2008年5月4日(日)「しんぶん赤旗」

憲法を生かし、戦争をなくし、貧困をなくそう

憲法集会 志位委員長の発言


 日本共産党の志位和夫委員長が三日、東京・日比谷公会堂での憲法集会でおこなった発言は以下の通りです。


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(写真)発言する志位和夫委員長

 みなさん、こんにちは(「こんにちは」の声)。日本共産党の志位和夫です(拍手)。きょうは、会場いっぱい、そして会場外にもあふれるみなさんがお集まりいただき、感激しております。(拍手)

憲法をめぐる情勢の前向きの変化――草の根の運動が世論を変えつつある

 この一年間を振り返りますと、憲法をめぐる状況は大きく前向きに変わったと思います。参院選で国民が下した自公政権ノーの審判は、「任期中の改憲」を掲げた安倍政権を退陣に追い込み、安倍さんが掲げた「戦後レジームからの脱却」「美しい国」なるスローガンは、いまとなっては懐かしくも(笑い)むなしく響く、文字通りの時代錯誤のスローガンとなりました。(大きな拍手)

 世論調査にも、この変化は、はっきり示されました。読売新聞は、四月八日に憲法に関する連続世論調査の結果を発表しました。私は、三つの点に注目しました。

 一つは、改憲反対が43・1%となり、改憲賛成は42・5%、反対が賛成を何と十五年ぶりに上回ったことです(拍手)。二つ目は、改憲反対と答えた人の理由のトップは、「世界に誇る平和憲法だから」で53%だったことです(拍手)。三つ目は、なかでも九条については、改憲反対が60%と改憲賛成の31%の二倍にのぼり、圧倒的多数になったことです。(拍手)

 「読売」といえば、独自の憲法改定試案を発表するなど、憲法改定の旗振りをしてきた新聞だけに、この調査結果には真実性と説得力があります(笑い、拍手)。逆の結果が出ていれば一面トップになったでしょうが、この結果は一面肩のわずか三段見出しで悔しそうに扱っています。(笑い)

 この連続世論調査の結果をみますと、憲法をめぐる国民世論の前向きの変化は、二〇〇四年から始まっています。この年の六月に結成されたのが「九条の会」でした(拍手)。この会が年々草の根の組織を増やし、七千を超えるところにまで成長したことが、国民世論に変化をつくりだした。ここに大いに確信をもっていいのではないでしょうか。(拍手)

改憲派の巻き返しの動き――相手が何より恐れているのは草の根の運動

 もちろん改憲派の新たな巻き返しの危険は軽視できません。九条改憲を狙う議員集団「新憲法制定議員同盟」が三月に新役員体制を発足させました。これまでは自民党中心の議員同盟だったのですが、今度は民主党の幹部も役員に参加したのが特徴です。会長は中曽根元首相で、自民党の伊吹幹事長、民主党の鳩山幹事長がそろって顧問に就任し、自民、民主の幹部が顔をそろえました。

 憲法審査会を始動させ、海外派兵の恒久法をつくり、憲法改定案をつくろう――これがこの議員集団のプログラムですが、この間の一連の動きをみていますと、彼らが何よりも恐れているのが国民の世論と草の根の運動なのです。

 中曽根会長は、最近の集会で、こういいました。「最近のある新聞によると、(改憲)支持と不支持が逆転しつつある。どういう理由によるかわからないが、国民もいろいろお考えなのだと思う」(笑い)。ずいぶん戸惑った様子ですね。(笑い)

 議員同盟の愛知和男幹事長は、「われわれと正反対の勢力、『九条の会』と称する勢力が、全国に細かく組織づくりができており、それに対抗していくにはよほどこちらも地方に拠点をつくっていかねばならない」と語っています。

 ここまで憲法を守る草の根の運動が相手に高く評価されているのですから(拍手)、その評価にこたえて(笑い)、改憲派を包囲する、ゆるぎない国民的多数派をつくりあげるために、いよいよ力をそそごうではありませんか。(大きな拍手)

自衛隊のイラク派兵を違憲・違法と真正面から断罪した名古屋高裁判決

 私がきょう、こうした状況の前向きの変化のなかで呼びかけたいのは、憲法を守ることと一体に、憲法を生かそうということです(拍手)。憲法を平和に生かし、暮らしに生かすための攻めのたたかいを、あらゆる分野で発展させよう、憲法の力で政治を変えようということを訴えたいのです。(大きな拍手)

 憲法を平和に生かすという点では、四月十七日、名古屋高裁で、自衛隊のイラク派兵に対して真正面から憲法違反と断じた歴史的・画期的な判決が下り(拍手)、昨日、確定判決になったことを、私はみなさんとともに喜びたいと思います。(大きな拍手)

 とくに私は、高裁判決が、政府と同じ憲法解釈を前提とし、それでもなお自衛隊の活動が違憲・違法だと断罪したことは、重要な意味をもつと思います。

 政府はこれまで、「海外での武力行使はしない」、「武力行使と一体となった活動もしない」、「戦闘地域には行かせない」という建前を強調し、「だから憲法違反にはならない」というごまかしの議論をつづけてきました。判決は、こうしたごまかしの議論を前提としても、バグダッドは「戦闘地域」であり、そこに多国籍軍の武装兵員を空輸する活動は、他国の「武力行使と一体」となった活動であって、自らも武力行使をおこなったとみなされるとして、違憲・違法と断罪しました。(拍手)

 つまり政府の作った土俵、相手の土俵のうえでもなお相手を断罪した。ここには憲法九条のもつ奥深い生命力が示されているのではないでしょうか。(拍手)

