2005年11月24日(木)「しんぶん赤旗」

小泉外交の二重の破たん

CS放送 志位委員長が語る


 日本共産党の志位和夫委員長は、二十三日放映されたCS放送・朝日ニュースターの番組「各党はいま」に出演し、日米関係や東アジア関係など小泉内閣の外交の問題について質問に答えました。主なやりとりを紹介します。聞き手は、朝日新聞の三浦俊章論説委員でした。(二十一日収録)


■“日米関係さえ良ければ”という議論は、どこにも通用しない

 三浦 日米首脳会談、APEC(アジア太平洋経済協力会議)など外交問題ですが、どうも小泉総理の旗色がよくありません。日米首脳会談では、「日米関係が良ければ良いほど、中国、韓国、アジア諸国をはじめとする世界各国との良好な関係を築ける」との発言もありましたが。

 志位 これは異様な「日米同盟」絶対化論といいますか、“日米関係さえ良ければ中国も韓国もついてくる”といわんばかりの侮辱的な発言です。いま日本と中国、日本と韓国の間にあるのは、歴史問題なのです。靖国参拝という侵略戦争を正当化する行動を、日本の首相がとったことに対する当然の批判がよせられている。まったく性格が違う問題です。そのときに“日米関係さえ良ければ”というのは、まったくの考え違いです。

 この議論が通用しないことは、すぐに証明されました。盧武鉉大統領との日韓首脳会談では、「韓国に対する挑戦だ」という非常に強い批判がされました。小泉首相は、“おたがいに米国と同盟をむすんでいる兄弟の国じゃないか”と説得を試みたようだけれども、そんな議論はまったく通用しなかった。中国との関係では、首脳会談はもとより、外相会談すらできない。深刻な国際的孤立におちいりました。

 しかも日米首脳会談のなかでも印象的だったのは、ブッシュ大統領から「中国をどうみているのか」という問いかけがやられた。問いかけの形だけれども懸念がよせられたわけです。アメリカでは、下院のハイド外交委員長が、首相の靖国参拝にさいして遺憾の書簡を駐米日本大使に送るという動きが起こりました。米下院では世界大戦六十周年にさいして、日本の戦争犯罪の再確認の決議がおこなわれています。アメリカにとっても、「日米開戦はアメリカによって強要された」というような、靖国神社が流しているような歴史観はとうてい受け入れがたい話なのです。

■アメリカは「力の政策」をとりつつ、東アジアへの外交戦略をもってのぞんでいる

 三浦 米中会談をみると、アメリカはもっとグローバルにものを考えている印象がありましたが。

 志位 私は、アメリカがとっている外交・軍事路線をみるさいに、一国覇権主義にたって、先制攻撃の戦争をすすめる、その基本は変わっていないと思います。それはイラクでの無法なやり方にも示されています。

 同時に、軍事一本やりでは世界は動かないということで、外交的戦略をもって対応することも一方では始めているわけです。米中首脳会談では、「建設的協力関係」が確認されました。これまでブッシュ大統領は、中国を「戦略的ライバル」とよんでいたこともあったわけですが、「建設的協力関係」を全面的に推進することで一致した。米中の関係はさらに前に一歩進むということになったわけです。

 アメリカは、「力の政策」の基本を変えないけれども、それだけでは世界が動かせない。そのもとでアメリカなりに外交戦略をもって、中国との関係も一歩前進させる。米国は、ASEAN(東南アジア諸国連合)との関係も、東南アジアの平和原則を尊重した共同声明を発表するなど、前進させています。ところが日本だけが歴史問題で矛盾が噴き出してしまって、一人取り残されてしまっています。

 三浦 外交戦略そのものがない。

 志位 「日米同盟」をいうだけで、外交戦略そのものがない。たいへんな破たん状態というほかありません。

■「代価を払え」の一言での基地強化おしつけに、自治体からの激しい批判が

 志位 歴史問題での破たんにくわえて、アメリカいいなり外交というもう一つの破たんが顕著になっています。

 三浦 日米安保の「代価」というのがキーワードになっています。

 志位 そうですね。小泉首相は、日米首脳会談で、「平和と安全」の「代価」として基地の負担は当然だという立場をのべ、一連の基地強化の計画を自治体に無理やり押しつけることを表明しました。この「代価」という言葉は、全国の基地で苦しんでいる自治体の首長のきびしい批判の的になっています。

