2007年2月15日(木)「しんぶん赤旗」

貧困から子どもを守れ 政治の責任をただす

衆院予算委 志位委員長の総括質問(大要)


 日本共産党の志位和夫委員長が十三日の衆院予算委員会でおこなった総括質問(大要)を紹介します。


柳沢発言

志位委員長 女性を国家の人口政策の道具とする思想のあらわれだ

安倍首相 誠に申し訳ない、極めて不適切だった

志位 何が問題かをいまだに理解していない厚労相は罷免を

写真

(写真)質問する志位和夫委員長=13日、衆院予算委員会

 志位和夫委員長 日本共産党を代表して安倍総理に質問します。

 この間、柳沢厚生労働大臣の発言に国民のきびしい批判と怒りが集中しました。この発言のどこが問題か。

 まず柳沢大臣の「女性は子どもを産む機械」という発言が、女性の人格と尊厳を否定する、政治家・閣僚としてはもとより、人間としても絶対に許されない発言であることは論をまちません。

 同時に、それにつづく「あとは産む役目の人が一人頭で頑張ってもらうしかない」という発言には、私は、女性を国家の人口政策の道具としてしか考えない思想があらわれていると思います。ドイツのウェルトという新聞は、柳沢発言を痛烈に批判した日本のコラムニストのつぎのような言葉を紹介しています。「女性は、人口問題を解決するために子どもを産むのではない。幸せのためだ」。その通りだと思います。

 これは、一九九四年に国連が開催した「国際人口・開発会議」において採択された文書であります。ここには、「すべてのカップルと個人が、子どもを産むか産まないか、いつ産むか、何人産むかを自由に決定する基本的権利」をもつこと、個人に国家が「目標や割り当てを強制してはならない」ことが明記されています。私は、日本における少子化問題を克服するうえでも、これは大前提とされるべき原則だと思います。「一人頭で頑張ってもらう」という発言は、この国際的に合意された基本原則に真っ向から反しているところに重大な問題点があります。

 総理にうかがいます。柳沢発言の問題は、「不適切な言葉遣い」、あるいは「表現」という問題にとどまるものではありません。この発言には、女性を国家の人口政策の道具としてしかとらえない考え方・思想があらわれており、さらには「すべてのカップルと個人が自由に決定する」という国際的な基本原則に反する―ここに反省すべき根本問題があると考えますが、総理の見解を端的にお答えください。

 安倍晋三首相 ご指摘の厚生労働大臣の発言については、子どもを産み育てるということは、男女が人間としての営みとしておこなうことであって、そしてまた、この発言によって多くの方々が傷つけられた、いろんなご事情のある方々もおられます。女性をはじめ、多くの方々を傷つけることになったということは、誠に申し訳ないと、このように思うしだいであり、極めて不適切であったと、このように思います。

 志位 「極めて不適切」「誠に申し訳ない」ということは繰り返されるのですが、そのどこが間違いだったか、この根本問題として、私が指摘した問題については、柳沢大臣は一言の反省も自分の言葉ではおのべになっていないんですね。何が問題かを、いまだに理解していないと言わざるを得ません。そういう厚生労働大臣で、どうして少子化克服のための取り組みができるか。私は、あらためて罷免を要求するものです。

子どもの貧困

志位 子どもの貧困が広がり、次世代に引き継がれる危険をつくりだしている

首相 貧困が再生産される社会にしてはならない

 志位 つぎに進みます。私は、先の本会議の代表質問で、総理に「ワーキングプア」――働く貧困層の広がりなど、貧困と格差についての基本認識をただしました。いま広がっている貧困の問題は、国民の一部の問題ではありません。国民のあらゆる層、あらゆる年代をとらえて、それは広がっています。高齢者の中での貧困の広がりもたいへんに深刻でありますが、今日はとくに、子どもの貧困、すなわち貧困な家庭のもとで暮らしている子どもが増えているということについて、総理の見解をただしたいと思います。

 子どもの貧困というのはすでに、さまざまな社会問題となって現れています。たとえば、静岡県のある中学校で起こったことですが、修学旅行に行けないと申し出た生徒が三十名に達し、教師と保護者が何度も話し合って、うち二十名は修学旅行に行けたものの、残りの十名は同級生が修学旅行に出かけている間、図書館で毎日を過ごしたとのことです。「先生、おれ、修学旅行には興味がないから平気だよ」と強がりを言っていた生徒たちでしたが、この十名は、級友が修学旅行から帰ったあと、集団で暴れだし、親にも教師にも反抗し、授業も抜け出してとうとう卒業式にも参加することがなかったといいます。この子たちのように修学旅行にさえ行けない生徒が全国の中学校で激増しているという事実があります。これは一例です。

