2007年1月1日(月)「しんぶん赤旗」

「三つの異常」と世界の流れ

新春インタビュー 志位委員長 大いに語る

聞き手 奥原紀晴 赤旗編集局長


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 奥原紀晴赤旗編集局長 新年おめでとうございます。

 志位和夫委員長 あけましておめでとうございます。

日本の進路を左右する大切な年――二大選挙勝利めざしスタートダッシュを

 奥原 今年は、四月にいっせい地方選挙、七月に参議院選挙が行われます。日本の進路を左右する大切な年になりますね。

 志位 まさに勝負の年ですね。日本の前途をめぐっては、憲法改定を最大の焦点としながら、「海外で戦争をする国づくり」を許していいのか、という大きな問題があります。暮らしをめぐっては、格差と貧困の新たな広がり、その根底にある異常な大企業中心の政治を続けていいのかが問われています。

 地方政治では、「住民福祉の機関」という地方自治体の本来の責務を投げ捨て、住民福祉をどんどん削りながら、大企業の「呼び込み」のために、新しい道路・鉄道・港湾・空港などのインフラ(社会資本)づくりを進め、誘致補助金をばらまく――こんな「逆立ち」政治を許していいのか。これが大問題になっています。

大会いらいの豊かな発展の芽を、花開かせ、実をむすばせる年に

 奥原 昨年の一年間は、一月の党大会決定にもとづいて、多面的で豊かな活動の発展がありましたね。

 志位 はい。何よりも、各分野での国民運動が、ほんとうに力づよく前進した一年だったと思います。教育基本法改悪反対のたたかいが、国民的運動として広がりました。悪法が強行されましたが、多くの国民が、子どもたちの未来と教育について真剣に考え、対話し、行動した。これはつぎにつながる大きな財産だと確信しています。憲法問題では、「九条の会」の盛り上がりをはじめ、草の根からの運動が広がりました。米軍再編問題でも、沖縄、岩国、神奈川など、全国でたたかいの大きな発展がありました。革新懇運動が、新たな活力をもって前進していることも、うれしいことです。

 党の独自のとりくみでは、野党外交で、党首としては初めての韓国訪問、パキスタンの公式訪問をおこない、多くの新しい友人をえるなど、新しい発展がありました。「支部が主役」の党活動の本格的な前進をはかろうと、大会決定にもとづいて、いろいろな探求がとりくまれました。「職場問題・学習交流講座」を開き、職場支部の活動の新しい前進方向をみんなで切り開いてきたことも、党に大きな活力をもたらしています。

 この一年間で、大会決定にもとづいて豊かな活動にとりくみ、未来にむけた新たな発展の芽がたくさん生まれていると思います。この芽を、選挙にむけて一気に育て、花を咲かせ、実を結ばせる年にしたいと決意しています。

国民の苦難の軽減を立党の精神とする日本共産党のがんばりどころ

 奥原 二つの選挙で日本共産党が伸びることは、国民にひどい生活を強いているいまの政治を打ち破っていく、たしかな第一歩になると思います。

 志位 そうですね。NHKテレビでも「ワーキングプア」の特集番組が二回にわたって放映され、ずいぶん話題になりました。懸命に働いても生活保護基準以下の生活しかできない貧困層が急増し、若者、女性、お年寄り、自営業者、農漁民、すべての階層に広がるという深刻な事態が起きています。その一方で、空前の利益をあげている大企業が、いまでさえ税金をきちんと払わないのに、さらに税金を減らせという動きもある。国民の苦難の軽減を立党の精神にする日本共産党のがんばりどころです。

 私たちは、新年早々、これまでやったことのない会議をやろうということになりました。一月四日というのは、例年は「党旗びらき」をやって、新年の抱負などをのべるという機会にしていたのですが、今年はこの日に第三回中央委員会総会を開き、つづけて都道府県・地区委員長会議を開きます。ここには参院選の比例代表と選挙区のすべての予定候補者も参加し、五百人規模の会議になります。二つの全国選挙の勝利にむけて、文字どおり年明け早々からスタートダッシュをはかりたい。

