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“虚業”でなく“実業”栄える日本に

志位委員長、京都で経済改革語る(講演大要)

2009年3月7日(土)京都・西陣織会館


 志位委員長は7日、京都市上京区の西陣織会館で「志位和夫が語る 日本経済改革」と題して講演するとともに、中小企業をはじめとする企業経営者、銀行幹部、自治体関係者ら参加した約250人と懇談しました。


 ご紹介いただきました、日本共産党の志位和夫です。

 今日は、1200年をはるかに超える伝統を持つ、西陣織の会館をお借りして、私どもの「講演と懇談の集い」を開かせていただきまして、まことにありがとうございます。そして、京都の経済界の方々が、かくもたくさんお運び下さいまして、心から感謝を申し上げます。本当にありがとうございます。

 さきほど、渡辺(西陣織工業組合)理事長ともお話しをしてまいりまして、実は、このネクタイ、その場で頂いたネクタイであります。

 私は、いつも穀田さんから西陣織のネクタイをプレゼントしてもらっておりますが、渡辺理事長も新聞でお書きになっておりましたけれど、西陣織のこの絹というものは、適度な摩擦と、適度な滑りやすさの両面を兼ね備えているということで、本当に着け心地の良いネクタイで、勝負の時には西陣織で国会論戦などもやってきております。穀田さんはベストタイドレッサーということで、私も負けないように頑張りたいと思っています。

 今日は、「志位和夫が語る、日本経済改革」というのがテーマとなっております。今、世間を騒がしております問題は多々ございます。違法献金疑惑など色々ありますが、そうした問題については、もし、ご質問が後であればお答えしたいと思いますが、せっかくの機会でありますので、このテーマに集中しまして、限られた時間、まず40分ほどお話しをさせていただきたいと思います。

 実は、私、このところ経済界のみなさんとも随分と懇談する機会が増えてまいりました。

 経営塾フォーラムというのがございまして、大手の企業の経営者の方々や中堅企業の経営者、メディアの方々が参加されている集まりなんですが、先日、私、呼ばれまして、行ってみましたら大変な盛会でありました。テーマは「蟹工船と格差社会」というので、お話しさせていただいたことがございます。

 なかには、共産党の委員長の顔をとにかく「怖いもの見たさで見に来た」と自分で言っていた方もいらっしゃいましたけれども、とても話が弾みまして、その後、経営塾で中心に出している雑誌で『BOSS』という雑誌があるのですが、私の講演を載せていただきました。この表紙には、私の顔が写っておりまして、隣にいるのはトヨタ自動車の張会長でありまして、おもしろい取り合わせで表紙を飾っておりますが、こういう雑誌で取り上げて頂いたことがあります。

 それから、これはつい最近ですが、監査懇話会という集まりに呼ばれてお話しをさせていただいた事がございます。監査懇話会というのは、企業の監査役の方々で作っている懇話会で、六百何十回もずっと定例会をおこなっているのですが、はじめて共産党を呼んで、志位の話を聞いてみようかということで、そういう集いでしたが、これも大変暖かく迎えていただきました。

 監査役というのは、会計法を調べましたら、たいへん大事な仕事で、株式会社では、取締役会と株主総会がありますが、それと並び立つ権限を持ってこれを監督する。法令違反があったら是正をはかるという、企業の活動をまともにやらせるという仕事をやっていると伺ったので、それだったら、共産党が国会でやっていることと同じじゃないですかと話しをしましたら、そこからたいへん話が弾みまして、実は考えていることは一緒だということになってまいりました。

 今、多くの経済界で頑張っている方々も、今の日本の経済の実態を大変憂慮され、打開の道を求めていらっしゃると思います。私たちの考えを今日はまとまって話させていただきたいと思います。

「ルールなき資本主義」をただし、「ルールある経済社会」を

 共産党がまずめざしているのは、ひと言で言うと、「ルールなき資本主義」を正そうということであります。つまり、日本の資本主義は、同じ資本主義でも、ヨーロッパなどに比べると異常な特質を持っている。国民の生活や権利を守るというルールがほとんどない。あってもとても弱い。しかも、このところ市場原理主義ということで、わずかなルールも壊してきた。これが、いろんな経済の荒れを作り、社会を荒れさせて来ている。ですから、ここを正して、大企業の横暴勝手な儲け方は、これはちゃんと社会の力で抑えて、負担と責任を果たさせて、国民の権利やくらしを守る、せめてヨーロッパなみの「ルールある経済社会」を作ろうというのが、私どもの経済政策の中心であります。

 この角度から、いくつかお話しをしてみたいのですが、まず、日本の景気の問題です。

 日本の景気の悪化というのは、世界でも一番悪いのです。最近、2月に昨年10〜12月期の数字が出ましたけれど、GDP比で日本は年率換算12・7%減らしました。アメリカは修正値が出ましたが、それでも6・2%減です。ヨーロッパは5・7%の減です。ですから、経済危機が始まった火元であるアメリカよりも日本の方が落ちている。しかも、こんな急速な、いわば墜落するような勢いで景気が悪化したのはこれまでにない出来事です。