 ここにOECD(経済協力開発機構)が、昨年七月に発表した対日経済審査報告書があります。これを読みますと、とくにその中で重視されていることの一つは、日本の子どもの貧困率が高まっているということです。OECDでは、その国の平均的所得の半分を貧困ラインとしています。日本の場合、夫婦子ども一人の世帯で、手取りで年収二百四十万円が貧困ラインとなります。その貧困ライン以下の所得しかない家庭のもとで暮らしている子どもの割合、これを子どもの貧困率と規定しているわけですが、これが、日本では14・3%に達し、OECD諸国平均の12・2%を上回っている。OECDによりますと、日本の子どもの貧困率はこの間じりじりと増え続け、近い将来には、OECD諸国平均の二倍にまで高まる危険があるとされています。OECDのこの報告書は、日本における子どもの貧困率が増大していることについて、つぎのように警告しています。

 「学校教育や塾の費用の高さを考慮すると、貧しい家庭の子どもは不十分な教育しか受けられず、それゆえ、成長の可能性が阻まれがちで、貧困が次の世代に引き継がれていく危険にさらされている」

 総理にうかがいたい。OECDのこの報告書は、日本における子どものなかでの貧困の広がりが、一人ひとりの子どもの成長の可能性を阻むだけではなく、貧困が次の世代に引き継がれる危険をつくりだしているという点でも、日本の未来にとって重大な問題になっていることを指摘しております。

 総理はそういう認識をお持ちでしょうか。認識をうかがいたいと思います。端的にお答えください。

 首相 子どもたちが貧困によって未来に向かって進んで行くという芽を摘まれ、いわば貧困が再生産される、そういう日本にしてはいけないと考えています。そのなかでいま、委員が引用されましたOECD対日審査報告2006については、引用された数値やデータに根拠が不明なものもあって、その妥当性については精査が必要ではないかと考えています。またのちほど担当大臣から詳しく答弁をさせていただきたいと思いますが、いずれにせよ、最初に申し上げましたように、低所得の家庭においても適切に教育を受けることができるように支援をしていくことが必要であると、このように思っています。

 また、子どもを養育する家族、低所得家庭については児童手当、児童扶養手当、あるいは生活保護といった経済的な支援と同時に、そういう家庭において保護者が就労できる、そういう支援もおこなっていかなければならないと考えています。

母子家庭

志位 母子家庭の約6割が貧困世帯。これがまともな社会といえるか

首相 経済的な支援をおこなっていく

志位 まともな社会でないといえない。ここが問題だ

 志位 OECDのこの調査というのは、各加盟国に資料を求めたうえで出されている数字ですから、私はたしかなものだと考えます。いまの答弁で、総理はこういうことが「再生産されてはならない」ということをのべました。

 もう一問うかがいたい。このOECDの報告書では、日本における子どもの貧困率の増大の原因の一つとして、母子家庭・一人親家庭のなかで貧困が広がっていることを重大視しております。

 これをご覧いただきたい(パネル1を示す)。働いている母子家庭・一人親家庭のなかで、貧困ライン以下の世帯に暮らす子どもの割合を示した国際比較のグラフであります。

パネル1

 日本は、いちばん左でありますが、母一人子一人の母子家庭の場合、貧困ラインは手取りで百九十五万円。そのライン以下で暮らしている子どもが、なんと57・9%。圧倒的多数です。OECD平均が21・0%ですから三倍近い貧困率になります。アメリカの40・3%、カナダの27・7%、イギリスの20・6%、ドイツの15・3%、イタリアの13・4%、フランスの9・6%、こういう諸国と比べてもだんとつに貧困率が高い。

 私は本会議の代表質問で、NHKテレビの「ワーキングプア」の特集番組で紹介された、ある母子家庭の生活実態を示して総理の認識をただしました。二人の小学生の子どもを育てながら働いている三十一歳のお母さんは、昼と夜、二つのパートをかけもちしながら働いている。昼のパートでは時給六百五十円程度にしかならず、手取りが七万円しかありません。そこで夜のパートもかけもちせざるを得なくなりました。帰宅は毎晩真夜中の二時。睡眠時間は四時間から五時間という働きづめの生活が映し出されていました。とりわけ私の胸にささったのは、このお母さんが番組のなかでのべた、「あと十年がんばれば、自分の体がボロボロになっても、子どもたちは巣立つ」という言葉でした。

 昼の仕事だけでは生活できない。昼も夜も働き、そのなかで子どもたちと向かい合う時間をどうやってつくりだすかで苦闘している。これは全国の母子家庭の多くの共通した実態であります。