 奥原 二つの選挙での勝利をはじめとして、今年こそいろいろな面で新しい前進の年にしたいですね。

歴史問題――問題の解決は、これからが大切になってくる

 奥原 今日は、「『三つの異常』と世界の流れ」というテーマでお話をうかがいたいと思います。一年前の党大会決定では、「自民党政治の三つの異常」――過去の戦争への無反省、対米従属、大企業中心主義の異常を告発し、それを改革する日本共産党の立場を明らかにしました。それから一年。日本の現状はどうなのか。これを世界の流れとのかかわりでお話しいただければと思います。

 志位 「三つの異常」という問題を、「国民との矛盾」という視角とともに、「世界の流れとの矛盾」という二重の視角でとらえると、ものごとが立体的に見えてくるし、未来ある流れがどこにあるかもはっきりうきぼりになります。今日は、おもに世界とのかかわりで、お話しさせていただきたいと思います。

米国議会の「従軍慰安婦」問題決議――日本政府は国際公約を誠実に実行すべき

 奥原 まず、第一の異常――侵略戦争の正当化という問題はどうでしょう。

 志位 この問題では、現在、百九十二の国連加盟国のなかで、第二次世界大戦の侵略国家の行為を正当化しようという潮流がいまだにはびこっている国というのは、文字どおり日本一国だけだと思いますよ。

 この問題では、小泉首相から安倍首相に代わって、日中、日韓首脳会談が再開されるなど、一定の外交での前向きの変化がおこりました。しかし、これは問題解決の出発点であって、問題が解決したわけではありません。

 たとえば、アメリカでは、「従軍慰安婦」問題について、日本政府に責任を認めるよう求める決議案がこの一月から始まる米国議会に再び提出されるといいます。この決議は、昨年九月、下院外交委員会までは通過しましたが、日本政府のロビー活動で本会議での採択が妨害されたことが明らかになり、アメリカで問題になっています。

 奥原 日本政府は、大物ロビイストに「月六万ドル」もの大金を払っていると報道されましたね。

 志位 ええ。安倍首相は、「従軍慰安婦」への日本軍の関与と責任を認めた「河野談話」を継承すると言明したわけですから、こういう恥ずかしい妨害活動はやめて、この恐るべき犯罪を「歴史教育」を通じて現在と将来の世代に教えるという「河野談話」の国際公約を誠実に実行すべきです。

歴史認識の基本を共有する仕事――未来にむけた友好にとって不可欠

 志位 もう一つ、日本政府は、日中、日韓首脳会談で合意された、歴史認識の基本を共有する仕事に真剣にとりくむべきだということを、強くいいたいですね。

 私が、昨年九月に韓国を訪問して痛感したことの一つは、日韓両国民の間に、歴史認識の基本のところで、大きなギャップが存在することです。ソウルの延世大学の学生・院生のみなさんとも交流する機会がありましたが、一九一九年の三月一日に朝鮮全土でおこった独立運動――「3・1独立運動」のこと、そのリーダーとして十八歳の若さで弾圧で命を落とした柳寛順(ユ・グアンスン)という少女のことなど、植民地時代の民族の苦難とたたかいの歴史は、若いみなさんもみんなよく知っています。

 奥原 植民地支配といっても、日本ではあまり事実が知られていませんね。

 志位 そうですね。認識のギャップがあります。未来にほんとうに、日本とアジア諸国の友好を築こうとしたら、歴史認識について、すべてを一致させることはできないとしても、基本の問題については、両国政府、両国国民間で、共通の認識が必要だと思います。そのさい、両国にそれぞれ平和と良心の勢力があったということを知り合うことも大事だと思います。その点では、侵略戦争と植民地支配に命がけで反対をつらぬいた日本共産党の歴史は、日本とアジア諸国の友好のかけ橋になるということも感じました。

世界の流れは軍事同盟から平和の共同体に

 奥原 第二の異常――「アメリカいいなり政治の異常」の問題に話をすすめます。安倍内閣は自分の任期中に憲法改定を達成したいと公言しました。この改憲は、アメリカの要求に応じて、アメリカの戦争に、日本が直接参加していくためのものです。究極のアメリカいいなり政治だと思いますが、これも世界から見ると異様なことですね。

 志位 ええ。いまの世界の国々を見て、軍事同盟を強化し、海外に軍隊を派兵する態勢を強化することに熱中している国はほかにあるでしょうか。なかなか見当たりませんね。安倍首相などがすすめる憲法改定の目的というのは、アメリカと一緒に海外で戦争をする国づくりにありますが、この方向は、世界の流れにてらしてみますと、まったく見当ちがいの、逆さまの方向です。

