2007年10月5日(金)「しんぶん赤旗」

志位委員長の代表質問

衆院本会議


 日本共産党の志位和夫委員長が、四日の衆院本会議でおこなった福田康夫首相の所信表明演説に対する代表質問の大要は次の通りです。


沖縄戦の歴史教科書問題――沖縄県民の意思にどうこたえるか

写真

(写真)代表質問する志位和夫委員長=4日、衆院本会議

 日本共産党を代表して、福田総理に質問します。

 まず、文部科学省の教科書検定で、沖縄戦での「集団自決」への日本軍の強制があったとする記述が削除された問題についてです。

 この政府による歴史の歪曲(わいきょく)にたいして、沖縄では島ぐるみの怒りのうねりがわきおこり、九月二十九日に開かれた「教科書検定意見撤回をもとめる県民大会」に参加した人々は十一万人を超えました。

 「命どぅ宝」――命こそ宝という心をもつ沖縄で、自分の親や子どもに手をかける「集団自決」が、日本軍による強制なしに起こりえなかったことは明らかであります。体験者の痛みを伴う証言が、軍の強制をまぎれもない事実として裏付けています。県民大会で発言した高校生は、「おじぃ、おばぁたちは重い口を開き、苦しい過去を教えてくれました」「この記述をなくそうとしている人たちは、沖縄戦を体験したおじぃ、おばぁたちがうそをついていると言いたいのでしょうか」とのべました。

 総理は島ぐるみのこの声をどう受け止めますか。この問題を引き起こした責任は、政府・文部科学省にあります。政府は自らの責任において、検定意見の撤回と、強制記述の回復という県民の要求にこたえるべきです。「集団自決」にたいする総理自身の歴史認識とあわせて答弁を求めます。

貧困と格差(1)――非正規雇用の規制にふみだす決意はあるか

 つぎに貧困と格差の問題について質問します。

 総理は、所信表明演説で、「構造改革」が景気回復などの成果をあげたとして、「改革の継続と安定した成長」を進めるとのべました。たしかに、大企業はバブル期を上回る空前の利益をあげています。しかし、サラリーマンの平均給与は九年連続して減りつづけています。年間通して働いても年収二百万円以下の人が、ついに一千万人をこえました。懸命に働いても生活保護水準以下の生活から抜け出せない「ワーキングプア」――働く貧困層は、四百五十万世帯とも六百万世帯ともいわれ、広がりつづけています。企業の収益は伸びても、労働者の所得は減り、貧困層が拡大する。これがまともな成長の姿といえるでしょうか。総理の基本的認識をうかがいます。

 この背景には、労働法制の規制緩和による派遣、請負、パートなど非正規雇用の拡大があります。政府は、派遣労働を、一九九九年に原則自由化し、二〇〇四年には製造業にまで拡大しました。この結果、「日雇い派遣」――人材派遣会社に登録し、一日単位で仕事に派遣される労働者が、若者を中心に急増しています。携帯電話にメールで仕事の内容や集合場所が送られてくる。一日働いて手にするのは六千円から八千円。一カ月働いても収入は十万円台前半。仕事がなかったり、体調を崩して休めば、たちまちアパートの家賃も払えなくなり、ネットカフェなどで寝泊まりせざるをえなくなる。これが「日雇い派遣」の実態です。人間としての尊厳を否定し、モノのように使い捨てにする。こうした働かされ方を強いられている若者が、いったいどこに明日への希望を見いだすことができるでしょうか。

 総理にうかがいたい。「若者が明日への希望が持てる国」をつくるというなら、労働法制の規制緩和路線を根本から見直し、非正規雇用の規制にふみだすべきではありませんか。わけても、「日雇い派遣」をなくし、安定した仕事を保障すべきではありませんか。そして、格差の「実態から決して目をそらさず」というなら、その数さえさだかになっていない「ワーキングプア」の実態調査を緊急におこなうべきではありませんか。答弁を求めます。

貧困と格差(2)――社会保障予算抑制路線からの転換をはかる決意はあるか

 総理は、「お年寄りが安心できる国」をつくるともいっています。それならばうかがいたい。いま多くのお年寄り、国民が、社会保障制度から排除されている実態を、総理はどうとらえているのでしょうか。

 たとえば医療からの排除です。国民健康保険料が高すぎて払えず、滞納している世帯は四百八十万世帯、加入世帯の二割に達しています。自民党政権がおこなった法改定によって、滞納世帯から保険証を取り上げ、病院の窓口で十割全額負担を求める「資格証明書」へのおきかえが急増しています。病院に行けず、重症化、死亡する痛ましい事件が、全国で続発しています。滞納世帯は、そのほとんどが保険料を払いたくても払えない人たちです。そういう人たちから保険証をとりあげ、窓口で全額払えとせまる。これは「カネがなければ死ね」といわんばかりの冷酷無情な政治ではありませんか。

