2004年2月21日(土)「しんぶん赤旗」

CS放送朝日ニュースター 志位委員長の発言

年金問題、憲法問題などについて


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インタビューに答える志位和夫委員長

 日本共産党の志位和夫委員長が十九日放映のCS放送・朝日ニュースターの番組「各党はいま」で年金・憲法問題などについて語った大要を紹介します。聞き手は峰久和哲朝日新聞政治部記者。

年金改悪の政府案には憲法上の致命的欠陥がある

 峰久氏 十八日の党首討論では、年金問題を憲法にからめて、その点にしぼって質問されたのが印象的でした。

 志位氏 今度の政府の年金法案というのは、保険料の引き上げと給付水準の引き下げを国会の審議なしに自動的にすすめるというたいへんな大改悪です。

 保険料の引き上げの方も、二〇一七年までに厚生年金と国民年金であわせてだいたい四兆円規模の負担増になるということですから、これ自体が大問題です。

あらゆる年金受給者に実質15%の給付削減

 志位 同時に、給付水準の引き下げというのがやられる。だいたい15%程度の実質引き下げをやるというのです。「マクロ経済スライド」という方式が適用されて、少子化の影響や、高齢化の影響など、さまざまな要因で実質的にどんどん年金を目減りさせていくしくみが、押しつけられようとしています。この年金引き下げは、厚生年金に押しつけられるだけではなく、国民年金にも押しつけられる。これから受給される人に押しつけられるだけでなく、いま受給している人にも押しつけられる。すべて一律に15%引き下げる。

 こういうやり方というのは、年金の歴史のなかでもなかったことです。この間、物価が下がったのにあわせて年金を下げて大問題になりましたけれども、今度は実質的に年金を目減りさせてしまうということですから、初めてのことなのです。

 国民年金を受給されているお年よりは九百万人いらっしゃる。ところが、給付水準でいいますと、平均月四万六千円という非常に低い水準です。この方々にまで、全部一律に15%実質カットがおそいかかってくる。

 では、生活保護はどうなっているかといいますと、「一級地」「二級地」「三級地」と、都市と農村によって違いがあるのですけれども、全国平均で月八万四千円。これには住宅扶助が入っていませんから、住宅扶助をいれますと、生活保護は、だいたい一人十万円です。この水準も低すぎるものですが、その生活保護とくらべても、国民年金は半分以下なのです。それを15%削り込むというのは、だれがどう考えても、憲法二五条で国の義務として規定されている生存権の保障を、みずから侵害するのではないか、この問題を(党首討論で)出しました。

国民生活を「持続不可能」にして、制度を「持続可能」にしても意味がない

 志位 小泉首相の答えは、いつものように、「給付と負担のバランスが必要」といった式の議論をするだけで、憲法との関係で致命的な欠陥をもっているという問題提起には答えがありませんでした。「制度を持続可能にするのだ」ということも言いましたけれども、私は、どんな制度であっても、国民の生活を「持続不可能」に追いこんでおいて、制度だけ「持続可能」になったとしても、そんな制度は役に立たない、失格だと思います。

 年金の議論をするさい、憲法二五条を国はきちんと保障する、生存権を保障する義務を果たすという土台の上で議論しないと、私は土台を欠いた議論になると思います。

憲法二五条の生存権の保障を土台にすえた年金制度の改革を

 峰久 日本共産党の考える年金制度の基本的な考え方について、とくに財源について教えてください。

年金制度についての日本共産党の政策

 志位 わが党の政策は、まず基礎年金=国民年金という土台部分が崩れてきているわけで、そこにたいする国庫負担金がいま三分の一ですが、これを来年度から二分の一にあげるということは国民にたいする公約になっているわけですから、これをただちにやって、まず土台をしっかりさせる。その財源は、公共事業などの浪費をけずる、とくに道路特定財源が国と地方で六兆円あるわけですが、これを一般財源化して、福祉にまわすようにする。「ムダな道路より年金」ということをまず提案しています。

 同時に、百七十五兆円の巨額の積立金を計画的に活用する。雇用を安定させて年金の支え手を増やす。そして、最低保障年金制度を創設して、国と事業主の負担で、国民すべてに憲法二五条でいう最低限度の生活の保障をおこなうための年金制度をつくろうということを提案しているのです。