 奥原 世界の流れにまったく合っていないと。

 志位 そうです。私は、昨年の世界の平和をめぐる動きで、三つほど注目してみてきた動きがあります。

アメリカ――イラクへの軍事的覇権主義と、北朝鮮への外交的対応

 志位 第一は、アメリカがどうなっているかという問題です。

 昨年は、一方で、イラク戦争の大破たんがはっきりした年となりました。アメリカは当初、「イラク戦争は二週間で終わる」といっていたのが、太平洋戦争(一九四一年十二月〜四五年八月)がたたかわれた年月を超える長期戦になって、ぬきさしならない状況に陥ってしまった。

 奥原 去るも地獄、残るも地獄という状況ですね。

 志位 アメリカは、イラクで二重の大失敗をしました。そもそも国連憲章を無視して無法な侵略戦争を始めたことが大失敗でした。さらにそれにつづく占領支配が、まさに「地獄の門を開ける」(アラブ連盟のムーサ事務局長)大失敗となりました。イラクにはシーア派とスンニ派という二つのイスラムの宗派があるわけですが、スンニ派の抵抗を抑えるために、シーア派の人たちを軍や警察に組み入れるということをアメリカはやったわけです。宗派間対立をテコにして占領統治をすすめるという一番悪いやり方をやってしまった。これがイラクを「内戦状態」といわれるところまで引き込みました。

 奥原 昨年秋、ブッシュの与党・共和党が中間選挙で大敗しました。

 志位 アメリカ国民にも見放されました。その後、超党派の「イラク研究グループ」の報告書が出ました。この報告書にはいろいろ問題点が多いけれど、ともかく二〇〇八年までの米軍の戦闘部隊の段階的撤退という方向を出しました。ところが、その後のブッシュ大統領を見ていますと、最初は報告書を評価するような発言をしたけれども、結局は、この報告書すら拒否する、「米軍の増派の検討も選択肢だ」ということを言い出しています。ここまで破たんしても、一国覇権主義、軍事的覇権主義にしがみつくという姿が、イラクではつづいているわけです。

 同時に、他方で、もう一つ注目すべき動きは、アメリカの東アジアにたいする対応なのです。昨年、北朝鮮で核兵器問題をめぐる危機がおこりました。それでは、アメリカは北朝鮮にたいして、イラクと同じように戦争をしかけるやり方をするかというと、ここでは別の対応をとっているわけですね。

 奥原 こちらでは外交解決にかなり熱心に動いている印象です。

 志位 そうですね。北朝鮮の核実験にさいして、わが党は、これに厳しく抗議するとともに、解決の方法としては、国際社会が一致して、平和的・外交的に解決することが大切だと主張しました。この方向がアメリカも含めて国際社会の一致になっていくわけです。国連安保理でも、この方向での決議が採択され、中国が唐家セン(王+旋)国務委員を先頭に積極的外交を展開しましたが、アメリカもライス国務長官を先頭に活発に外交的解決の努力をするわけです。北朝鮮との関係で六カ国協議再開という合意を取り付け、協議は再開されました。

 その後の展開は、なかなか簡単ではありませんが、しかしアメリカは東アジアにたいする対応という点でいうと、全体として軍事の選択肢でない対応、外交的戦略をもってのぞむということが前面に出てきているのです。

 奥原 アメリカも軍事一本やりではいかなくなっている。

 志位 ええ。一方でイラクでみられるように軍事的覇権主義にしがみついていますが、しかしそれが破たんと孤立を深めるもとで、軍事一本やりでは対応ができなくなり、東アジアにたいしては外交的戦略をもってのぞんでいる。一年前の党大会では、アメリカの動きをこういう角度から「複眼」で分析しました。その後の展開は、大会の分析通りになっていると思います。

 アメリカですら、軍事一本やりではうまくいかない、外交戦略ももって対応しなければ、というのがいまの世界なのに、それが目に入らないのが日本政府です。日本政府は軍事的対応だけがアメリカのすべてだと思い込んで、アメリカの悪いところにだけ追随する。外交的対応のほうはついていけない。

 奥原 アメリカいいなりなのに、アメリカのこともよく分かっていない。(笑い)

