2007年7月12日(木)「しんぶん赤旗」
日本記者クラブ主催で十一日に開催された党首討論会で日本共産党の志位和夫委員長がおこなった発言(大要)を紹介します。ほかに安倍晋三・自民党総裁、小沢一郎・民主党代表、太田昭宏・公明党代表、福島瑞穂・社民党党首、綿貫民輔・国民新党代表、田中康夫・新党日本代表が出席しました。
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党首討論の第一部では、各党党首が冒頭、今回の参院選挙で有権者に一番訴えたいことを二分間で表明しました。
安倍氏は「教育改革」「公務員改革」「経済成長」などの「実績」を強調し、改憲手続き法の成立に関しては、「憲法改正に向け基礎をつくった」などと述べました。
小沢氏は、参院選挙を「年金信任選挙」と位置づけたうえで、「自称、百年安心の与党か、抜本改革の民主党か」と述べました。
太田氏は「未来に責任をもつ政党」「次の世代によりよい日本を」などと美辞麗句を並べ立てました。
これをうけ志位氏は次のように述べました。
志位 今度の選挙で私たちは、「『ストップ貧困、憲法九条守れ』――この願いは、『たしかな』野党・日本共産党にこぞってお寄せください」ということを訴え抜いてたたかいます。
「消えた年金」問題については、一億人の国民すべてに年金納付記録を通知するということなどをはじめ、建設的な提案をしてまいりましたが、国の責任で、一人の被害者も残さず解決するまで、私どもも力をつくしたいと思います。
「ストップ貧困」という点では、いま、「ネットカフェ難民」「医療難民」「介護難民」など、「経済大国」といわれるこの日本で貧困が深刻になっているのは大問題です。
この事態を打開するために、私たちは、住民税の増税と消費税の増税を中止させること、医療、介護、子育て、障害者福祉などで国民の負担を軽減する「緊急福祉1兆円プラン」を実行すること、最低賃金を全国どこでも時給千円以上に引き上げ、人間らしく働けるルールをつくることなど、具体的な提案をしております。
憲法問題も、この選挙の重要な争点です。自民党の「マニフェスト」では、三年後の国会で改憲案の発議をすると述べられており、これにストップをかけることはたいへん重要です。憲法九条を投げ捨てて、「海外で戦争をする国」につくりかえる、これは絶対に許してはなりません。党をつくって八十五年、反戦平和を貫いた日本共産党が伸びることが、憲法九条を守り抜く一番たしかな力になることを訴えたい。
日本共産党が伸びれば、政治をかならず変える力になります。一議席増えますと、党首討論で発言権が生まれます。二議席増えますと、議案提案権で国民のみなさんの要望を法案で出せます。どうか日本共産党へのご支持をよろしくお願いいたします。
各党党首が、質問相手を指名しておこなう討論に移りました。志位氏は、住民税大増税、消費税増税問題をとりあげ、安倍氏に迫りました。
志位 安倍さんに二問、質問します。
六月から庶民の家計を住民税の大増税が襲い、日本列島で怒りの声が沸きあがっています。たとえば東京都では都内の四十五区市町村だけでも、都民からの苦情、問い合わせがすでに十四万件を超え、「預金もなく払えない」「生活できない」「死ねというのか」など激しい怒りの声が殺到しています。安倍・自公政権が定率減税を廃止し、一兆七千億円もの庶民増税を押し付けた結果であります。
問題は、政府・与党が、定率減税廃止の理由を国民にどう説明していたかということにあります。ここに二〇〇三年十二月に自民、公明が決めた「税制改正大綱」があります。これを見ますと、定率減税の廃止とお年寄りへの年金課税の強化による増税によって、基礎年金の国庫負担割合を三分の一から二分の一に引き上げるための「安定した税財源を確保する」と述べています。すなわち“増税分は年金にまわす”ということがはっきりと述べられています。
増税の方はすでに実施され、政府によると国税分だけでも年間二兆八千億円の増収になるといいます。
そこで安倍さんにうかがいます。基礎年金に対する国庫負担は増税前の二〇〇三年に比べていったいどれだけ増えたんでしょうか。大まかな数字で結構ですから、数字をお答えください。
安倍 ただいま志位さんの質問の中で所得税の話がありましたが、まずは所得税、住民税、国税と地方税の税源移譲によるものでございまして、これはいわば基本的には中立になっている。所得税の分で減った分が住民税が増えているかたちになっている。定率減税については一部を基礎年金の三分の一から二分の一に上げていくものの原資にします。残りについては、後の代に借金を残さないということから、累積債務を減らしていく原資に充てていきます。そこで志位さんの質問(への答え)は三千億かな、数千億だと思います。
志位 いま定かな数字をおっしゃらなかったが、政府の答弁では五千百億円にすぎません。すなわち定率減税の廃止とお年寄りの課税強化で二兆八千億円の増収があったにもかかわらず、基礎年金に積みあがった部分はその二割弱にすぎない。つまり八割はほかに流用されたことになる。
実際、今年度予算では、大企業や大資産家向けの一兆七千億円の減税がなされている。結局、「年金財源のため」といって増税をかけておきながら、大企業などのための減税にばらまかれたのではないか。これは国民を欺くやり方だと申し上げておきたい。
志位 もう一問聞きます。安倍さんは民放テレビ番組で「消費税を上げないとは一言も言ってない」と述べました。日曜日(八日)のテレビ討論では「消費税を上げないですむ可能性がある」といいました。これは裏を返していえば、消費税を上げる可能性もあるということになります。
そこで安倍さんにうかがいたい。わが党は消費税を上げることに絶対に反対ですが、秋の税制改正で消費税を上げる可能性があるならば、事前にこの参院選挙で国民に審判を仰ぐべきではないでしょうか。
