2008年6月8日(日)「しんぶん赤旗」
通常国会はどんな国会だったか、「資本主義の限界」は、『蟹工船』ブームの背景にあるのは――。日本共産党の志位和夫委員長は六日、CS放送・朝日ニュースター番組「各党はいま」に出演し、朝日新聞の星浩編集委員のインタビューに答えました。
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星 通常国会の百五十日間を振り返るとどんな国会だったでしょうか。
志位 部分的ですが、国民の声が国政を動かし始めた国会だったと思います。後期高齢者医療制度の問題では、参院で撤廃法案が可決される事態になりました。道路特定財源、暫定税率もいったんは廃止となりました。国民が声をあげれば政治は変えられるということが、しめされた国会でした。
私たちは、今度の国会にのぞむにあたって、大いにこちらから新しい提起をして、攻めの論戦をおこなうということを心がけてきました。まず派遣労働の問題を追及しました。つづいて後期高齢者医療制度の問題を追及してきました。それから、農業・食料の問題でも「再生プラン」を発表してきました。これらは、大事な意味をもつものとなったと思っています。
星 後期高齢者の問題は、共産党は相当早い段階から取り組んでいた問題ですね。
志位 そうです。この問題は、発端からいうと二〇〇〇年十一月に健康保険法が改悪された際に採択された付帯決議にさかのぼるんです。そこには高齢者医療は別建ての制度をつくる、診療報酬は定額制・包括払いを導入するなど、いまの後期高齢者医療制度の原型になることが明記されています。この付帯決議にきっぱり反対したのは、日本共産党だけでした。そして法案が強行されたのは二〇〇六年ですけれども、そのときも差別医療の根本をつく論戦をやったのは日本共産党だけでした。これは、当時の厚生労働大臣の川崎二郎衆院議員が、この番組で、「あのとき本質をついていたのは共産党だけだった」といっています。こうした一貫した努力が、四野党での撤廃法案提出にまでつながってきたと思っています。
星 最終盤、与野党で合意した法案が通っている。共産党が入っている部分、入ってない部分もありますが、そのへんは。
志位 私たちも合意できる当然のものを通すのはいいのですが、重大なのは、自民、公明、民主が、水面下の談合で、悪法を一気に通してしまうという動きが起こっていることです。宇宙基本法という、宇宙の軍事利用に道を開く法律を、自公民三党が合意したら、委員会の審議をほとんどやらないで強行する。国家公務員基本法でも、国民が一番望んでいるのは、天下りの根絶、政と官の癒着を断ち切ってほしいというところにあるのに、逆に癒着を強めるものを強行する。憲法(改定)でも同じ流れが起こっている。これは非常に重大であり、警戒を払わないといけません。
星 さて、国会が終わりますが、福田政権は立て直しに入るでしょうが、ポイントはサミットです。環境、経済、エネルギー、食料の問題などあるが、共産党、志位さんが最近いろいろなところで発言されている「資本主義限界」論。このへんの中身と発信されているねらいはどこにあるのでしょうか。
志位 「資本主義の限界」ということは、私たちがいっているだけでなく、そういう声があちこちから起こってきたところがおもしろいところです。たとえば、サブプライムローン(低信用層向け住宅ローン)が破たんする。そこに投機でつぎ込まれていたお金が、今度は原油や穀物に流れ込んで高騰をまねく。それが、なかなか抑えようがない勢いになっている。そういう状況をみて、経済アナリストのみなさんからも、“これはもう資本主義の限界だ”という声が出てくる状況になっています。
私は、二十一世紀の世界を大きくみると、資本主義という利潤第一主義のシステムのもとで、一つは、貧困と格差が世界的規模で広がる。飢餓人口は年間四百万人ずつ増え続けている状況があります。二つ目に、投機マネーが暴れまわって、各国の国民生活や途上国の経済を破壊する。三つ目に、地球環境の破壊という問題が、大問題となって浮上している。利潤第一主義ということが「資本の魂」ですが、これでいったいやっていけるのだろうか。大きな目でみると、世界は資本主義という体制の是非がいやおうなく問われる時代に入ってきたと、私たちは考えています。
星 そうしたなかで、投機マネーの規制の問題とかもこんどのサミットの中でもある程度とりあげ、環境の問題もヨーロッパを中心にいろんな改善策が出ていますが、このへんの動きはどのように見ていますか。
志位 さきほどのべた三つの問題は、まず資本主義の枠内でも、解決のための最大限の努力が必要です。どの問題をとっても緊急の問題ですから。