保険原理だけでは公的年金といえない――社会保障としての年金制度を

 峰久 資産をたくさんもっているお年寄り、収入のたくさんあるお年寄りにも支給されているという現実もありますが、どう考えますか。

 志位 私たちは最低保障年金制度という土台をしっかりつくり、その上に掛け金に応じた給付という考え方です。

 年金制度というものを、保険原理だけという考え方に立ってしまうならば、小泉首相のいうように、「給付と負担のバランス」ということしかないわけですね。この計算をやるだけなら、電卓一つあれば足りるわけで、政治の責任はどこにもなくなる。民間の保険と同じになってしまう。保険原理だけでは、公的年金とはいえない。そうではなく、すべての国民に「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するという社会保障としての年金―この考え方がしっかり土台にあって、その上に掛け金に応じた給付ということを考えるべきだと思います。

あまりに低すぎる国民年金の水準――それをさらに切り下げなど論外

 志位 この点から年金の現状をみたさい、土台となるべき国民年金・基礎年金の水準が、先ほど言ったように、生活保護に比べても半分だというのはたいへんな矛盾です。国民年金は、国民年金法にもとづくもので、その第一条には「国民年金制度は、日本国憲法第二十五条第二項に規定する理念に基き、老齢、障害又は死亡によって国民生活の安定がそこなわれることを国民の共同連帯によって防止し、もって健全な国民生活の維持及び向上に寄与することを目的とする」と憲法二五条に基づく制度なのだということが明記されている。(党首討論で)小泉首相は「生活保護とは違う」というふうにおっしゃいましたが、生活保護も国民年金も(憲法)二五条が基本に置かれているという点では、考え方という点では共通するものがあるのです。

 政府の答弁で重要だと思うのは、九九年の三月に政府は基礎年金の額をどう決めるかということについて、こう言っているのです。「基礎年金は老後生活の基礎的部分をまかなう、こういう考え方に基づいて設定されている。これは、今回の制度改正では一人あたり六万七千円になるが(四十年間掛け金を払った場合)、その額は、全国消費実態調査から推計して、食料、住居、光熱水道、家具・家事用品、被服及びはきもの、こういったものの合計である」。つまり、これまで、まがりなりにも政府は国民年金について、全国消費実態調査から推計して、最低限の生活に必要な生活費を保障するという、建前はそういってきたわけです。

 15%削減というのは、この国民年金法でいう(憲法)二五条という土台、そして、こういう計算をするという建前も全部壊してしまうことになるわけです。

 年金という問題を考える場合、国民の生存権に立った、ほんとうに健康で文化的な最低限度の生活を保障するという考え方をしっかりふまえたものにしなければならないということを強くいいたいですね。

憲法問題は重大な場面に――国民が声をあげるとき

 峰久 志位さんはこの年金問題、憲法との関連で主張しています。憲法といえば、いま自民党も公明党も、野党の民主党も、いっせいに、憲法改正についての動きを加速しています。この動きをどう考えますか。

自民、民主、公明の競い合い――ねらいは憲法九条改定にある

 志位 これは各党の動きが急になってきまして、競い合いが起こっていると思います。自民党は二〇〇五年までに改憲案をつくる。民主党は二〇〇六年までにつくる。そして、その中に公明党が参入してきて、公明党も「九条をタブーにせず、議論する」という。三党がそういう考え方を方針として打ち出しました。そして、自民、民主、公明の間では、最近、「安保議連」という形で、憲法改定をめざす若手の議員連盟が百数十名の規模でできあがっている。横断的な動きも起こってきたという点で、非常に重大な場面にきていると思います。憲法のいろいろな条文について、あれやこれやいうわけですけれども、ねらいは九条改定にあることは明りょうだと思うんですね。

小泉首相の「国軍」発言はなにをねらうか

 志位 そのなかで私が、よく見なければならないと思う重大な論点の一つは、小泉首相の発言なんです。小泉首相は、九条について、「誰が見ても自衛隊は常識的には軍隊だ。だから憲法を変えて『国軍』と明記したほうがいい」と、こういう発言をされました。これは去年の総選挙の党首討論で、私の目の前で発言したので、私も批判したことを思い出しますが、そういう「国軍」発言というのがありました。

 さらに今年に入って、「(自衛隊についての)憲法解釈が合憲か違憲か分かれるのはまずいから、分かれないようにしよう」とくりかえしました。要するに「国軍」と書こうということなんですね。

 この主張が何をねらっているかということが大事だと思うんです。一見しますと、自衛隊を明文上も合憲の存在として、書き込むということをただ求めているのかと思う方もいるかもしれません。憲法と自衛隊の現実に矛盾があるのは事実です。私たちは自衛隊は違憲だという立場にたっています。憲法九条の完全実施をめざして自衛隊の現実を変えていくというのが私たちの立場です。たしかに矛盾があるのは事実であり、その矛盾を(自衛隊を明文上も合憲とする方向で)解消することだけが目的なのかと思われる方もいるかもしれません。