 私は、本会議の質問で、「シングルマザーが、わが身を犠牲にしなければ子どもを育てられないような社会が、まともな社会といえますか」。この認識を総理にただしました。しかし、総理から答えがありませんでした。自分の身も心もボロボロにならなければ、シングルマザーが子どもを育てられない。これはまともな社会と言えないと思いますが、この認識について総理にお答え願いたい。端的にお答え願いたいと思います。

 柳沢伯夫厚労相 志位委員にたいへん恐縮ですが、データのことでちょっと申し上げます。いま依拠されておりますデータでございますけれども、先ほどちょっと総理が違ったことをおっしゃったかもしれませんが、私どもの承知しておりますところではOECDの対日審査には掲載されていない文書であるということがございます。

 それからそもそも、このデータは二〇〇〇年のデータでございまして、それ以降わが国では児童手当の対象年齢の拡大、小学四年から小学六年まで拡大しました。それからまた、所得制限を緩和いたしました結果、いま子どもたちの90%がその対象になるというような児童向けの社会保障政策というものを充実させておりまして、やはりこれらのことも反映したデータで論じていただくのが正しい情報にもとづく議論になる。私どもはそのように考えます。

 首相 母子家庭のみなさまに対する支援としては、われわれ先ほど申し上げましたように児童手当、児童扶養手当、あるいは生活保護といった経済的な支援を当然おこなっていくわけでありますが、さらには就労の支援もおこなっていかなければならない。志位委員は例として引かれたのはすでに仕事をしておられるという方々だろうと思いますが、そういう方々がですね、より給与の高い仕事を、また正規社員になることも可能のような就労支援もわれわれ、おこなっていかなければならないと考えております。

 志位 (OECDの)データの問題を言われましたけれども、これは(各国の)直近の数字でそろえてあるんですよ。それから児童手当のことを言われました。しかし、児童手当というのは、広く薄く配られている制度ですから、貧困率の問題に寄与しません。ですからこのデータはまったく正しいデータです。

 私が総理に、母子家庭のお母さんが自分の身を犠牲にしなければならないような状態というのは、まともな社会とはいえないのではないかと聞いたのに対して、いろいろ言われたけども、それについてまともな社会でないとの認識をおのべにならなかった。ここが問題だと思うのです。

所得再分配

志位 税と社会保障によって、子どもの貧困率が逆に増えている

厚労相 仮にそうだとしても、改善がすすんだ

志位 改善どころか、所得の低い子育て世代への支援を減らしてきた

 志位 私は、子どもの貧困、母子家庭の貧困という大問題に、政治がどう向き合うかについて、二つの角度から、これから政府の姿勢をただしていきたいと思います。

 第一は、国の予算のあり方の問題であります。貧困と格差が広がったら、税制と社会保障によって所得の再分配をおこなう。すなわちお金持ちから所得の低い方に所得の移転をおこない、その是正をはかることが予算の役目のはずであります。日本の予算はそういう役目を果たしているか。

パネル2

 もう一枚、見ていただきたいのですが(パネル2を示す)、これは、OECDの報告書から作成したグラフです。税制と社会保障による所得再分配で、子どもの貧困率が上がるのか下がるのか、これを国際比較したグラフであります。OECD諸国を見ますと、平均で8・3%貧困率が下がっております。すなわち子ども全体の8・3%を、税と社会保障によって貧困から救い出しているのが国際水準です。ほかの国もアメリカで4・9%、カナダで7・5%、ドイツで9・0%、イギリスで12・9%、フランスで20・4%。程度の差こそあれ、税制と社会保障によって子どもの貧困率が削減されております。

 それに対して驚くことに、一番左の日本を見ていただきたいのですが、逆に1・4%貧困率が増大しております。数にしますと、三十万人を超える子どもたちが、税と社会保障によって、逆に貧困ラインの下に突き落とされている。これはびっくりする数字であります。これは、所得の低い子育て家庭に対して、あまりにも税金と社会保険料負担が重く、あまりにも子育て支援が貧しいことの結果であります。OECDの報告書では、所得再配分によって子どもの貧困率が増えるのは、OECD加盟国中の二十三カ国の調査のうち、日本だけだと指摘しております。

 総理にうかがいたい。日本では、子どもを持つ貧困家庭に対して、税制と社会保障が貧困を減らすのではなくて、逆に貧困を増やす方向に逆立ちして働いている。これは異常なことだと思いませんか。いかがですか。いや、総理に聞きます。

 厚労相 データを申し上げますが、いま志位委員が引用されているのは二〇〇〇年の、当然、諸国をそろえなければならないという都合で、そこを引いてらっしゃるわけですが、私どもの新しい、たとえば二〇〇三年のデータで申し上げますと、この十年間に、エンゼルプラン以降、子どもに対する社会保障給付というのは絶対額で一・六倍、それから給付費全体に占めるシェア、割合もですね、3・4%から3・8%に上昇しているという状況にございます。したがいまして、仮にそういうようなことが、私どもちょっとOECDの積算根拠がわからないという立場でございますが、仮にそうだとしても、それからさらに改善が進んでいるということは申し上げてよかろうかと思います。

