2006年12月20日(水)「しんぶん赤旗」
日本共産党の志位和夫委員長が十九日、国会議員団総会でおこなったあいさつ(大要)は次の通りです。
みなさん、臨時国会での奮闘ごくろうさまでした。国会閉会にあたって、ごあいさつを申しあげます。
|
今国会の最大の争点は、前国会からの継続となった教育基本法改悪問題でした。わが党は、国民運動と連携して、最後まで廃案のために力をつくしましたが、法案は、自民・公明の数の暴力で強行される結果となりました。
これは戦後日本の教育史上に最悪の汚点をきざむものであり、私は、みなさんとともにこの歴史的暴挙を糾弾するものです。(拍手)
法案は強行されましたが、わが党が国会論戦で果たした役割は、たいへん大きなものがありました。わが党は、論戦をつうじて、改悪基本法が、(1)憲法に保障された内心の自由、教育の自由を蹂躙(じゅうりん)する二重の違憲立法であること、(2)「いじめ」問題など教育の現実の問題の解決に逆行すること、(3)「やらせ質問」問題を告発し、政府・文部科学省にはそもそも教育の根本法を論じる資格がないことなどを、明らかにしていきました。
わが党の論戦は、国会論戦をリードし、国民運動の発展にも貢献しました。法案は強行されましたが、ぼろぼろとなりました。改悪基本法には、道理も、根拠も、最低限の道徳すらないことが明らかになりました。改悪基本法は、「やらせ基本法」とよばれているそうですが、今後、この悪法がつづくかぎり、「やらせ質問」でつくられた悪法という恥ずべき傷が消えることがないでしょう。(拍手)
今後のたたかいでは、改悪基本法の具体化と、教育現場へのおしつけを許さないたたかいが重要になります。私は、新たなたたかいにのぞむうえで、つぎの二つの点を強調したいと思います。
第一に、改悪基本法は、日本国憲法に背反します。ですから私たちが依拠すべきは、日本国憲法そのものであるということです。教育基本法の命であった第一〇条――「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである」は、壊されました。しかし一〇条は、直接に憲法から導かれるものであり、一〇条の精神は憲法そのもののなかに生きています。そのことは一九七六年の最高裁大法廷の判決が、「教育内容への介入はできるだけ抑制的でなければならない」とのべ、それを憲法一九条――思想・良心・内心の自由、二六条――国民の教育への権利から直接に導いていることからも明瞭(めいりょう)です。いわば日本国憲法を太陽の光にすかしてみれば、一〇条をはじめこれまでの教育基本法が浮き彫りになってみえてくるのであります。憲法に依拠したたたかいをすすめようではありませんか。(拍手)
第二に、国家による教育内容への無制限の介入をすすめる改悪基本法は、そもそも教育の条理に反するということです。教育とは、「人間の内面的価値に関する文化的営み」であり、人間と人間の直接の信頼によってなりたつものであって、自由で自主的な空間でのみ可能になります。国がどんな悪法をつくり、教育の現場を統制・支配しようとしても、教師と子どもたちの心は縛れません。よりよい教育を願う教職員と父母との共同を断ち切ることもできません。教育は、子どもたちと父母・国民に、直接に責任をおっておこなわれるべきだという教育の条理――これまでの教育基本法が体現していた精神を壊すことはできません。政府が、この教育の条理に反して、悪法を教育現場に強制すればするほど、その破綻(はたん)がひどくなることは避けられない――このことを強調しておきたいと思うのであります。(拍手)
日本国憲法に立脚し、教育の条理に立脚して、改悪基本法の具体化、教育現場へのおしつけに反対し、子どもたちをこの悪法から守り、一歩でも二歩でも教育をよくしていくとりくみに、新たな決意でのぞもうではありませんか。(拍手)
わが党は、安倍新内閣の発足のもとで、自民党政治の三つの異常な特質――歴史問題、対米従属、大企業中心主義の異常を根本からただす論戦にとりくみました。そして、国政を現実に動かす多くの働きをおこないました。
一つは、日本外交をまともな方向に動かす働きです。
