を二点にわたって追及。一つは「戦争に協力できない」という思想・信条を罰するという問題です。

 法案は、自衛隊が防衛出動したもとで物資保管命令が下令された場合、従わなかった国民には「六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金」が科されると規定しています。

 志位氏は「取扱物資」が何であるのか、法律に明記されていないことを指摘。「総動員物資」を法律で定めていた戦前の国家総動員法を「上回る悪法だ」と厳しく批判しました。

 また政府は、保管命令違反について「悪質な行為を行う場合に限り罰則を科す」としていますが、戦争には協力できないとの信念から物資保管命令に従わなかった場合が「悪質な行為」となるかも問題です。中谷元・防衛庁長官は、「本人の内心には関係ない」と答弁。行為次第で内心の自由が処罰の対象になる危険が浮き彫りになりました。

 志位氏は、罰則によって、「思想・信条の自由」「沈黙の自由」が事実上奪われてしまうと批判。とくに一律に保管命令違反が処罰されると、戦争協力できないという信条を沈黙している自由も侵害されると追及すると、政府は答弁に立てませんでした。

 志位氏は、「戦争を禁止し戦争の協力を禁止した憲法のもとで、戦争に協力しない国民を犯罪者にする法案が何重にも憲法に違反するものであることは明らかだ」と強調しました。

個別法で権利と自由の制限――大日本帝国憲法とどこが違うか

 もう一つは、武力攻撃事態法に基づく個別法で国民の権利と自由が限りなく制限されることです。志位氏はこれでは「法律の範囲内」でしか権利と自由が認められなかった戦前の大日本帝国憲法とどこが違うのかと指摘しました。

 法案は「武力攻撃事態への対処」において、国民の自由と権利に制限が加えられる場合には、「必要最小限」で「公正かつ適正な手続きの下」におこなわれなければならないとしています。

 志位氏は、権利制限がどの範囲までできるかが法案に規定してあるのかと追及。福田康夫官房長官は「内容は個別・具体的に制定する」と述べ、法案には権利制限の範囲が具体的に書かれていないことを認めました。

 志位氏は、「政府が(必要と)認定すれば何でもできるということだ。『必要最小限』は何の保障にもならない」と指摘。「個別法で国民の権利と自由を勝手放題に制限できる体制が、治安維持法に代表される戦前の暗黒政治につながり、侵略戦争の過ちへと日本を導くものとなった」と述べ、過去の反省のもとにつくられた憲法を踏みにじり、戦時体制をつくる法案は廃案にすべきだと強調しました。


武力行使の危険 政府答えられず

 「武力攻撃のおそれ」でも「予測」の事態でも、自衛隊が先制的な武力行使ができる道を開いているのではないか――。日本共産党の志位和夫委員長は、七日の衆院有事法制特別委員会での追及で、法案の危険な仕組みを明らかにしました。

「おそれ」「予測」の場合の禁止条文なぜないのか

 「武力攻撃事態法案」の第二条は、法案が発動される「武力攻撃事態」について、「武力攻撃が発生した事態」「武力攻撃のおそれのある場合」「武力攻撃が予測される事態」の三つのケースを包括した規定だと定義しています(第二項)。

 同二条では、「武力攻撃事態」のときに、日本がおこなう「対処措置」について、「武力攻撃事態を終結させるために実施する措置」として「自衛隊が実施する武力の行使」をあげています(第六項)。つまり自衛隊は「武力攻撃事態を終結させる」ために「武力の行使」ができるという規定です。

 志位氏は「そうなると、武力攻撃事態の三つのケースのすべての場合で、武力の行使ができることになるのではないか」と追及しました。

 小泉純一郎首相は「予測の段階、おそれのある場合で武力行使の必要はない」と答弁しました。

 そこで志位氏は「武力攻撃が発生の場合のみにしか『武力の行使』ができないというなら、根拠となる規定は法案のなかにあるのか」とただしました。

 中谷元・防衛庁長官は、自衛隊法第八八条を持ち出し、「自衛隊法で自衛隊の行動は律せられる。(武力攻撃の)予測の場合には、武力行使はできない」と繰り返しました。

 一方で中谷長官は「(武力攻撃事態法案の)条文の中には書かれていない」と答弁。「おそれのある場合」や「予測される事態」で自衛隊の「武力の行使」を禁止する規定が、明文上、ないことを認めました。