たとえば投機を抑える国際的協調が必要です。そのためにヘッジファンドの情報を公開する。ヘッジファンドは世界に九千ぐらいあって、百八十兆円ぐらいのお金を運用しているとよくいわれますが、実態はわからない。(投機マネーの運用者で有名な)ジョージ・ソロス氏も、「新しい保安官が必要だ」というぐらい、これは規制が必要なんです。これについて規制に踏み切れるかという問題がある。
それから「トービン税」とよばれる考えですが、短期で動く投機的なマネーに、ごく低率の税金をかけて、何度も売り買いするところには、ちゃんと税金がかかるようにする。その税収を(途上国への)ODA(政府開発援助)に使おうじゃないかという提案もあります。これなども私は、検討すべきだと思います。食物や原油など、人類が生きていく根本にかかわるものは、投機対象とすることができないような仕掛けを、国際的につくっていくことも大切でしょう。
環境問題でも同じです。いま温暖化ガス排出削減の中期目標が問題になっています。EU(欧州連合)では、先進国で二〇二〇年までに30%削減、二〇五〇年までには80%削減をしようではないかと提案している。これもまず資本主義の枠内でも、すぐに踏み込まなければならない緊急の問題だと思います。
ただ、投機にしても、環境にしても、貧困にしても、資本主義の枠内でギリギリいっぱい取り組んだとしても、それらの問題を根本から解決できるんだろうかということを考えた場合には、疑問符がつくと思います。私は、根本からの解決は、利潤第一主義という枠組みの中ではなかなか難しい。これは、だんだんと、(問題に)取り組んでいくなかで明らかになってくると思いますね。そういう点で、(二十一世紀は)資本主義に代わる新しい社会――未来社会へとすすんでいく条件が大いに生まれてくる世紀になると思います。
星 前に別な番組(五月十八日のテレビ朝日「サンデープロジェクト」)でもちょっとお話ししましたが、二十世紀はそういう一種の資本主義の危機をある意味では、ケインズ主義とかをつかって克服した面もあるんですが、そのへんの類似性と違うところはどう見ていますか。
志位 歴史的にみると、十九世紀までの資本主義は古典的な自由主義でした。つまり、国家は基本的に経済活動に介入しなかった。(国民が)国家を感じたのは、郵便局と警察だけだったということがよくいわれた時代です。工場立法で十時間労働制をつくるぐらいのところがせいぜいだったのです。
しかし、そういうやり方では恐慌がどんどん起こってしかたがない。とうとう大破たんが起こったのが、一九二九年の世界大恐慌です。ここで世界の資本主義がたいへんな危機に陥ったわけですけれども、それを一つの契機にして、いわゆるケインズ主義が採用されるようになってきた。ケインズ主義というのは、恐慌を抑えることを名目に、国家が経済に介入して、さまざまな財政金融政策で、経済をコントロールしようというものです。しかし、このケインズ主義がだめになってきたと、主要国でいわれるようになってきたのが一九七〇年代です。
そこで一九八〇年代くらいから、新自由主義というものがそれにとって代わってくる。新自由主義というのは、市場原理主義ともいわれますが、何でも市場まかせにする。もちろん、大企業への応援は国家が大いに関与するのですが、国民生活にかかわる部分は、すべてを弱肉強食で覆いつくすような政策です。この新自由主義がずっと広がるわけです。サッチャー(政権)、レーガン(政権)、中曽根(内閣)から始まって。
日本の場合は、ジグザグはあったけれども、極端なまでにそれをやって、日本を新自由主義の“実験場”にまでしてしまったのが、小泉、安倍政権でした。その結果として、ひどい貧困と格差が生まれ、「ワーキングプア」という非常に深刻な事態が広がるところまできてしまった。
新自由主義は、いま日本で大きな破たんが起こっているけれど、世界ではすでに破たんが起こっているのです。たとえば、ラテンアメリカは、IMF(国際通貨基金)と世界銀行によって、新自由主義の経済政策が、乱暴なやり方で押し付けられた地域ですが、その矛盾が爆発して、いまラテンアメリカでは、民主政権、左翼政権がこの大陸を覆う形で広がっています。(新自由主義は)失敗したのです。
それから、東南アジアでも、一九九八年に通貨危機が起こったときに、IMFは新自由主義の処方せんを押し付けました。押し付けられたところでは国民生活の大破たんが起こった。もう二度とごめんだということで、自主的で民主的な経済秩序を模索する状況が、東南アジアでも生まれています。
新自由主義は、世界でも日本でも破たんしてしまった。そうすると、資本主義は、いったい何を経済政策の指導理論にしたらいいのだろうと。ケインズ主義もだめ、新自由主義もだめ、それではケインズ主義に戻るかといったら、いまさら戻りようもないのです。私たちは、まず資本主義の枠組みの中でも、国民の暮らしを守るルールある経済社会――経済的民主主義にすすむべきだといっているけれども、そこにすすむしかないのです。現にヨーロッパなどは、そうした方向への努力をある範囲でやろうとしています。