 国民生活の最後の命綱である生活保護行政で無法が横行しています。北九州市では、生活保護の申請さえ認めない「水際作戦」、道理のない非情な「保護打ち切り」によって、この間、三人の男性が連続して餓死、自殺に追い込まれるという異常な事態がおこっています。重病をいくつも抱えた人に「働かんなら死ね」といって申請を拒否していたなどの事実が、次々と明るみに出ています。生活保護法では、申請はいったん受け入れたうえで、審査することが義務づけられており、申請さえ認めないのは、無法そのものです。総理は、生活保護行政の現場で、無法が横行していることを、どう考えますか。

 世界第二の経済力を持ち、憲法二五条で国民の生存権を保障している日本で、国民の命の支えとなるべき社会保障から少なくない人々が排除され、命が奪われている。こんなことは絶対にあってはならないことだと考えますが、いかがですか。

 社会保障から多くの人々を排除する圧力となって働いているのが、小泉内閣で始まった社会保障予算抑制路線です。高齢化などにともなう社会保障予算の自然増を認めず、二〇〇二年度には三千億円、〇三年度から〇七年度までは毎年二千二百億円ずつ、すでに年間一兆四千億円が削減されました。これが、医療、介護、年金、雇用保険、生活保護など、社会保障制度のあらゆる分野で負担増と給付削減の圧力となって働き、社会保障から排除される人々を生み出しています。政府は、さらに二〇一一年度まで毎年二千二百億円ずつ削減する計画を続けようとしています。

 社会保障予算削減路線からの転換をはからなければ、総理が総裁選挙でかかげた「高齢者医療費負担増の凍結」や「障害者自立支援法の見直し」も、一時しのぎの取り繕いとなるか、他の社会保障分野への新たなしわ寄せをもたらすかの、いずれかにならざるをえないでしょう。「お年寄りが安心できる国」をつくるというなら、高齢化などにともなう自然増さえ認めない社会保障予算削減路線からの転換をはかるべきではありませんか。答弁を求めます。

財源問題――歳入・歳出の二つの「聖域」にメスを入れる意思はあるか  

 社会保障予算削減路線からの転換をはかるためにも、安心できる年金制度をはじめ国民生活の充実をはかるうえでも、財源が問題になります。

 総理は、所信表明演説で、社会保障の「安定的な財源を確保」する方途として「消費税を含む税体系の抜本的改革を実現させるべく取り組む」とのべました。しかし、消費税は、一つのお弁当を二食、三食に分けてぎりぎりの生活を耐え忍んでいる人々にも容赦なく襲いかかる税金であり、所得の低い人ほど負担が重いという逆進性をもった税金です。総理にうかがいたい。消費税が、貧困と格差に追い打ちをかける税金であり、社会保障財源としてもっともふさわしくない税金だという認識はありませんか。

 だいたい、どうして財源というと、すぐ消費税の話になるのでしょうか。きちんとした目でみれば、歳入でも歳出でも、財源をつくる道はいくらでもあるではありませんか。

大企業・大資産家へのゆきすぎた減税をただせ

 第一に、大企業・大資産家へのゆきすぎた減税をただすことです。政府統計によれば、一九九七年度から二〇〇六年度までの九年間で、資本金十億円以上の大企業の経常利益は、一五・一兆円から三二・八兆円に二・二倍にもふくらみ、史上空前の繁栄を謳歌(おうか)しています。ところが、同じ時期に、これらの大企業が納めた税金は、一二・一兆円から一三・七兆円とほとんどのびていません。法人税率を大幅に引き下げたうえに、大企業を優遇する数々の特権的な減税によって、五兆円を超える大企業減税をおこなってきた結果です。

 さらに同じ時期に、株主への配当金は、三・一兆円から一二・〇兆円に三・九倍にもなり、株取引をおこなう大資産家はぬれ手で粟(あわ)の大もうけにあずかりました。ところが、株の譲渡や配当への税金の引き下げ、大金持ちへの所得税の引き下げなどによって、大資産家には二兆円もの減税がおこなわれました。

 税金は「所得に応じて」が原則のはずです。九年連続で所得が減っている庶民には大増税をおしつけながら、空前の利益をあげている大企業と大資産家には合計七兆円規模の大減税をばらまく。総理は、この政治を異常だと思いませんか。大企業・大資産家への減税を見直せば、数兆円規模での財源がつくれます。ここを「聖域」にせず、メスをいれる意思はありますか。答弁を求めます。