 いずれにいたしましても、私どもはですね、社会保障のなかにおける現役世代向きの給付のシェアが、かなり諸外国に比べて低い。これは事実でございまして、これから先ですね、私どもはそれらに思いをいたしてですね、とくに子ども、児童、この人たちに対する目配りというものを的確にやってまいりたいと、このように考えているところでございます。そのための戦略会議も最近スタートいたしたと、こういうことでございますのでご理解をたまわりたいと思います。

 志位 いま、この間、所得の少ない子育て家庭に、あたかも予算を増やしてきたかのようなことをおっしゃいました。しかし、たとえば、この間、これから聞きますが、児童扶養手当一つとっても、どんどん削減してきたわけですよ。実際は、所得の低い、少ない子育て世代に対する支援をどんどん減らしてきたのが実態じゃありませんか。

 そして、二〇〇〇年以降ということをおっしゃいましたが、私ども現時点での計算を私たち自身でもやりましたけれども、私たち自身の計算でも、税と社会保険料によって貧しい子育て世代の貧困率は逆に上がると(いう結果です)。これはいまの数字でも出てきます。

児童扶養手当削減

志位 削減は、母子家庭の子どもの貧困をより悪化させる

厚労相 福祉から自立へという理念ですすめている

志位 実態を知らない発言だ。政府研究所でさえ「削減は望ましくない」と提言

 志位 具体的に二つただしたいと思います。一つは、いまの問題です。母子家庭に対して、子どもが十八歳になるまで支給されている児童扶養手当の削減の問題です。

 児童扶養手当とは、所得の低い母子家庭を対象に、「児童の心身の健やかな成長に寄与」することを目的に支給されているもので、額は子ども一人に対して、親の所得に応じて、最大四万一千七百二十円から九千八百五十円となっています。母子家庭の七割が、児童扶養手当を受給していますが、その多くが昼も夜も必死に働いているお母さんです。児童扶養手当はそういう母子家庭の「命綱」としての役割を果たしてきました。

 ところが政府はこの「命綱」を来年四月から、大幅に削ろうとしています。二〇〇三年四月に、児童扶養手当の受給が五年を超えたあとは、給付を最大半額まで減額する法改悪が行われました。これが来年二〇〇八年四月から実施されようとしています。

 「五年で削減とは母子家庭の子どもは高校に進学するなというのか」。「少子化といわれる時代に必死に子育てをしているのに、この仕打ちは許せない」。こういう怒りの声が全国から寄せられております。

 総理の認識をうかがいたい。先ほど見たように、いまでさえ日本は所得の低い子育て家庭の支援が弱く、税制と社会保障が貧困を減らすのではなく、貧困を増やす方向に働いているわけですね。児童扶養手当を削減したら、母子家庭の子どもの貧困をより悪化させ、結局この逆立ちをもっとひどくする。これは明りょうじゃありませんか。いかがでしょう。児童扶養手当の削減についてです(安倍首相が挙手しているのに、厚労相が答弁に立つ)。いや総理にうかがいたい。総理にうかがいたい。

 厚労相 あとで総理に。児童扶養手当につきましては、平成十四年の改正におきまして、激変緩和措置、離婚等による生活の激変緩和のための措置ということでスタートをいたしたわけでございますが、その位置づけを見直しまして、受給期間が五年経過をした場合には、その一部を支給停止するという仕組みを導入いたしました。

 しかし、母子家庭の置かれた厳しい経済状況を踏まえまして、法律では八歳未満の児童を養育している者、障害や重大な疾病を有する者などについて、一部支給停止の、これも対象外とすると。あるいは支給停止をする場合も、給付額については、少なくとも二分の一は保障するということに、すでにしているところでございます。今後、一部支給停止の対象外とするものの範囲をどのようにするか。それからまた、支給停止とする額についてどうするかということについて作業をすすめるわけでございますが、具体的には夏ごろにまとまる全国母子世帯等調査の結果を踏まえて、また秋以降、関係団体などの意見を聞きながら、年末の予算編成に向けて結論を出していきたいという状況にございます。

 志位 いま、いろいろ言われましたけれども、結局二分の一まで削減することはあり得ると、今後の状況を見ながら判断するということですけれども、二分の一の削減をやるということはあり得るというご答弁だったと思うんですね。(厚労相、うなずく)

 ここに、厚生労働省が設置している国立社会保障・人口問題研究所が、二〇〇五年に出版した『子育て世帯の社会保障』という本があります。この研究報告書を読みますと、児童扶養手当の削減が、母子家庭の自立促進につながるかどうか、詳細な検討をしています。