 しかし、この動きの目的はそこにとどまるわけではないのです。仮に九条を改定して、自衛隊を「国軍」だという規定を書きくわえたとして、何が変わってくるかといいますと、結局、集団的自衛権の行使が可能になるというところが大きく変わる。

 すなわち、これまで政府は、憲法解釈で、「日本は個別的自衛権はもっているけれども、集団的自衛権については、国際法上は保有するが憲法上は行使できない」と、こう答えてきたわけですね。

 なぜ行使できないかというと、日本は戦力をもたないからということが、理屈であったわけですよ。すなわち、日本は戦力をもたない建前になっていると。固有の自衛権はあって、その自衛権を担保するための、一定の、「必要最小限の実力」はもてるけれども、それをこえる戦力はもてないんだと(政府は言ってきた)。こうやって自衛隊については個別的自衛権をもちだして違憲のものを合憲といつわってきたけれど、海外に出て戦争するという話になってきますと、これはいくらなんでも憲法では認められないという解釈をとってきたんですね。

 ところが「国軍」と書いてしまいましたら、まさに戦力だと堂々と認めることになるわけですから、集団的自衛権を行使することに何の障害もなくなる。ここが一番問題になるところなんですね。

 憲法九条が九条たるゆえんは、戦力をもたないというところまで書いてあるところにあるのです。世界のなかで本当にユニークで先駆的な独特の特徴というのは、戦力をもたないと書いてあることでしょう。これを変えてしまって、「国軍」をもつというふうにしてしまったら、ふつうの国の憲法と変わらなくなる。これは集団的自衛権の行使ということがねらいなんです。

 小泉首相の一連の発言というのは、まさにそこにねらいがある。集団的自衛権の行使というのは、アメリカが海外で戦争をやったときに、自衛隊が武力の行使をもって、それに参戦するということですから、イラクなどでも一緒になって文字どおりの戦争をやるということになる。(日本を)そういう国にしてしまうというのが、いまの改憲論の焦点です。ここをしっかり見て、そういう動きにきびしく反対していくことが非常に大事だと思います。

はじめは国連を看板にしながら、米軍協力の海外派兵に道を開いた

 峰久 民主党の場合は、国連というのがキーワードになっています。国連中心主義の中で、いまの自衛隊を位置付ける。そういう考え方について、どう考えますか。

 志位 国連の枠内での活動としても、自衛隊が海外に出て武力を行使するようなことは憲法違反です。だいたい、自衛隊のいまの海外派兵の動きを自民党が進めるさいにも、最初は国連のPKOというところから始めたんです。そして、だんだんとひろげていって、いまや国連とは何の関係もない、アメリカの先制攻撃の戦争にも加担する、今度のイラクのような戦争まで、自衛隊を派兵して参戦させるという方向に進んだわけですから。こういう結果から見ても、どんな理由であっても海外への派兵を認めるようなことはやってはならないと、強くいいたいですね。

九条改憲は、国民の声にそむき、時代の流れにそむくもの

 峰久 いま自民党と民主党がまるで同じ考え方のような状況ですが、数のうえでは、公明党も含めれば大変な数です。憲法改正を提起するのに必要な三分の二を軽くクリアする。こういう状況になった歴史的な背景をどう考えていますか。

 志位 これは日本の政治が一九九三年の「政界再編」という動きの中で、自民、「非自民」といった対立の構図がつくられたけれども、あのときに、「非自民」といわれる勢力に合流した勢力が、当時の社会党まで含めて、自民党政治の基本路線の継承ということをうたったんです。そこで安保も認めた。自衛隊も合憲だと。すべて自民党の政治の基本を丸のみしちゃったわけです。政界全体の一種の「オール与党」体制がこのときにつくられた。そのあといろいろな矛盾がおこり、いろいろな離合集散がありましたけれども、自民党政治の基本を継承という枠組みにわが党以外のすべての党が合流したことが、いま憲法改定の流れが、国会では一定の多数派を占めるようになった、ひとつの歴史的な契機になっていると思います。

 ただ国会でそういう状況があったとしても、それでは国民の中で、憲法九条を変えることに賛成か反対か、となりましたら、私は反対だという声が多数だと思いますよ。ですから、国民がそれを許さないという声を大きくあげていけば、これは食い止めることができる。国民の多数が許さないという声をあげることが大事です。

 改憲派は口を開くと、「時代が変わったんだから」というわけですよね。では、その改憲派に時代のどこが変わったのかと聞くと答えがないのですよ。時代は、二十世紀から二十一世紀にかけて、戦争の違法化、それから紛争は武力行使ではなく、話し合いで平和的に解決する、この方向に変わっているわけです。