軍事費を「聖域」にせず削減のメスを

 第二に、年間五兆円におよぶ軍事費にメスを入れることです。なかでも真っ先に削減すべきは、アメリカの戦争を支援するための軍事費であります。

 アフガニスタンとイラクへの自衛隊派兵のために、すでに千六百五十億円の税金が使われていますが、ただちに部隊を撤退させ、これ以上の血税の支出はやめるべきです。二隻で二千億円のヘリコプター空母、四機で一千億円の空中給油機など、海外派兵用の兵器の購入はやめるべきです。

 日米地位協定にてらしても支出義務のない米軍への「思いやり予算」に、この二十九年間で五兆円、今年度で二千三百七十一億円もの血税が流し込まれました。世界でも異常なこの枠組みは、ただちに撤廃すべきです。米国領土であるグアムに建設する基地のための七千億円をはじめ、「米軍再編」の費用として三兆円もの税金が投入されようとしていますが、この計画も中止すべきです。

 いま国民のなかから、「イラクやアフガン戦争支援のために使う金があるなら、生活保護の老齢加算や母子加算復活のためにあてるべきではないか」という声が広がっています。軍事費、とくにアメリカの戦争支援のための軍事費を「聖域」にせず、メスを入れる意思はありますか。総理の答弁を求めます。

米国の報復戦争支援の海上自衛隊派兵問題について

 つぎに海上自衛隊による「対テロ報復戦争」支援の問題について質問します。私は、この問題でまず何よりも重要なのは、テロにたいして戦争という手段で対応したことが、問題の解決につながったかどうかを、事実にそくして検証することだと考えます。

戦争でテロはなくせない――この事実を認めるべきだ

 日本共産党は、六年前の九月十一日におこった同時多発テロにさいして、国連と世界各国政府に書簡を送り、この憎むべき犯罪行為を糾弾しつつ、テロ根絶のためには、国際社会が協力して、テロリストを国際的にも国内的にも孤立させ追い詰めて、“法にもとづく裁き”にかけることこそ必要であること、そうした努力をつくさないまま報復戦争に訴えることは、テロと軍事報復の悪循環をつくりだし、無数の新たな犠牲者を生み、事態を泥沼に導く危険があると訴えました。

 それから六年。私たちの憂慮は、現実のものとなっています。米軍などによる報復戦争がもたらしたものは、テロの温床の拡大であり、アルカイダのネットワークが世界六十カ国に広がったと報じられているように、テロの世界への拡散でした。アフガニスタンでは、米軍などによる無差別の空爆などで、今年だけで三百五十人も無辜(むこ)の民間人が犠牲になり、それが外国軍の駐留にたいする反感を強め、タリバンが復活し、自爆テロが急増するなど、情勢の深刻な悪循環がおこっています。

 軍事的対応のもたらす悪循環は、国連も認めています。「国連アフガニスタン支援ミッション」が、今年九月九日に公表した報告書では、「軍事的対応は、(テロ)攻撃者たちが拠点をもっている住民の怒りをかきたてることによって、(テロ)攻撃を求める声を高め、攻撃者の数を増やすという不幸な効果をもたらすことにしかならないだろう」とのべ、「軍事的対応」から「政治的取り組み」に切り替えること、とくにテロの根源をなくすための政治的・経済的・社会的行動が必要であるとのべています。報復戦争は、テロ根絶に有効でないばかりか、事態の悪化をもたらした。戦争でテロはなくせない。総理は、この動かしがたい事実を認めるべきではありませんか。

海上自衛隊の活動は報復戦争への軍事的支援

 そして、問題は、海上自衛隊がおこなっている活動が、この報復戦争への軍事的支援だということです。政府は、海上自衛隊の活動を、もっぱら「海上阻止活動」への支援――テロリスト、麻薬、資金などを、海上で取り締まる警察行動への支援であるかのように説明していますが、それは事実を偽るものです。

 海上自衛隊が、米軍のアフガニスタンへの軍事活動を直接支援していることは、数々の米側の資料によっても裏付けられています。たとえば、米海軍は、二〇〇六年九月四日、アラビア海で米海軍の強襲揚陸艦「イオウジマ」が、海上自衛隊の補給艦「ましゅう」から給油を受けたこと、その後、九月二十一日までに「イオウジマ」から飛び立った攻撃機ハリアーが、アフガニスタン空爆のために百三十六回の攻撃飛行をおこなったことを明らかにしています。米側の資料です。総理、日本が提供した油が、子ども、女性、お年寄りなどアフガニスタンの民間人をも犠牲にしている空爆のために使われているという事実を認めますか。