 志位 日本共産党のほうが、アメリカの動向をよく分かっている(笑い)。どんな超大国でも軍事の力だけで世界を思いのままにはできない。それはイラクで証明されました。そのときに憲法を変えて、アメリカと一緒に海外で戦争をする国づくりをすすめるというのは、どんなに愚かなことかは明らかです。

軍事同盟は、過去の時代の遺物になろうとしている

 奥原 そういう自民党政治が、絶対視しているのが日米安保条約です。しかし、軍事同盟というのは、いまでは世界の流れの中ではかなり陳腐なものになりつつあるのではないですか。

 志位 そうですね。私は、ここにいまの世界を見るさいの第二の注目点があると思います。二十一世紀の世界を見ますと、世界の軍事同盟が、解体、弱体化、機能不全に陥っているという状況があります。米ソ対決の時代というのは軍事同盟が花盛りで、アメリカはアメリカ中心の軍事同盟を世界中に張り巡らす、ソ連はソ連で対抗する、その対抗で世界が窒息状態という時代がありました。ところが、一方のソ連が解体して、ワルシャワ条約機構という軍事同盟がなくなりました。

 アメリカの方も、東南アジアにあった東南アジア条約機構(SEATO)はベトナム侵略戦争での米国の敗退をへて解体し、中東にあった中央条約機構(CENTO)はイラン革命を契機に解体し、オセアニアにある太平洋安全保障条約(ANZUS、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカで構成)は、ニュージーランドが非核政策をとることで、三国軍事同盟としては事実上機能停止になる。南北アメリカ大陸にはリオ条約という軍事同盟がありますが、ラテンアメリカで民主的変革がすすむもとで、これは機能していません。NATO(北大西洋条約機構)は、イラク戦争にさいして、フランス、ドイツ、カナダなど主要国が戦争反対にまわって分裂状態になり、「NATOの漂流」ともいうべき状況にあります。

 アジアに残っている軍事同盟としては、日米と米韓の軍事同盟がありますが、米韓軍事同盟は、大規模な在韓米軍撤退という動きがすすめられ、有事のさいの指揮権を米軍から韓国軍に移すということがいま問題になるなどの状況があります。軍事同盟の枠はあっても、より自主的な方向にすすもうという動きだと思います。

 そう見てくると、世界の軍事同盟の中で、これをひたすら強化する方向に熱中し、地球的規模に拡大していこうなどという動きをみせているのは、日米軍事同盟だけです。世界のなかでただ一人、流れに逆らってがんばっている。(笑い)

 奥原 唯一といってもいい異常な姿ですね。

 志位 世界の流れを見れば、軍事同盟は、二十世紀という過去の時代の遺物になりつつあるのです。

世界の各地域に、自主的な平和の共同体が広がっている

 志位 それでは軍事同盟のあとに何ができているか。私は、一言でいって、世界は、「アライアンス」――軍事同盟の時代から、「コミュニティー」――共同体の時代に変わりつつあると思います。軍事同盟が解体した後に何が生まれているかを見ますと、世界の各地域で、自主的な平和の共同体が生まれ、発展する姿があります。

 たとえば東アジアでは、ASEAN(東南アジア諸国連合)が中心になって、東南アジア友好協力条約(TAC)が素晴らしい勢いで広がっています。TACは、ASEAN十カ国のほかに中国、韓国、日本、モンゴル、ロシア、インド、パキスタン、ニュージーランド、パプアニューギニア、オーストラリアが加入して、世界人口の53%を擁する、めざましい発展をとげています。

 それから、上海協力機構(SCO)です。昨年六月開かれた創立五周年にあたっての首脳会議の共同宣言を見ますと、国連憲章にもとづく平和秩序をつくる、多様な文明間の相互尊重、平等な交流、調和的共存をはかる、といった理性的な方向が合意になっています。SCOには、中国、ロシア、中央アジア諸国、南アジア諸国が参加して、ユーラシア大陸の中心部分の広大な国々を擁する機構として発展しています。

 南米では、南米諸国共同体(CSN)が生まれています。これは南米十二カ国のすべてが加入しています。昨年十二月には、ボリビアで第二回首脳会議がおこなわれて、「コチャバンバ宣言」というのが出ていますが、ここでは「多様性と差異のもとで独自性と複数主義を備えた新しい統合モデル」をめざすとしています。統合の原則としては、多国間主義の強化、国連の原則と目的の順守、民族自決権の尊重、紛争の平和解決などが、明記されています。