 (二〇〇〇年の)国連ミレニアム・フォーラムの報告書でも、「日本の憲法九条のような戦争放棄の規定を、世界各国の憲法にもとりいれるべきだ」ということがいわれるくらい、九条に光があたる方向に時代が変わっているわけですから、そういう時代の変化こそみるべきであって、それを見ないでアメリカから言われるままに憲法を投げ捨てて、アメリカのああいう先制攻撃の戦争、侵略戦争を、一緒にやるような日本にするのは、絶対に許すなという声を、みんながあげるべきときだと思います。

若い世代のなかで、平和へのエネルギーと行動が広がっている

 峰久 昨年十一月の総選挙で、憲法を守ろうという日本共産党と社会民主党が、議席が減ってしまいました。社民党の人たちの中では、いま若い有権者に護憲という主張が十分に浸透しないというぼやきも聞こえるんですが…。

 志位 私たちはそういうぼやきはしませんね。むしろ若い方々の中で、イラクの問題、憲法の問題、平和の問題などで、ほんとうに真剣に考えて行動しようという、新しいエネルギーが大きくわきあがっているという感じを強くもっています。とくに、昨年のイラク戦争をめぐって、高校生や大学生の方々が大いに立ち上がった、そしてその方々がいまはイラクへの自衛隊派兵に反対するたたかいをさらに発展させている。こういう状況があるわけです。

 憲法九条の理念は、古くなったどころか、二十一世紀にこそ生きる理念です。そこに大きな希望をもって未来をたくしている若い方々が広がっていますから、そういう方々と大いに協力しながら、前途を開きたいと思っています。

参議院選挙、景気の現 状認識について

 峰久 各政党とも、今年七月の参議院選挙に向けて、いま、着々と準備を進めていると思います。そのなかで、日本共産党は、早々と衆議院選挙の公認候補を発表された。これは、ダブル選挙を想定しているのではないかという声もあるぐらいですが、これはどういう理由なんでしょうか。

 志位 もちろん、当面する国政選挙は参議院選挙です。私たちは、先日の党大会でこの参議院選挙で、比例代表では、総選挙で獲得した四百五十八万票を133%以上に増やそう、そして六百十万票以上獲得して、五議席を確保する、そして、七つの現職区で必ず議席を死守しようじゃないかという目標を決めました。そして、その目標に向かって、選挙の独自の活動を大いにやりながら、党勢の拡大も大いに力を入れて、選挙までに「しんぶん赤旗」の読者を一・三倍に増やし、党員を増やして選挙をたたかおうという方針を決めて、新しい前進の機運が党全体に広がっているところです。

 そのなかで、もちろん、参議院選挙が前面なんですが、総選挙もいつあるか分からないという状況です。それから、総選挙の候補者を早く決めることが、参議院選挙と相乗的なとりくみの推進にもつながります。次期総選挙で、私たちは、失地の回復と前進を必ず果たしたいと決意していますから、そういう意味もふくめて、ああいう候補者の決定をやったということです。

 峰久 景気の現状認識について、ぜひうかがいたいんですけれども、昨年第4四半期(十―十二月期)のGDP(国内総生産)プラス1・7%で、年率換算だと7%ということで、政府・与党のなかにも「構造改革が着々と実を結んでいる」という見方もありますが、その辺については、どう分析していますか。

 志位 そういう発表がされた日に、マスコミの報道をずっと読みますと、国民、庶民の生活実感は、全然、景気回復した感じがないと、みんな共通して語られました。その通りだと思うんですね。

 指標を見ましても、二極化がはっきりしている。すなわち、一部の「勝ち組」といわれる大企業は、たしかに利益をかなり伸ばし、設備投資もそういうところで伸びていることは事実です。しかし、勤労者の所得は、この数年間、連続的に落ち込んでいます。それから、失業率も、ちょっと下がったとはいっても、もともと、4%台だったものを、一気に5%以上に上げちゃったのは小泉内閣ですから、これは、まともに下がったといえる状況ではない。しかも、雇用の中身は、不安定雇用、つまり派遣労働、アルバイト、パート、こういう非常に不安定な労働が増えるという、状態が悪くなるという問題がある。ですから、所得は全体としてうんと下がるわけですね。個人消費も非常に弱いものがあるわけです。

 いま、そういう一部の「勝ち組」の大企業が、リストラをやって、賃金をどんどん減らして、雇用もどんどん悪化させるなかで、一時的に利益を上げたとしても、これは、日本経済全体にとって、長続きしませんし、何よりも、国民の暮らしは少しもよくなっていないというところが、一番の問題だと思います。

 このあと、志位委員長は、地方税財政の「三位一体改革」と地方自治体への影響について、峰久氏の質問に答えました。