この国会では、冒頭に、私たちは、安倍首相の歴史認識を正面からただす論戦をおこないました。これは首相になるまでの安倍氏の経歴が名うての“靖国”派だったことからいって、当然の追及でした。そのなかで、首相は、「村山談話」「河野談話」を認めるにいたりました。本心はどうであれ、従来の主張を公式には口に出せなくなったのであります。歴史をゆがめる逆流とのたたかいは、ひきつづく重要課題ですが、わが党の一貫した努力が、日本外交のゆきづまりを、一歩ではあるがただす結果につながりました。
北朝鮮の核実験にさいして、自民・民主の一部から危険な軍事対応論が噴出しました。これにたいして、わが党は、国際社会が一致協力して、平和的・外交的に解決をはかるべきだという原則をいち早く提唱しました。現実の国際政治は、わが党の提起した方向にすすみました。六カ国協議が再開され、今後にはさまざまな困難や曲折も予想されますが、この枠組みでの解決が平和への最もたしかな道であります。私たちは、この枠組みが朝鮮半島の非核化にむけた成果をあげることを願ってやみません。
外交問題についても、この国会をつうじて、日本共産党こそが、日本とアジア諸国との友好をもっとも真剣に考える政党であり、世界とアジアの平和と安定に責任をもつ政党だということが示されたのではないでしょうか。(拍手)
いま一つ、国民の暮らしをめぐっても、国民運動と連携し、現実政治を動かす一連の成果をかちとることができました。
「偽装請負」問題では、現場のたたかいと連携したわが党の国会での一連の追及が、この無法をただす厚生労働省の九月四日の通達につながりました。大手請負会社「コラボレート」が摘発され、それを受けてのわが党の国会質問によって、この問題は一大社会問題となりました。財界の露骨な巻き返しの動きもありますが、直接雇用の実現がかちとられつつあります。
サラ金規制問題では、国民世論の高まりと連携した国会での奮闘によって、「グレーゾーン金利」廃止という歴史的な法改正が実現しました。この問題では前国会で、わが党の奮闘もあって、与党を一時、「グレーゾーン金利」廃止の方向に追い込みましたが、その後、業界関係議員の巻き返しによって改悪の危険も生まれました。それをはねのけての画期的な勝利であります(拍手)。自民党議員からも「共産党の活動は大きな影響をあたえた。ありがとう」との感謝がよせられたと聞きました。
障害者「自立」支援法が実施され、この悪法が「自立」阻害法にほかならないことが現実になるなかで、障害者団体のみなさんの大規模なたたかいが連続的に展開されました。わが党は、六月に、独自におこなった実態調査にもとづき制度の抜本的改善を打ち出してきましたが、これらをふまえ、この国会でも「障害者の切実な声にこたえよ」「応益負担を撤回せよ」と、政府に迫りました。こうしたなかで与党も、負担軽減策を講ぜざるをえなくなっています。政府は、なお応益負担に固執しており、これからのたたかいが重要ですが、ここまで政府・与党をおいつめたのは、大きな前進だと思います。(拍手)
さらに、わが党は、「庶民に大増税、大企業に減税」という「逆立ち」税制に正面から切り込む論戦をおこないました。政府税調・与党税調が、いっそうの大企業減税を打ち出す中で、わが党の主張は世論を動かし、マスメディアでも「こんなに大企業に甘い減税でいいのか」という批判の声が広がっています。「逆立ち」税制の問題は、つぎの国会、さらには選挙を展望しても大争点の一つとなる問題ですが、この問題に先駆的にとりくんだのも、この国会での重要な活動となりました。
衆参九議席ずつでも、国民運動と連携すれば、国会を動かすこれだけの成果をつくることができる。このことをお互いの確信にしたい(拍手)。そして、この党の議席を増やすことがほんとうに切実に感じられた国会でありました。(拍手)
この国会で強行された悪法を振り返ってみますと、政府・自公とともに、民主党の責任が重大だったということを指摘しなければなりません。
たとえば「防衛省」法です。この法律は、自衛隊の海外派兵を、本来任務に位置づける自衛隊法改悪と一体のものでした。これは、これまで自衛隊の建前とされてきた「専守防衛」を公然とかなぐりすてて、自衛隊を海外派兵隊に変質させる憲法違反の悪法です。憲法改定に一歩道を開く悪法を、自民・公明・民主が一体となって推進したことは、きわめて重大であります。採決にあたって、三党は、海外派兵のための「装備品や人員等について適切な整備を行う」――海外派兵の能力の強化を政府に要求する付帯決議まで提案し、悪法をさらに悪くして成立させました。これを機に自衛隊の海外派兵型軍隊への変質がいっそう危険な形ですすむことをきびしく警戒しなければなりません。