 この南米諸国共同体が、たいへん面白い動きをはじめています。二〇〇五年の五月に、南米・アラブ諸国首脳会議を開催し、アラブの諸国と協力と友好の関係をつくっています。さらに〇六年の十一月、アフリカ連合(AU)と南米諸国共同体の首脳会議がナイジェリアで開催され、「アブジャ宣言」がかわされ、国連憲章と国際法の尊重、多国間主義による平和構築などを確認しています。南米諸国共同体は、つぎはアジア諸国との首脳会議を準備していると報じられています。

 つまり、平和の地域共同体が、世界各地に、それこそ世界をおおう形でできて、それぞれが連携しあうネットワークをつくりはじめている。その全体の合言葉は、国連憲章にもとづく平和秩序をつくる、公正で民主的な経済秩序を築いていく、軍事的にも経済的にも一国覇権主義は許さない。これらが合言葉になって、新しい世界の平和のネットワークがつくられつつあるのは、たいへん未来ある動きだと思います。

軍事同盟と、地域の平和共同体はどこが違うか

 奥原 軍事同盟と、地域共同体はどこが違いますか。

 志位 これはまったく違うものです。どこが違うかといえば、まず第一に、軍事同盟には、必ず「仮想敵」があるでしょう。軍事同盟は、外部に「敵」を求めるんですよ。

 奥原 なくても求める。(笑い)

 志位 そう、なくても求めるのです。アメリカはソ連崩壊のあと「敵」がなくなって大騒ぎでした(笑い)。いろいろな「敵探し」をやりました。最近では、「ならず者国家」が「敵」といったり、「テロリスト」こそが「敵」といってみたり、いつも「敵」を探している。「アメリカ大統領の最大の仕事は敵を探すことだ」(笑い)といわれるけれど、必ず「仮想敵」を求めるのが軍事同盟です。

 しかし、平和の地域共同体には「仮想敵」というものはありません。逆に外部に向かって開かれているのです。たとえばTACは、最近は、「アメリカもどうぞ入ってください」という話になっている。アメリカは嫌がって入りませんが。それぞれが外部に「敵」をもたず、外部に開かれている。だからお互いに協力のネットワークを世界中につくることができるわけです。これがまったく軍事同盟と違う。

 第二の違いは、内部的な関係です。軍事同盟には、「盟主」がいて主従の関係がつくられます。日米軍事同盟はまさにその典型です。軍事同盟には、構成国の対等・平等や、主権の尊重などという考えはないわけです。ところが、いま起こっている地域共同体は、内部的にも、構成国の対等・平等、相互の主権の尊重が貫かれています。

 奥原 いまの話をうかがって平和の共同体がまさに地球をおおう大きな流れになりつつある、そのうねりの音が聞こえてきそうな感じがします。そういう大きな流れに日本の政治も合流していくよう一歩でも前進させていきたいですね。

 志位 北東アジアには、六カ国協議という枠組みがあります。この枠組みが直面する困難を打開して、非核の朝鮮半島という目標を実現したら、この地域の平和の共同体になっていく可能性をはらんでいます。そういう点からも、この枠組みを成功させることは大切ですね。

 奥原 委員長が参加されたソウルの第四回アジア政党国際会議(〇六年九月)でも、「アジア共同体」がテーマになりましたね。

 志位 そうです。全会一致で採択された「ソウル宣言」には、「この地域に恒久平和と繁栄をもたらすとともに、われわれすべての国民の心と精神を豊かにするようなアジア共同体を構築することがわれわれの最終目標である」と書き込まれました。私の発言も、「平和のアジア共同体をめざして」というテーマでおこないましたが、会議全体の基調と響きあったと思います。

非同盟運動が新たな活力をもって発展している

 奥原 この動きとのかかわりでもう一つ、どんな軍事同盟にも加わらない非同盟の運動が戦後長く続けられていますが、この運動にも新しい活性化があるようですね。

 志位 そこが第三の注目点ですね。昨年九月、キューバのハバナで開かれた第十四回非同盟諸国首脳会議に、日本AALA(アジア・アフリカ・ラテンアメリカ連帯委員会)の秋庭稔男理事長をはじめ、日本からも代表団がオブザーバーとして参加したのですが、その一員に加わった日本共産党の笠井亮さん(衆院議員・党国際局次長)、菅原啓さん(党国際局員)から、非同盟運動がたいへんな活力をもって新たな前進を開始している様子を聞きました。