 三浦 従来も基地問題があったと思うんですが、もう少し地元と話し合った経過があった。今回はずいぶん高飛車な感じがしますね。

 志位 そうですね。私も、相模原市、座間市にうかがい、市長さんとお話ししましたが、何の情報もない、まったく頭越しにやられているということへの怒りは強かったですね。今度の日米合意に対しても、相模原の市長さんは「戦車にひかれても絶対に反対だ」という非常に強い反対論をいっています。「代価」の一言で基地を頭越しに自治体に押しつけようとする。これが怒りの的となり、ここでも大破たんがおこりつつあります。

 私は、小泉外交は、歴史問題での破たん、アメリカいいなりの路線の破たんという、二重の破たんが明りょうとなり、そのことが今度の日米首脳会談、APECでいっそう深刻な段階にすすんだと思います。

 三浦 沖縄の場合は、辺野古沖の施設の移転先を、かなり細かい日米の交渉取引で合意しましたが、この経緯ならびに結果をどう見ますか。

 志位 日米で今回合意した「沿岸案」というのは、最初の検討の段階で、いちばんひどい案だということで否定されたものです。辺野古の集落に、爆音、危険が直撃するいちばん悪いところに、海を埋め立てて巨大な滑走路をつくる。ついでに軍港までつくるという話ですから。沖縄北部を海兵隊の要さい化するという最悪の案を押しつけてきた。沖縄県民は絶対に認めないでしょう。

■日本外交のゆきづまり――日本国民全体の英知で解決を

 三浦 政治の現象で非常に興味深いのは、小泉首相は、ことの是非や賛否は分かれても、国内においてはある程度政策をやって選挙に勝ちつづけている。それに比べてあまりにも外交になると、いまおっしゃったように非常にプア(貧しい)な業績しか立てていない。これはやっぱり、郵政民営化的な単純化した手法を外交にも安易につかっているんでしょうか。

 志位 小泉首相のやり方をみていると、郵政民営化のときに「郵政民営化さえすれば日本はばら色になる」といいました。国民に真実を語らず、争点を一点に単純化して、それさえ突破すればすべては「ばら色」だといって、閉塞(へいそく)状況から何とか脱出したいという一定の国民の気持ちをつかんだ。これは一時のことであって、幻想ははがれ落ちていくと思います。

 外交でも、小泉首相は、同じ単純化の手法を使おうとした。「日米同盟さえ良くすればすべてはばら色だ」と。しかし外交は、そんな単純化が通用するような世界ではないわけです。そのやり方がさっそく大破たんしたのが、今度のAPECだったわけです。とくに歴史問題での首相の行動は、アジアに受け入れられないのはもちろん、アメリカとの関係でも「ちょっと待てよ」ということになるわけです。

 三浦 たしかに遊就館にみられるような太平洋戦争に至った道、アメリカに強制されたという歴史観はアメリカにも受け入れがたいですね。

 志位 アメリカにも受け入れがたい。たとえばジョゼフ・ナイ氏――クリントン政権時代に国防次官補として「日米同盟」の強化をやってきた人が、「靖国参拝は国際的思慮を欠く行為」と批判しています。コロンビア大学教授のジェラルド・カーティス氏は、上院の外交委員会の公聴会で発言し、“靖国参拝問題の核心は遊就館にみられるような侵略戦争・植民地支配賛美の立場にある。A級戦犯問題は象徴であって問題の核心ではない”と、本質をずばり射た批判をやっています。

 ですからこれは日本と中国、韓国の問題だけにとどまらないのです。日本とアメリカとの問題になっているし、日本と世界の問題なのです。世界で生きていけなくなる問題なのです。日本外交の根本からの転換は急務です。

 三浦 ひるがえってみれば、自分たちの過去をどうみるかという私たち自身の問題でもある。

 志位 そうですね。日本国民全体の英知で解決していく必要があると思います。