外資系企業の献金を解禁した政治資金規正法の大改悪も重大であります。外資献金の規制は、外国勢力による日本の政治への介入を防止するためのものであり、これまで自民党でさえ手をつけることができなかったものでした。ところが民主党は、日本経団連との会談で、外資系企業の献金規制を「基本的におかしな話」として、自民・公明とともに解禁を推進しました。この大悪法は、衆院で二時間、参院で一時間半という事実上の審議抜きで強行されました。
東京新聞は、「外資からも献金いただきます センセイの“愛国心”どこへ 国会の植民地化に危ぐも」と題する記事を出しました。「『愛国心』を強調するセンセイ方も外資の献金は歓迎ということなのか」と痛烈に批判しています。こうした重大な売国法案を共同で強行した責任は重いといわなければなりません。(拍手)
教育基本法改悪での民主党の対応にも重大な問題がありました。この問題での国会内での対応について、わが党は、「与党案の成立を阻止する」の一点で、国会内での野党間の連携につとめてきました。しかし、参院の最後の局面では、書記局長・幹事長会談で確認していた首相への問責決議案の提案に、民主党は背をむける態度をとりました。これは、「法案阻止のために、衆参両院であらゆる手段を講じる」との公党間の合意を反故(ほご)にするものでした。
「読売」は、参院特別委員会の採決段階で、「参院の自民、民主両党は別の『円満採決』のシナリオを水面下で練り上げていた」と報じました。そうだとすると「やらせ質問」を追及するといいながら、「やらせ国会」を演じようとしていたことになります。
民主党のこうしただらしない対応の根本には、国による「愛国心」強制を書き込み、一〇条を壊すという点では、与党案と同じ内容の教育基本法改悪案を提出していたという大問題があります。
「毎日」は、国会をふりかえって、「民主党の顔も見えなかった」との社説を掲げました。社説では、「一体、この国会で民主党は何をしたかったのだろう。同党は今、安倍晋三首相以上に顔が見えない状態にある」として、問責決議案提出に応じなかったことを指摘し、「成立までの審議でも民主党の影は薄かったことも指摘しなければならない。タウンミーティングの『やらせ質問』問題など安倍内閣を追いつめる材料はあった。ところが、この問題は共産党の指摘で明らかになったものだ。……民主党は『自らの手がらにならない』とばかりに消極的だったのだ」と痛烈な指摘をおこなっています。
自民・公明と民主は、憲法問題でも、改憲手続き法をすりあわせ、共同案へ原則合意するというところまできています。つぎの国会では、この問題が、重大な争点の一つとなってくるでしょう。
こうして、民主党は、小沢代表のもとで「対立軸」路線を打ち出しましたが、全体を振り返ってみれば、その中身は何もみえず、自民党との悪政の共同執行者としての姿が浮き彫りになった国会となりました。
このようないわゆる「二大政党」なるものの実態とのかかわりでも、何としても日本共産党の議席をのばすことが必要です。この決意をみんなで固めあおうではありませんか。(拍手)
来年は、いよいよ二つの全国選挙がたたかわれる年となります。
わが党は、年明けの一月四日に第三回中央委員会総会を開き、つづいて全国都道府県委員長・地区委員長会議を開きます。参院選挙の比例と選挙区の予定候補者も勢ぞろいします。文字どおりの年はじめから五百人規模での全国会議を開いて選挙にそなえるのは、これまでにやったことのないとりくみであります。
何としても来年は、日本共産党の新たな前進の年としたい。そのために、今年はあと二週間となりましたが、選挙準備でも、党建設でも、上げ潮をつくり、やるべきことをやりきって全国会議を成功させ、選挙の勝利をかちとろうではありませんか。
国会は閉会となりますが、議員団のみなさんが、来年の通常国会の論戦のための準備にとりくみながら、全党の選挙勝利のとりくみの先頭にたつことを心から訴えて、閉会にあたってのあいさつとします。(拍手)