 非同盟運動の歴史をみますと、一九六一年に第一回非同盟諸国首脳会議が開かれています。その後、この運動は、だいたい三つの段階で発展してきたと、会議の発言のなかでいわれたそうです。

 第一の時期は、誕生した一九六一年から一九九一年のソ連崩壊までの時期で、この時期の多くは米ソ対決の時代でした。その時代に生まれたこの運動は、どちらの軍事同盟にも属さない、非同盟・中立の動きとして、民族自決権の擁護など世界平和のうえで重要な役割をはたしました。しかし、米ソ対決というしがらみがあって、身動きがとれなかったり、制約があったりした時代でした。

 第二の時期は、一九九一年から最近までの時期です。この時期は、「冷戦がなくなったから非同盟運動は必要なくなったのではないか」という議論が一部でおこるなかで、そういう議論を克服しながら、どんな国の覇権主義にも反対だという旗をかかげて、がんばった。それがつい最近までのことでした。

 ところが、いまは第三の時期にあるというのです。第二の時期をのりこえて、非同盟運動に参加するすべての国が、世界政治の主人公になる時代になっているというのです。そういう活性化がこの運動に起こっている。すべての国が世界政治の主人公になって、新しい世界をつくっていく、そういう意気込みで運動が発展する時代になっているといわれていたそうです。これはすごいことだなと思います。

 奥原 いま非同盟諸国会議の参加国は、どのくらいですか。

 志位 最近もいくつか増えて百十八カ国になっています。オブザーバーの国が、中国、ブラジル、メキシコなど十五カ国あります。合計で百三十三カ国、世界人口の八割を占めています。こういう流れが広がって、一つひとつの参加国が生きいきと国際政治の主人公として発言し、行動するという状況が生まれている。ハバナの会議でも発言が、一つひとつたいへん面白かったという話でした。

 カリブ海の小さな国がまとまって、カリブ共同体という機構をつくっています。この共同体の国々が、医療やエネルギーの分野で、キューバやベネズエラと関係を深め、去年の米州機構(OAS)の総会では、アメリカが提案した対ベネズエラ干渉決議に、共同してノーの声を突きつける。なかなか意気軒高なんですね。非同盟首脳会議でも、カリブ海の人口十二万人とか、八万人の小さな国々が、アメリカとは名指ししないが、一国覇権主義に反対し、単独行動主義に反対し、国連憲章にもとづく平和な世界をつくる必要があると堂々と発言する。そういう小さな国々も含めて、すべての国が対等・平等で、世界政治の主人公になるという、新しい躍動に満ちた姿がこの会議ではしめされたとのことでした。

 日本共産党は、民主連合政府をつくったあかつきには、日本も非同盟運動に参加するということを、綱領に書いてある党です。その非同盟運動が生きいきと、世界の本流になって発展してきているということは、ほんとうにうれしいことですね。

 奥原 ほんとうに胸おどる話ですね。

「新自由主義」は世界各地で破たんしている

 奥原 第三の異常――「大企業中心主義の異常」ですが、小泉内閣から安倍内閣に引き継がれた、いわゆる「新自由主義」の経済政策は、財界・大企業が好き勝手にもうける自由を最大限に追求するという政策だと思います。日本の政治では、いまそれが中心になっていますが、世界からみたら、この「新自由主義」の路線は、非常に評判が悪くなっていますね。

 志位 そうですね。「新自由主義」というのは、「自由」といっても大企業の利潤追求の「自由」だけを最優先に保障するものですから、これは弱肉強食の寒々とした社会をつくりだすという結果をまねいています。日本では貧困と格差の新しい広がりが深刻になっていますが、世界第二位の経済力を持っている国で、貧困が問題になるというのは、ほんとうに情けない異常なことだと思いますね。

ラテンアメリカの民主的変革――深さも、広さも大きく前進した

 志位 「新自由主義」をめぐっては、去年一年間ふりかえってみますと、まずラテンアメリカの民主的変革が、新たな広さと深さをもって前進しました。

 去年一年間でみても、十月にブラジルのルラ大統領が、前回よりも得票を大きく伸ばして再選されました。十一月には、ニカラグアでオルテガ元大統領が、十六年ぶりに勝利・復活しました。同じ月に、エクアドルで左翼政権ができました。十二月には、ベネズエラでチャベス大統領が、圧勝を絵に描いたような結果で三選を果たしました。