 そこでは、日本の母子家庭の母親の就労率は、いまでさえ85%、非常に高い。「先進諸国のなかで突出して高い」。にもかかわらず家計が苦しい。それが日本の特徴であって、それは母子家庭も含めて女性の仕事の多くが、長時間労働をしても低い賃金しか得られない仕事――パート、アルバイトなどに限定されていることからきているという分析をおこなっています。そして、「こうした仕事の多くは長年勤続しても賃金上昇が見込めないものであり、児童扶養手当の減額や打ち切りなどのペナルティを与えても、それが自立につながるかどうかは疑わしい」、こう言って、つぎのように結論づけています。非常に重大な結論です。

 児童扶養手当について、「マクロの雇用情勢が改善しない状況で支給条件を厳格化させたり、支給期間に制限を設けたりしても、『自立』促進にはつながらないばかりか、母子世帯の子どもの経済状況を悪化させる恐れがある」

 「母子世帯の経済的困窮は必ずしも母子世帯になった直後の一時的なものとはいえず、支給期間に制限を設ける措置の導入は、現状では望ましくない」

 これは厚生労働省の所轄の国立の研究所の調査結果ですよ。あなたは離婚などによる「激変緩和」の措置だと、「激変緩和」で五年間たったら切ることもあるんだとおっしゃいますが、実際、女性の多くの方が就ける、母子家庭のお母さんが就ける仕事は、パート、アルバイトなどに限られる。長く働けば所得が増えるとは言えないわけですよ。だから、国立の研究所は、自身の詳細な検討にもとづいて、五年で打ち切るということは望ましくないと言ってるわけですね。これは日本のデータですから、きちんと答えてください。これはやはり、重く受け止めるべき結果じゃないでしょうか。

 厚労相 いま志位委員の読み上げられた文書をちょっと聞いておりまして、間違いはないと思いますけれども、要するにいま、私どもは福祉から就業へということ、あるいは自立へという基本的理念のもとで、こうした政策の展開をいたしているわけでございますが、先ほどお読みになられた文書も、現在の雇用情勢のもとでは、というふうに書かれていた、そのように志位委員もお読みになられたと思います。私どもはやはり、基本的にですね、ただ家庭におられて、そして公的な扶助を待っていられるよりも、より社会的にですね、自立をする、就業をすることをはじめとして、そういうふうななかで、子育てをしていただくということのメリットもあるのではないか、とこのように思います。

 したがいまして、いろいろハローワーク等におきまして、また母子自立支援センターですか、そういったセンターの事業をつうじまして、できるだけ母子世帯のお母さんにも就業の機会をもってもらう、こういうふうな方向での努力をいたしているわけでございます。その成果はかなり実はあがっておりまして、実際に就業をされてですね、非常に家計においても、また子どもさんの教育においても、明るい展開をされている例もあるということをうかがっているわけでございます。

 たとえば、本人、四十八歳のお母さんと高校生の子ども二人の世帯でございますけれども、卸売業で長く働いていましたけれども、給与の遅配等があるから転職するというようなときに、パソコン教室を受講していただいた。そうしてハローワークの支援を受けつつ積極的な求人検索をおこなって、正社員としてはるかに給与においても、賞与においてもいい条件で再就職されたというようなことが現実にありまして、こうした努力の方向というのは、私は大いに促進されてしかるべきだと、このように考えるわけでございます。

 志位 先ほど私が読み上げた文書で、「現在の雇用情勢のもとでは」とたしかに書いてあります。これは、しかし二〇〇五年の段階ですよ。二〇〇五年と、削減するのは来年、二〇〇八年でしょ。三年間で女性の雇用情勢が変わりますか。パート、アルバイトから正規に大きく変わりますか。そういう見通しもない状況で、そんなきれいごとを言っても、これは実態を知らないものというしかありません。

 先ほど、「自立支援」をやっていると、「自立支援センター」をつくって成果をあげていると、中にはそういう例もあるでしょう。しかし、ほとんどの「自立支援センター」では、窓口をつくっても、安定した職業につきたいからと何回も足を運んでも、実際には求人がない。「若い人でも就職できないのに、母子家庭の私たちには到底無理だ」というケースがほとんどです。窓口があっても中身がない、これがいま政府がやっている対策ですよ。