 政府からすれば、自分の土俵で投げ飛ばされ、完敗した以上、論理のうえでは容易に覆すことができないことになります。ですから、福田首相は、「傍論でしょ」という暴論しかいえません(笑い)。高村外務大臣は、判決文について、「大臣をやめて暇でもできたら読む」といいました。早く読めるようになるために「暇」をとらせてあげたいものです。(笑い、拍手)

 航空幕僚長は「そんなの関係ねえ」というふざけた暴言をはきました。これは、危険な発言ですが、自衛隊の制服組のトップ級幹部が、「自衛隊は憲法と関係ねえ」と日ごろから思っている(笑い)、自衛隊は憲法の外の存在、憲法違反の存在であることを、自認する発言ではないでしょうか(拍手)。これらはみな、論理的に反論不能におちいったことの告白であります。

 政府は、司法の判断を重く受け止めて、イラクからすみやかに自衛隊を撤退させよ。このことをいっしょに求めていこうではありませんか。(大きな拍手)

平和的生存権についての画期的見解――9条を平和日本への道標として生かそう

 いま一つ、この高裁判決は、平和的生存権について画期的な見解を示しました。

 判決は、「平和のうちに生存する権利を有する」と明記した憲法前文、戦争放棄と戦力不保持を決めた九条、幸福追求権を保障した一三条などを引いて、平和的生存権は、「全(すべ)ての基本的人権の基礎にある基底的な権利」であり、「憲法の基本的精神や理念を表明したものにとどまらず、具体的権利」である――国民にたいして具体的に保障すべき権利と認定しました。

 具体的権利とは、政府が仮にそれを侵害する行為をおこなえば、その行為の禁止や損害賠償を裁判所に求めることができるということです。

 これは憲法を平和に生かす素晴らしい可能性を開いたものだと思います。(拍手)

 判決では、この権利侵害の具体的な事例として、「戦争の遂行や戦争の準備によって、危険や被害、恐怖にさらされた場合」を例示していますが、たとえば沖縄、岩国、神奈川などに、米軍基地が存在することによって、日夜、犯罪と事故の危険に脅かされている現状は、平和的生存権の侵害として是正をもとめることができるわけです。(拍手)

 また判決では、「戦争の遂行への加担・協力を強制される場合」を例示していますが、有事立法による土地や家屋の強制収用、港湾・空港などの強制使用など、国民の権利侵害も、平和的生存権の侵害として中止をもとめることができるわけです。(拍手)

 こうして九条は、海外派兵をやめさせる力となり、米軍基地による生命や安全への危険をとりのぞく力となり、さらには有事法制を無力化する力ともなります。九条を、平和な日本をつくる道標(みちしるべ)として、大いに生かそうではありませんか。(大きな拍手)

貧困と格差をただすたたかいでも、憲法を生かして勝利をつかもう

 憲法を暮らしに生かすという点はどうでしょうか。いま貧困と格差にたいして各分野で国民的反撃がわき起こっています。どれもたたかいの根本の立脚点となるのは憲法そのものだと思います。日本国憲法は、世界に誇る平和憲法であるとともに、三十条におよぶ人権条項をもつ世界で最も豊かな人権憲法でもあります。貧困と格差をただすたたかいでも、憲法を生かし、憲法の大義をわが手に握って勝利への道を開きたい。

 たとえば、後期高齢者医療制度に対して、日本列島で怒りが沸騰しています。これは高齢者に耐え難い負担増をおしつけ、必要な医療を抑制して命と健康を危険にさらす点で、憲法二五条が保障する国民の生存権を正面から破壊するものにほかなりません。さらに、年齢を重ねただけで安上がりの差別医療を強要するという点で、憲法一四条が定めた「法の下の平等」に反することは明らかではないでしょうか(拍手)。憲法二五条、一四条にたって、稀代(きだい)の高齢者差別法を撤廃させるまでがんばりぬこうではありませんか。(大きな拍手)

 人間をモノのように使い捨てにする働かせ方をただし、人間らしい労働を求めるたたかいのよりどころになるのも憲法です。

 憲法二七条は、「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う。賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める」――人間らしく働けるルールをつくることを求めています。さらに、労働基準法は、第一条で「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」とありますが、これは、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」とした憲法二五条を踏まえたものです。

 憲法二五条、二七条にてらせば、派遣労働をはじめとする人間使い捨ての働かせ方が、どんなに反憲法的なものであるかは明らかだと、私は考えます(拍手)。それは「労働者が人たるに値する生活」とはほど遠い奴隷的労働であり、そこには「賃金、就業時間、休息」などの労働の最小限のルールすらありません。

 この間、労働者のたたかいと国会論戦の力で、派遣労働の規制緩和から規制強化への潮目の変化が起こってきています。とくに私がすばらしいと思うのは、若者たちが、憲法二八条が保障した勤労者の団結権・団体交渉権を行使し、「ユニオンをつくって生きさせろ」というたたかいをはじめたことです。これは未来への大きな希望であります(拍手)。憲法二五条、二七条、二八条を生かし、人間らしく働ける労働のルールをつくっていこうではありませんか。(拍手)

憲法を生かすたたかいに攻勢的にとりくむことが、憲法を守る力となる

 みなさん、憲法を生かして、戦争をなくし、貧困をなくしましょう。(大きな拍手)

 いま、憲法を生かすたたかいに攻勢的にとりくみ、そのたたかいのなかで国民の多くの方々が憲法の輝く値打ちをみずからの体験をつうじてつかむことが、憲法改悪のたくらみを阻止する一番の力となるということを、私は訴えたい。(拍手)

 憲法を生かして、平和でも暮らしでも攻めに攻め、憲法にそくした新しい日本をつくっていく運動をあらゆる面で広げることによって、改憲策動を打ち破っていきましょう。ともにがんばりましょう。(大きな拍手)