 ベネズエラでは、一九九八年に左翼政権がつくられました。ブラジルは二〇〇二年、アルゼンチン、パラグアイは二〇〇三年、ウルグアイは二〇〇四年、ボリビアは二〇〇五年に左翼政権がつくられました。それにくわえての昨年の一連の勝利ですから、まさに目をみはる勢いです。

 さらに去年は、コスタリカ、コロンビア、ペルー、メキシコで大統領選挙があって、「新自由主義」の是非が大きな争点となって、経済民主主義と独立した国づくりをめざす左翼勢力が、きん差までおいあげました。メキシコで0・5%、コスタリカは1%ぐらいのほんとうのきん差で、あと一息で政権獲得というところでした。

 ベネズエラやブラジルで、左翼政権がより強固な基盤をもって定着するという点では、民主的変革がさらに深くなった。同時に、南米だけではなく中米にも広がっていく。そういう広がりをしめしたという点でも、ほんとうにうれしい一年だったと思います。

 奥原 このラテンアメリカは、「新自由主義」の害悪にさんざんさらされた地域ですね。

 志位 そうです。一九八〇年代、九〇年代にわたって、アメリカを先頭にしたIMF(国際通貨基金)路線――規制緩和、外資の自由化、民営化、社会保障の切り捨てが、押し付けられました。電力、電話、鉄道、郵政、年金などが民営化され、民営化された企業は外資によって食い物にされていく。そして貧富の差が劇的に広がり、貧困層が増えるという状況がおこって、この矛盾が爆発し、民主的変革の波という形で広がりました。アメリカのすぐ足元にある国々が、「新自由主義」に徹底的なノーを突きつけているんですね。

 イギリスの新聞のガーディアンが、昨年十二月四日付で、「左翼の大陸」という論評を書いています。「ラテンアメリカにおいて、中道左派の統治に代わるものを見いだすのは難しい。……これまで排除され、社会的に無視されてきた膨大な人々を政治に参加させている動きの勝利が続くことに希望を見いださないことは困難である」。

 しかも、この変革は、すべて選挙で多数の支持を得て進めている変革です。もちろん変革には反動がつきものですから、この先、個々には、逆流も起こるかもしれないけれども、全体としてもうとめようのない社会進歩の流れがこの地域で起こっているというのは、世界的にも巨大な意義をもつものです。

 奥原 ベネズエラの大使は、昨年十一月の「赤旗まつり」にも見えましたね。

 志位 私も会場でお会いしました。大使が、「ユネスコは、ベネズエラはもう読み書きができない人がいない国だと宣言しました。FAO(国連食糧農業機関)は、ベネズエラは国連ミレニアム目標(貧困削減などの目標)を期限前に達成したと評価しました」と、うれしそうに語っていたのが、たいへん印象的でした。

インドでの注目すべき新しい政治の前進

 奥原 もう一つ、インドという非常に多くの人口を抱えた国でも、昨年、新しい変化が生まれましたね。

 志位 インドからは、去年、四月から五月にかけておこなわれた州議会選挙で、たいへんうれしい勝利の知らせがありました。インド共産党(マルクス主義)を中心とした左翼勢力が、西ベンガル州とケララ州で圧勝したというニュースです。議席の占め方がすごいですね。西ベンガル州では、左翼戦線が二百九十四議席中、二百三十五議席ですから、四分の三以上の圧倒的多数の議席です。ここの左翼政権は、一九七七年に政権を獲得していらい七回連続勝利し、三十年間続いている政権です。

 ケララ州というところは、インドの南部の西海岸にある州ですけれども、ここは、インドで一番はじめに左翼政権がつくられた州です。取ったり、取られたりということの繰り返しだったのですが、今回は、百四十議席中、九十八議席を左翼戦線が獲得して、政権を奪還するということになりました。

 トリプラ州も左翼政権が統治している州です。西ベンガル州、ケララ州とあわせて三つの州で、左翼勢力が政権を担当するという状況になりました。三つあわせますと、人口が一億二千二百万人もあるんですよ。日本と同じような人口を、インド共産党(マルクス主義)を中心とする左翼連合が、統治しているわけですから、これはたいへんな変化が起こっているといえますね。