母子加算廃止

志位 「公平」というなら「ワーキングプア」の母子家庭への支援こそ

首相 (「公平のため」をくりかえし)就労支援もしている

志位 憲法25条を侵害する母子加算廃止を中止せよ

 志位 私は、もう一つ聞きたい。来年度予算案には、生活保護を受けている母子家庭の母子加算の廃止が盛り込まれています。母子加算というのは、片親がいないことにより、子どもを育てる費用が余分に必要になるとして、加算される制度で、都市部で一人当たり、二万三千二百六十円支給されています。これも生活保護を受けている母子家庭にとって、文字通りの「命綱」であります。ところが二〇〇五年度から二〇〇七年度にかけて十六歳から十八歳までの子どもに対する母子加算が段階的に廃止され、さらに二〇〇七年度から二〇〇九年度にかけて十五歳以下の子どもに対する母子加算も段階的に廃止されようとしています。

 総理にうかがいたい。私が、代表質問でこの問題をただしましたら、総理はこうおっしゃいました。

 「現行の母子加算を含めた生活保護の基準額は、母子世帯全体の平均的な所得層の消費水準を上回っている。生活保護を受けている母子家庭と、受けていない母子家庭との公平性の確保のためだ」

 こうおっしゃいましたね。私は、これはあまりに実態を知らない、心ない答弁だと思います。

 広島市に住む生活保護を受けながら四人の子どもを育てていらっしゃる母子家庭のお母さんから、こういう訴えが寄せられました。

 「足が悪くて働けず、生活保護を受けていますが、一番の恐怖は食費です。育ち盛りの子どもが競争のように食べるからです。しっかり食べて早く大きく育ってほしいと思う半面、心の中では、いい加減にしてよと思ってしまうのです。つぎに怖いのは着るものです。すぐにサイズがあわなくなるのです。さらに、子どもたちを遊びに連れていけないことです。夏休みに海水浴にも連れていけないことが不憫(ふびん)で仕方ありません」

 総理にうかがいたい。「公平性の確保」と言うんでしたら、働こうにも働けず、少ない生活保護費で懸命に生きている母子家庭から、母子加算を取り上げるのではなくて、必死に働いても生活保護水準以下の暮らししかできない母子家庭――「ワーキングプア」の母と子の暮らしの水準を引き上げることのために、心を砕いてこそ、本当の公平になるんじゃありませんか。それこそ本当の政治の責任じゃないでしょうか。今度は、総理がお答えください。

 首相 母子加算については、本会議で答弁申し上げましたように、生活保護を受給している世帯と、受給していない世帯の公平性は見なければいけないわけでありまして、母子加算を含めた生活保護の基準額は、母子世帯全体の平均的な所得層の消費水準を上回っているわけでございます。ですから、今回の見直しは生活保護を受けている母子世帯と受けていない母子世帯の公平性の確保という観点に立って、また当然激変緩和にも留意をしながら段階的に加算を廃止するということにしているわけでして、あくまでもこれは生活保護を受けている母子世帯とそうでない世帯の公平性の観点からおこなっているということであります。

 そしてまた、先ほど大臣が答弁致しましたが、こういう母子世帯への支援の一つとしての就労支援であります。その中で、志位委員はそれは一つの例にすぎないのではないかと、こういうことをおっしゃっていましたが、それは違うんです。ハローワークにおける就労支援についてみますと母子家庭については、平成十年度から十七年度の間には紹介件数で、一・五倍になっています。そして就職件数では一・四倍に増加をしているということでございます。生活保護においては、全自治体の五割の自治体で、就労支援に向けた六百二十のプログラムを策定して、個別の支援をおこなっていますが、これにより平成十八年四月から十二月の間でですね、四千四百の母子世帯で新規就労、増収を実現しているんです。このように大きな成果をあげてきて、自立に向けて進み出している世帯はたくさんあるということも、ぜひ知っていただきたいとこのように思うわけでありまして、今後ともハローワークや自治体を通じたきめこまかな就労支援や母子家庭の自立支援にわれわれはしっかり取り組んでまいります。

 志位 一・四倍とか、一・五倍とかいっても母数が小さいのですから、ごくわずかなんですよ。数千という単位のことをおっしゃいましたが、一人親世帯というのは百四十万世帯いるんですよ。その中の六割が貧困なんです。この問題を私は問題にしている。「公平性」というんだったら、働いているお母さん、「ワーキングプア」の母と子の暮らしを引き上げることこそ本当の公平性だと言ったのに対して、本会議の答弁と同じことを繰り返しただけでした。

 母子加算というのは、単なる上乗せではありません。一人親で、幼児や成長期の子どもを育てるためには、どうしても余分な出費が必要になり、母子加算があってこそはじめて最低限度の生活が保障される。憲法二五条の生存権の保障にもとづいた制度が母子加算であります。

 私は児童扶養手当の削減と母子加算の廃止という、いわば母子家庭にとっての二本の「命綱」を二本とも断ち切ろうという仕打ちは、あまりにも母子家庭の置かれているきびしい現実を知らない、そして冷酷無情というほかない政治であり、憲法二五条の生存権を侵害するものだと考えます。これを中止することを私は求めます。