イラク作戦への転用問題――活動の全貌を明らかにせよ

 さらに、テロ特措法にもとづいてインド洋に派兵された海上自衛隊の艦船の補給した油が、イラク作戦につかわれた重大な問題が明らかになっています。市民団体ピースデポが入手した米海軍航海日誌などで、イラク戦争が始まる二十三日前の二〇〇三年二月二十五日、海上自衛隊の補給艦「ときわ」が、米国の給油艦「ペコス」を介して、米空母「キティホーク」と米巡洋艦「カウペンス」に給油をおこない、その後、両艦はイラク南方監視作戦、さらにイラク戦争に参加したことが明らかになっています。それは、自衛艦が「ペコス」に給油した油のすべてがイラク作戦のために使われたことを証明するものとなっています。テロ特措法は、アフガン戦争への支援に限定した法律であり、イラク作戦まで支援していたとすれば、日本国憲法に背反するだけでなく、テロ特措法にも背反することになります。総理、「イラク作戦への転用はない」といいきれますか。

 わが党は、テロ特措法を根拠に活動してきた海上自衛隊の艦船がおこなった給油活動の全貌(ぜんぼう)、給油した油が何のために使われたかの全貌を、政府が責任をもって明らかにすることを強く求めます。

 くわえて、イラク作戦への転用という法律違反の活動の疑惑が生じているもとで、政府が「イラク作戦に転用された事実はない」というなら、そのことを証明するに足る資料を明らかにすべきです。総理の答弁を求めます。

戦争支援をやめ、外交努力と民生援助に力を尽くせ

 いま日本がなすべきは、第一に、米軍による報復戦争を支援する憲法違反の活動は、どんな形であれ中止し、海上自衛隊をインド洋から撤退させることです。

 第二に、テロ根絶の方途を、報復戦争から、国連を中心にした警察と司法による解決、政治的解決を中心とした道に切り替えるための外交努力をおこなうことです。

 第三に、貧困と飢餓をなくし、干ばつ対策をおこない、教育の改善をはかるなどの民生援助を抜本的に強化し、テロが生まれる根源を除去することです。

 わが党は、これこそ日本国憲法にそくして日本が果たすべき責任だと確信するものです。総理の答弁を求めます。

北朝鮮問題――核兵器問題への積極的対応、諸課題の包括的解決をもとめる          

 最後に北朝鮮問題について質問します。

 昨日、北朝鮮の核問題をめぐる六カ国協議で、議長国・中国は、核施設の無能力化と核計画の完全申告を柱とする「次の段階」の措置に関する合意文書を発表しました。わが党は、非核化への重要な一歩として、これを歓迎するものです。

 日本政府が、この枠組みのなかで協力を強め、核兵器のない朝鮮半島を実現するために先頭にたつことは、北東アジアの平和と安定にとっても、日本の平和と安全にとっても急務となっています。この点で、北朝鮮の核問題は、日本にとって一番切実な問題の一つなのに、これまで日本政府が核問題では熱意がないと世界の少なくない国からみられてきたのは残念なことです。私は、現実にそういう弱点が存在するならば、大胆にたださなければならないと考えます。

 拉致問題と核問題の関係では、日朝平壌宣言の精神にたって諸問題――核問題、拉致問題、過去の清算問題などの包括的解決をはかる立場が重要であります。包括的解決をはかる過程で、ある問題の解決が先行することもありますが、一つの問題で前向きの突破がはかられれば、それは他の問題の解決の妨げになるのではなく、促進になることでしょう。すなわち、いま進行しているプロセスで核問題の道理ある解決がはかられるならば、拉致問題の早期解決の新しい条件が開かれることになるでしょう。核問題で日本政府が積極的姿勢をとることは、拉致問題にたいする国際的理解と支援を高めるうえでも役立つでしょう。私は、こうした基本的立場で今後の外交交渉にのぞむべきだと考えますが、総理の見解をうかがいます。

三つの異常をおおもとからただす改革こそ、国民の立場にたった新しい政治への道       

 参議院選挙で国民が下した「自公政治ノー」の審判は、個々の閣僚の不祥事にたいする批判だけではありませんでした。それは、貧困と格差が広がるなかで一握りの大企業だけが栄える社会のあり方への審判であり、改憲を声高に叫び日本をアメリカとともに海外で戦争をする国につくり変えようとする動きへの審判であり、過去の歴史にたいする無反省な言動が引き起こしたアジアと世界からの孤立という事態への審判でした。

 いま国民は、国民の立場にたった新しい政治を求めています。大企業中心主義、アメリカいいなり、過去の侵略戦争への無反省という、これまでの自民党政治の三つの異常をおおもとからただす改革こそ、国民の期待にこたえる新しい政治をおこす道であることを強調して、質問を終わります。