 インドという国は、連邦制をとっている国ですから、軍事、外交の権限は、中央政府が持つわけですが、それ以外の内政上の広範な権限は州政府にあるのです。州ごとに首相もいるし、大臣もいる。州ごとの権限がたいへんに強い。インド共産党(マルクス主義)は、中央政府との関係でも閣外協力という形で、与党の一角を支えるということになっていて、人口十一億人のインドの中央政府にも強い影響力を持っていますが、同時に三つの州では左翼政権の担い手となっている。これはたいへん大きな変化だと思います。

 左翼政権はこの変化について、中央政府は「新自由主義」の政策をやろうとしている。しかし左翼主導の州政府は、それに対抗して、住民の暮らし本位の政策の実施のために奮闘している。重要分野の公共部門を守り、最貧層を保護する政策的対案を提示していると説明しています。

 私は、四年ほど前に西ベンガル州を訪問し、ブダデブ・バタチャリア首相と会談したことがありますが、そこには貧困対策――貧しい人々への医療、住宅、教育、職業訓練などを最優先の課題として、情熱を傾けてとりくんでいる姿がありました。人民に根を張った左翼政権の強さを感じました。

日米で「貧困率」のトップ争い――「新自由主義」に未来なし

 奥原 「新自由主義」の世界的な破たんがはっきり見えてきましたが、「新自由主義」の本家のアメリカでもいろいろな問題が生まれてきていますね。

 志位 日本でもいま「ワーキングプア」という言葉が使われ出したんですが、これは英語ですものね。もともとアメリカで始まった言葉です。「新自由主義」の本家のアメリカでは、どの分野を見てもひどい事態になっています。ОECD(経済協力開発機構)がおこなった発達した資本主義国十七カ国の調査によると、その中で「貧困率」でトップはアメリカです。日本は二位で肉薄し、トップ争いを日米でやっている。医療の問題でも、アメリカには国民をカバーする公的医療保険がないでしょう。アリコだとかアフラックだとかの医療保険会社にさんざん高い保険料を払わないと医者にもかかれない。急病で運ばれても保険に入っていない人は手術も受けられない。たいへん悲惨な形で、本家のアメリカでも「新自由主義」の破たんはすすんでいます。

 「新自由主義」には未来なし。これは世界で証明されていると思います。

ベトナム訪問について 

 奥原 委員長はこの一月、ベトナムを訪問されますね。

 志位 はい。ベトナムが、ドイモイという路線を始めたのが一九八六年ですから、それからちょうど二十年たったわけですが、この間のベトナムの経済成長、貧困削減はめざましいものがあります。ベトナムではこの路線を「社会主義志向の市場経済」と特徴づけていますが、「市場経済をつうじて社会主義へ」という道を探求している点では、日本共産党の綱領の立場とも共通する方向があると思います。

 昨年一月に、IMFが出したベトナムについてのレポートを読んでたいへん面白かったのは、ベトナムは、一九九三年に58%あった貧困層を、二〇〇二年には20%まで減らしているとして、「ベトナムの貧困削減はめざましい成功」をとげたと評価をしていることです。ベトナム支援国会議でも、「ベトナムの貧困対策の成果は(世界の)経済発展におけるもっとも成功した例である」という評価がされています。

 私は、ベトナムの訪問は今回がはじめてですが、ベトナム共産党指導部のみなさんと、世界とアジアの平和について意見交換をおこなうとともに、ドイモイの実態や教訓についてもぜひよく見てきたいと思っています。ハノイとホーチミンと両方の都市を訪問することになっていますが、経済の現状も実地で見てきたいと楽しみにしています。

日本でも希望ある前進を記録する年に

 奥原 日本共産党の野党外交は、昨年、韓国・パキスタン訪問など新しい発展をとげましたね。

 志位 野党外交は、それをつうじて世界の平和と友好に貢献するとともに、私たちの世界にたいする認識を豊かにするうえでも大きな意義があることを感じます。いま世界はほんとうに躍動的な発展のなかにあります。その流れにてらすと、「三つの異常」をもつ自民党政治に未来がないことは、いよいよはっきりしてきます。ぜひ日本でも希望ある前進を記録する年にするためにがんばりたいと思います。