 かりに、児童扶養手当を半減し、母子加算を廃止したとしても、それによって削減される国と地方の予算の額は二千五百億円にすぎません。来年度予算案では大企業向けを中心とした企業減税の拡大、大資産家向けの証券優遇税制の温存で、合計一兆七千億円もの大減税の大盤振る舞いをやろうとしている。これを中止すれば、そのごく一部をふりむけただけでも、母子家庭や子どものいる貧困な家庭への支援を増やすことはできると、私は考えます。

最低賃金

志位 最低賃金で働いても貧困にならない社会を目標に、抜本的引き上げを

首相 抜本的に引き上げると、中小企業を圧迫する

志位 下請けいじめ、規制緩和など中小企業いじめの政治をただすことと同時並行で

 志位 第二の問題として、最低賃金の問題についてうかがいたい。

 日本における貧困の広がり、子どもの貧困の広がりの土台に、最低賃金が世界でも最低水準になっているという問題があります。日本の地域ごとの最低賃金は、時給にしてわずか平均六百七十三円です。これではかりに年間三千時間、一日十二時間、過労死ラインを上回るような働き方をしても、年収は二百万円程度で、二人世帯なら貧困ライン以下になってしまいます。

 最低賃金とは、国が、「この賃金なら働かせてもいいですよ」といってお墨付きを与える制度であります。その水準が、貧困を選ぶのか、過労死を選ぶのか、という二者択一というのは、私はたいへんな問題だと思います。

 私は総理に、最低賃金の問題についての基本的な考え方をうかがいたいと思います。

パネル3

 これを見ていただきたいんですが(パネル3を示す)、これは、労働者の平均的所得に対する最低賃金の比率の国際比較のグラフであります。

 ご覧になっていただければわかるように、ヨーロッパ諸国ではすでに四割台を超え、五割を超えている国もあります。アメリカも最近、最低賃金を大幅に引き上げる方針を決め、引き上げようとしています。そういう流れの中で、赤い棒が日本ですが、ひとり日本だけが取り残され、32%という最低賃金が、世界でも最低水準の国になっております。

 OECDなど世界で広く採用されている国際基準でいいますと、国民の平均的所得の五割以下が貧困世帯とされます。ヨーロッパ諸国は最低賃金を、当面、労働者の平均的所得の五割に引き上げ、さらに六割を目指すことを決めています。それは、最低賃金で働いても貧困にならない社会が目指すべきあたりまえの社会だと考えられているからであります。

 わが国でも、最低賃金について、こうした考え方をとるべきではないのか。最低賃金で働いても貧困にならない社会、すなわち最低賃金は、労働者の平均的所得の五割を目標に、抜本的に引き上げるという考え方に立つべきでないのか。現在は平均的所得のわずか32%ですが、この最低賃金を五割を目標に引き上げるとしますと、時給でだいたい千円程度となります。時給千円というのは、全労連や連合などの労働団体がナショナルセンターの違いをこえて共通して要求している額ですが、わが党はそれには合理的な根拠があると考えます。

 これは総理にうかがいます。基本的考え方です。最低賃金で働いても貧困にならない社会を目標にする。そのために最低賃金は労働者の平均的所得の五割を目標とする。仮にこの水準にすぐに実現できなくても、考え方として五割を目標に掲げることは当然だと考えますが、いかがでしょうか。

 首相 最低賃金については、低廉な労働者の労働条件の下支えとして重要なものであると、こう認識いたしております。今国会に提出する改正法案においては、最低賃金制度がセーフティーネットとして十分に機能するように、生活保護の水準とも整合性をはかりながら、考慮することを明確にすることとしております。また、ただいま委員がおっしゃった千円に、全国一律に千円にしろということでございますが、これはやはり、この現実面をみてみますと、中小企業を中心にですね、労働コスト増によって事業が、事業経営が圧迫された結果、かえって雇用が失われるということになる可能性のほうが私は高いのではないか。現実に、非現実的ではないかと思います。

 そしてまた、全国一律ということはですね、これはやはり地域によって物価の水準に差がありますし、また経費も異なっているわけでありまして、適切ではないのではないかと、こう考えております。

 いずれにせよ、今回の法案が成立したあかつきには各都道府県の地方最低賃金審議会において、法改正の趣旨にそった議論をおこない、現下の雇用、経済状況を踏まえた適切な引き上げ等の措置を講じてまいりたいと考えています。

 志位 (最低賃金を)抜本的に引き上げると、中小企業の経営を圧迫することになるということをおっしゃいました。私は最低賃金の抜本引き上げを中小企業の経営を応援する政治と同時並行ですすめるべきだとこう思います。