同時に、世界の資本主義の全体としては、方向喪失といいますか、道に迷っているというのが、いまの実態だと思いますね。指導理論がなくなってしまった。漂流状態にある。これは大きくみると資本主義のいきづまりを示していると思います。
星 そういうところにヘッジファンドとかが荒れ狂っている。
志位 荒れ狂ってものすごい荒稼ぎをやっている。いまだいたい世界の金融資産が約百五十兆ドルとよくいわれます。世界のGDPが約五十兆ドルだから、百兆ドルぐらいの差があり、そのうち数十兆ドルが、金あまりの部分で、投機マネーとなって暴れまわっている。金融経済が実体経済の三倍もの規模になっているというのは、本当に異常な事態だと思います。
資本主義のもとでも、投資をして、モノをつくって、サービスを提供して、それでもうけるというのなら、ある範囲で健全さをもっているといえるのだけれども、そういうこととは関係のないところで、為替や株式の取引の利ざや稼ぎだけのためにお金が短期で動いていくということになると、ここからは、非常な深刻な腐敗性が生まれます。そういう腐敗現象が世界的に起きているというのが現状ですね。
星 いまのお話にもありましたが、「ワーキングプア」とか、若い人たちの失業、低賃金、派遣労働問題などで、若者を中心に『蟹工船』ブームが起こっています。このへんの背景と原因をどんなふうにごらんになっていますか。
志位 戦前的な野蛮な資本主義が、現代に新しい残酷さをもって復活したということだと思うんです。『蟹工船』を読むと、文字どおりの奴隷労働ですね。あの作品には、「周旋屋」というのが出てきます。いまでいう派遣企業ですね。「周旋屋」によって、農民や労働者などが連れてこられ、「蟹工船」の中で奴隷労働を強いられる。これはまさに現代そのものではないか、いまの派遣労働――モノのように使い捨てにされる労働と同じではないかということで、この小説にたいして若い人が共感し、読まれているんだと思います。
多喜二の母校の小樽商科大学などが、(多喜二没後七十五年を記念して)『蟹工船』読書エッセーコンテストをやっています。『蟹工船』を読んだ若いみなさんのエッセーを募って、コンテストをして一冊の本になっています。それを読んで印象に残ったのは、この作品に共感しつつ、「当時がうらやましい」という感想を書いたものがある。同じような奴隷労働で、未組織労働者だけれども、『蟹工船』では同じ空間のなかにたたかう仲間がいるわけです。だから、ああいうたたかいができた。いまは、自分たちはもっとバラバラにされている。どうやってたたかっていったらいいんだろうかということを考えるというんです。しかし、いま個人加盟で参加できるユニオン(労働組合)がいろいろな形でできているので、そこに希望を見いだしていきたいとも書いています。戦前の『蟹工船』のような、むき出しの暴力で搾取する形はなくなったけれども、言葉の暴力はいまでも横行しているし、パワハラやセクハラも横行しているし、そのうえ連帯する困難さが違う形である。そうした若者たちがどうやって連帯しながら、現状を変えていくかというのは大きな課題だと思います。
私はこの間、この(派遣)問題に取り組むなかで、全労連などの奮闘とともに、さまざまな個人加盟のユニオンが元気に広がりだしているのは、大きな希望だと思っています。いまあの名作に共感し、感動する若者が増えているというのは、若者の中にいまの状況にたいする深い怒りとともに、その問題の根源を理性的に見ていこう、なんとか解決の方途と、連帯の展望を見いだしたいという強い気持ちがあるわけで、たいへん健全な流れが若者のなかに広がっていると、私は思っています。
星 通常国会の最後に問責決議が出て、可決となれば次の国会をどうするのかなどを含めて問題になっています。共産党は問責にどういう対応を。
志位 福田内閣は、問責に値する内閣です。自衛隊の海外派兵の問題、後期高齢者医療制度の問題、道路問題など、二重三重に問責に値する間違った政治をやってきましたから。ただ、決議案をどこの段階でどう出すかは、決議のもつ重み、それがもつ効果、その先の展望をよく考えて、対応していくことが大切です。
現局面でいえば、参院で後期高齢者医療制度の廃止法案が可決されたわけです。来週は衆院にくるわけです。ですから、法案を衆院で可決・成立するための最大の努力を尽くすことが国民への責任です。中曽根元首相も「撤廃」をいっているし、堀内(光雄自民党元総務会長)さんも「反対」といっているし、古賀(誠自民党選対委員長)さんも「凍結」といっているわけですから、本気になって(撤廃法案を)通すためのありとあらゆる努力を残る会期中にやるべきです。これを最優先でやるべきであり、そのうえで問責決議案の扱いを検討するというのが筋でしょう。