「国際法規と慣例の遵守(じゅんしゅ)」(自衛隊法)なぜ落としたのか

 自衛隊法第八八条をあげて、「自衛隊の行動は自衛隊法で律せられる」と繰り返す中谷長官。志位氏は、政府が武力攻撃事態法案を「プログラム法」と位置づけ、今後二年間で、同法案にもとづいて法整備をおこなうと規定していることを指摘し、「自衛隊法も変えられてしまう(危険がある)」と批判しました。そのうえで、自衛隊法第八八条にありながら、武力攻撃事態法案から抜け落ちた条項があることを示しました。

 それは、自衛隊法八八条の中にある、「国際の法規及び慣例によるべき場合にあつてはこれを遵守(じゅんしゅ)し…」(第二項)と、自衛隊がおこなう「武力の行使」を制限した条項のことです。

 これにたいし、武力攻撃事態法案の中で「武力の行使」の要件を示した唯一の規定は第三条で、「武力の行使は、事態に応じ合理的に必要と判断される限度においてなされなければならない」と定めているだけです。

 志位氏は「『国際法規と慣例の遵守』という規定がすっぽり抜け落ちている。なぜ取り外したのか」と追及しました。

 これにも中谷長官は「自衛隊は、自衛隊法に従って行動する」と、抜け落ちた理由を示せない答弁で逃げ続けるばかり。

 志位氏は、自衛隊法にある「国際法規と慣例の遵守」という条項について歴代の政府が、国連憲章五一条でのべている「武力攻撃にたいする自衛反撃」以外の「武力行使」――つまり先制的な「武力の行使」をしてはならない規定だと説明してきたことを指摘。「従来の政府の説明にてらしても、『国際法規と慣例の遵守』規定を、(武力攻撃事態法案から)わざわざ落とすということは、『おそれ』や『予測』の場合でも、武力行使ができるというところへ道を開いたということになるのではないか」と追及しました。

 中谷長官も、福田康夫官房長官も、津野修内閣法制局長官も、規定を落とした理由について、合理的な説明ができません。「憲法の規定を前提にしている。先制攻撃を許容しているということはさらさらない」(津野長官)などと言い訳するばかりでした。

 志位氏は「(この規定を法案から)落とした理由の合理的な説明をだれもできない。国際法を守る意思を持っていないということではないか」と批判しました。

「周辺事態法」と「武力攻撃事態法案」が合体すればどうなるのか

 政府は「周辺事態」と「武力攻撃事態」が重なり合うことを繰り返し認めてきました。志位氏は、「武力攻撃事態法案が周辺事態法と合体したらどうなるか」とただしました。

 周辺事態法では、米軍が海外での戦争を始めたとき、自衛隊が輸送や補給などの「後方支援」ができます。しかし、自衛隊は武力攻撃を受ける可能性のある「戦闘地域」に行ってはならず、もし支援活動中に攻撃される危険が生まれたら活動を中止し、撤退するという仕組みでした。

 ところが「武力攻撃事態法案」ではまったく違うことになると志位氏は指摘。「周辺事態」として自衛隊が出動した場合に、「この法律が発動されれば、『武力攻撃事態を終結』させるために『万全の措置』をとるという法律の定めに従って、その場にとどまり支援活動を継続しなければならなくなるのではないか」とただしました。

 中谷防衛庁長官は「米国の武力行使と一体化する措置は行えない。自衛隊はそこから離脱する」と答弁しました。

 志位氏は、小泉首相にグレナダ侵略、リビア空爆、パナマ侵略など、国連総会決議で国際法違反と糾弾されるようなアメリカの先制的な軍事力行使に対する認識をただしました。

 志位氏は、ブッシュ政権がイラン、イラク、北朝鮮を“悪の枢軸”と決めつけ、ラムズフェルド国防長官が「先制攻撃も必要になる」と公言していることを示し、「先制攻撃は絶対に容認できないと言うべきだ」と追及。小泉首相はラムズフェルド氏の発言について「アメリカの安全保障戦略としてあらゆる選択肢を残すということだと理解している」と表明しました。

 志位氏は「アメリカの先制攻撃戦略に理解を示した人はおそらくいない」と批判。「これは日本の国民の安全を守る法案ではない。アメリカが行う先制攻撃の戦争――介入戦争に対して、武力行使をもって自衛隊が参戦する法案だ」と指摘しました。