 中小企業の経営の圧迫というのなら、たとえば、大手親企業による単価の買いたたきなど、下請けいじめを横行させている政治の責任が問われます。たとえば、トヨタの場合、部品関連メーカーなど一次、二次、三次などの下請け企業に対して、「乾いたタオル」を絞るとまで表現されるコストダウンを要求しています。ある部品メーカーの二次下請けは「韓国価格」と大きく表示された注文書で発注されたといいます。韓国並みの賃金でやれということですよ。「アジア価格」とか「中国価格」などでの発注もされるといいますが、日本一の大もうけをあげている巨大自動車産業が、下請けに対して最低賃金をまったく無視した賃金を前提にした単価を要求している。こうした下請けいじめの無法をやめさせることが必要ではないか。

 また政府がすすめてきた規制緩和万能論というのは、中小企業を本当に痛めつけています。大型店舗の出店が野放しになった結果、全国の地元商店街が荒廃させられ、どこでもシャッター通りです。タクシー業界に規制緩和が押し付けられた結果、タクシー労働者の収入は激減し、多くは最低賃金ぎりぎりの生活を強いられています。平均賃金が地域の最低賃金を下回っていると推定された県が、宮崎、大分、高知、島根の四県あります。宮崎のタクシー労働者の時給ご存じでしょうか。時給換算でわずか五百十八円です。地域最低賃金の六百十一円よりもはるかに低い水準での労働を余儀なくされている。中小企業を痛めつけている規制緩和万能論を抜本的に見直すことが必要ではないでしょうか。

 私は、総理に聞きたい。最低賃金の抜本引き上げを、いまのべたような中小企業の営業を守る政策に本腰を入れて取り組むことと同時並行ですすめるべきじゃないでしょうか。そうすれば最低賃金の引き上げは、労働者の収入を増やし、消費を増やし、地元の中小企業の売り上げ増につながり、そして日本経済を草の根から温めていく力にもなるでしょう。最低賃金の抜本引き上げと同時並行で、中小企業の営業を応援する政治に切り替えるべきだ。これは同時並行でやるべきだ。いかがですか。

 首相 私たちがやろうとしていることはまさに、最低賃金を四十年ぶりに改正するということと、中小企業を支援していく、中小企業の生産性を上げていく、あるいは地方の中小企業を支援していく、地方の中小企業において地場産業としていろいろな特徴を生かしているのであればそれを応援していこう。そういうことにおきまして、私どもはまさに最低賃金の改正と中小企業の支援を同時におこなっていきたいと考えております。

 志位 同時といいますけれども、抜本的引き上げはやらないというわけでしょう。生活保護の水準に見合ったものにしか、その程度にしか引き上げないというわけでしょう。私が言っているのは、(労働者の平均的所得の)五割の水準を目指すべきだと、そうしなかったら最低賃金で働いても貧困から抜け出せない社会なんですよ。それではいけないということを私は申し上げた。なぜ抜本的引き上げということを言えないのか。もう一回答えてください。

 首相 私どもはまさに四十年ぶりの改革をおこないます。しかしその中で中小企業の実態を見ながら結果的に経営を圧迫して雇用が失われないようにしなければならない。そこも私たちはやはり留意をしなければいけないんです。そして全国一律であってはならない。東京と、やはり地方とではですね、いわば物価も全然違うわけであります。かかる生活費も違う中においてですね、その中で地方がその地域の特性を生かして、強さを生かして頑張っているのであれば、その強さを奪ってはならない、私はこのように思います。

 志位 四十年ぶりの最低賃金制の改定だといわれました。最低賃金制度が創設されたのは一九五九年ですけれども、時の首相は岸信介首相でした。創設のさいにもこれと同じような議論があったんですよ。すなわち最低賃金制度をつくるよりも、中小企業対策を先行させるべきだと、中小企業を圧迫するから最賃制はふさわしくないという議論があったんですよ。それに対して、当時の岸首相は国会答弁でこう言っている。

 「むしろ並行して進めるべきだ。この制度が施行されて、中小零細企業の劣悪な労働条件が改善され、能率もあがり、事業も安定し、過当の競争もなくなるということが、むしろ中小企業の対策としても効果があるし、それによって混乱を生じることはないと考えております」

 私は、立場は違いますが、見識のある発言だと思います。引き継ぐというのならこういう見識こそ引き継ぐべきではないか。

 (全国)一律の制度は適さないといいました。しかし全国一律の制度をつくって、地域ごとに上乗せしたらいいんです。

 私は、貧困と格差を土台からただしていくためにも、最低賃金を抜本的に引き上げ、全国一律の制度にすることが本当に強く求められているということをのべて、質問を終わります。