参院選挙を、上げる可能性があることをはっきり言わずにやり過ごして、選挙が終わった後の秋に増税を決めてしまい、既成事実の追認を迫るというやり方は、「税金のあり方を国民が決める」という、国民主権にもとると思います。消費税を上げる可能性があるならば、そのことを参院選挙で国民に正直に話し、事前に審判を仰ぐべきではないでしょうか。その意思はありますか。イエスかノーかで端的にお答えください。審判を仰ぐつもりがあるのかどうか。
安倍 定率減税については、決して流用ではなくて、三分の一から二分の一に上げていく年金の原資にしています。そして残りは先ほどもいいましたように、借金を返していく。当然これは私たちの義務であろうと思います。そこで三分の一から二分の一に上げていくうえにおいて、全体としては二・五兆円、先ほど志位さんから五千億円という数字を示していただきましたが、数千億円はすでに充当されていて、残りの部分をどうしようかということだと思います。
今年の一月に、これも含めてわれわれは税制の再建をおこなっていく。二〇一一年までにプライマリーバランスを黒字化するという目標を立てています。そこでわれわれは十兆円から十四兆円、国・地方の歳出の削減を行い、さらに3%の後半の経済の名目成長を達成していけば、これは、消費税を上げなくても到達できる可能性があると申し上げています。
しかし、経済は生き物であって、そこに到達できないケースもある。そういう時は税制の抜本改革のなかで三分の一から二分の一に引き上げる原資とともに議論していく。経済は生き物であるとこのように考えています。
志位 私の質問に答えていないんです。今も消費税を上げなくてすむ可能性があるとおっしゃったが、裏を返せば上げる可能性もあるということです。その審判を仰がなくてもいいというのが安倍さんの立場なのか。このことを聞いたんですけれども、安倍さんのお答えはありませんでした。
消費税という税金は一九八九年に導入されたときにも、九七年に増税されたときにも事前に国民の審判を仰いだことのない税金です。公約違反の税金です。これを三度繰り返すことになるのは絶対に許されない。私たちは増税計画の可能性があるんだったら、堂々と審判を仰ぐべきだと思います。
第二部では、各党党首が記者クラブからの質問に答えました。
志位氏は「与野党が逆転した場合、参院議長選挙で民主党の候補に投票するか」と問われ、次のように答えました。
志位 これは、ルールがありまして、議長選挙の場合は、第一会派から議長が出る、第二会派から副議長が出るというのが、参院のルールです。
ですから、いろんな場合がありうると思いますけれども、そのルールに従って、議長候補になられた方が公正で民主的な運営をきちんとやられる方だということが明りょうであるならば、全党で一致して推すことになるでしょう。
福島党首は「野党で(議長を)とれるということであれば、協力することになると思う」と述べました。
憲法問題で安倍首相は、結党以来、改憲が実現できなかったことについて「難しかったからだ。難しいからこそ、リーダーシップを発揮しなければ壁は打ち破れない」と強調。「結果を残すためには、多数派の形成に全力を挙げる。(国会で改憲派が)三分の二をとらなければならない」と主張しました。
また自民党が明らかにしている「新憲法草案」は、憲法の全文を書きかえることになっているのに対し、改憲手続き法案が逐条的に改憲する仕組みになっていることを挙げ、「(「新憲法草案」のなかで)どれを優先していくかは、これから政治的合意を形成していくことを重視しなければならない」と述べました。
小沢代表は「世の中の状況が変化して変えた方が国民のためになることがあれば、憲法改正すればいい。護憲とか改憲とかという形式的対立はよろしくない」と主張。福島党首は「『九条と年金が危ない、今回は社民党へ』のスローガンで頑張る」と述べました。
「どうやって(改憲を)阻止しようとしているのか」と問われた志位氏は次のように答えました。
志位 改憲する側がどういう仕掛けをつくろうとも、国民の多数が「ノー」といえば、憲法改定はできません。ですから、国民のなかで、いかに多数派をつくっていくか、ここに精魂を傾けたいと思います。
九条の会が――これは(作家の)大江健三郎さんなどが呼びかけた会ですが――全国に数千つくられています。
私は、最近、経済同友会の終身幹事の品川正治さんから、経済界のなかでも、九条を守ろうという声が広がっていることをうかがいました。
品川さんは、終戦の際に、復員する船のなかで、九条を見て、感激して抱き合って泣いたという話もしながら、九条のことを訴えると、経済界のなかでも響くといっていました。
ですから、国民の多数を、九条を守り抜こうという、この一点で結集する、多数派を形成する。そのためにも共産党が、今度の選挙で大いに前進したいと思っています。
「日本共産党は、具体的にどういう道筋で与党になろうと考えているのか」との質問に、志位氏は次のように答えました。
志位 私たちは、二十一世紀の早い時期に民主連合政府をつくるという政権構想を綱領のなかに書き込んでいます。
この政権構想では、現在のアメリカとの関係については、あまりに異常なアメリカ言いなりになっている、その根源にある日米安保条約を廃棄し、対等、平等の関係にする。経済政策では、大企業中心の経済のゆがみ、これはいま貧困と格差という非常にゆがんだかたちででていますが、これを正して国民中心の経済に切り替える。この二つの大改革をやります。
同時に、この民主連合政府は統一戦線でつくっていくという展望です。
私たちは、いまそのパートナーがあるかといえば、いますぐ政権協力の相手があるわけではありません。
しかし、この先、消費税の問題あり、憲法の問題あり、大きく政治が激動してくると思います。そういうなかで連合のパートナーがでてきたら、それはそういうパートナーと連立を組んで民主的政権をつくるという展望を持っております。