 なぜ、こんな落ち込みをしているのか。私たちは、3つの原因があると考えています。ですから、対策も3つ必要だということを申し上げたいと思います。

一、人間らしい雇用のルールの確立

 第一の原因は、やはり、人間らしい雇用が壊されているという問題です。

 今度の景気悪化というのは、この雇用の面でもこれまでにない特徴がありまして、これまでの景気悪化というのは、まず株価が下がる。続いて設備投資などが落ちる。そして、最後に雇用が悪くなってくる。いわゆる雇用というのは「遅行指数」と言われてまいりました。ところが今回は、株価暴落と同時に、大企業が先を争うように、「派遣切り」、「非正規切り」といわれる「首切り」の競争を始めて、雇用悪化が社会の大問題となりました。これだけ雇用が悪くなりますと、景気も冷え込みます。消費も冷え込みます。先行きがみんな不安ですから、明日は我が身かというのが国民の気持ちですから、雇用悪化と景気悪化の悪循環が、いま始まっている。負のスパイラルが開始されているという事態です。これは、どうしても止めなければならない大問題だと考えております。

 では、なぜ、こういう雇用のひどい悪化が起こったかといいますと、やはり、労働法制を自由化してしまった。特に1999年の労働者派遣法の原則自由化によって、派遣という「使い捨て」労働をまん延させてしまった。ここに責任があると思います。

 私は、この間国会で、派遣問題について、昨年の2月と10月、今年の2月と3回にわたって予算委員会で取り組んでまいりました。どういう実態に労働者はおかれているのか。そして、大企業の経営者側は何を考えているのか。これについて、感じていることを、まずお話させていただきたいと思います。

 ■派遣労働の深刻な実態

 いくつかあるのですが、一つは、派遣労働の実態です。一言で言って、非人間性においては、現代の奴隷労働というほかないという実態があるということをご報告させていただきたいと思うのです。

 私、多くの派遣労働者に直接お話し聞く中で、こんな労働を放置しておいては、日本に未来はないということを何度も感じました。

 具体的な実例をお話しいたします。トヨタ車体というトヨタ自動車グループのグループ企業の派遣労働者の実態です。名古屋に行って、どういう働き方をさせられているのですかと聞きますと、フルタイムで働いて、ひどい重労働ですから腰を悪くしてしまう。こういう働き方をさせられていて、そして、手取りはようやく20万円。ところが、寮に住まわされているわけです。自分の家がありません。この寮は、どういう寮かというと、一つのアパートをだいたい3人で使う。3DKでは3人。2DKでは2人です。共同で住まわされるわけです。ですから、プライバシーがないのです。間は、ふすま1枚しかありません。自分の部屋に行くにも、他人の部屋を通らなければなりません。こういう所に押し込められて、寮費を天引きされる。水光熱費も天引きされる。布団代やテレビ代も天引きです。ずうっと引かれますと、もう手に残るのは懸命に働いても十数万円ということになってしまう。ですから、働いても、働いても貯蓄などはおよそ考えられません。それから、6カ月ごとの契約更新ですから、いつ首になるかわからないという働かされ方をされているということを私に訴えられました。「私たちは、二重の搾取を受けているのだ」という訴えでした。派遣会社にマージン料をピンハネで持っていかれて、3割〜4割は持っていかれる。その上、寮に住まわされて、寮費から水光熱費からみんな持っていかれる。こんな、人間の生活を丸ごと搾り取るような労働をさせていたのがトヨタ車体です。

 ところが、不景気になると、いま「派遣切り」を始めています。トヨタは期間工をゼロにしてしまうという計画ですけれども、「派遣切り」もやっています。日本一、世界一という力をもっているトヨタが、「派遣切り」を始めたものですから、いすゞだとかマツダだとか、ほかの自動車企業も「安心」して切り出しました。トヨタがやっているからうちもやる。こういう横並びで切り出しました。ですから、トヨタの責任は重いと思います。

 私は、最近こういう経験がありました。この前、この派遣問題を国会で取りあげた際に、傍聴に来てくれた若者の一人に、トヨタ車体で派遣切りにあった若者がいたのです。それで、私の質問を聞いて下さって、懇談会のときに、自分はこういう体験をしたということを言われました。

 この方は、去年の4月に「派遣切り」にあっている。そして、「派遣切り」にあったために、奥さんと子どもさんがいたのですが、一家が食べていけなくなって、奥さんは、実は中国の方だったのですね。ですから実家に帰ろうと中国に一時避難された。それで帰った先があの大地震の成都がある四川だった。地震が起こって、奥さんも子どもも亡くなってしまった。自分は「派遣切り」で職がない。奥さんと子どもは亡くなってしまう。一生懸命、次の職を探したけれども、どこも勤め口がなくなって、そのうちに世間では不景気がひどくなり、「派遣切り」がどんどん始まって、ますます仕事先がない。とうとうお金がなくなった。それでポケットの中にあるのは6千円になってしまった。最後に愛知から東京見物をして死のうということで、東京まで出てきたというのです。それで、代々木公園を歩いて死のうとしたが、幸い命を永らえた。そのあと、私どもの生活相談、労働相談と巡り合って、いま生活の立て直しをやっているというお話でした。

 こういうふうに使い捨てているわけです。ですから、景気の良い時には、さっき言ったような本当に3人一部屋みたいな所につめこんで、絞れるだけ絞って大儲けして、そして、景気が悪くなったらポイ捨てです。こんな路頭に迷わすことを、いったい大企業はやって良いものなのか。私は本当にこういうやり方をやったら、日本にとって未来はないし、企業にとっても未来はないということを強く言いたいと思います。

 ■企業にとっても自殺行為

 二つ目に、こういうやり方をしますと、企業にとっても自殺行為ではないかという問題です。

 私は、この間、日本経団連の代表やトヨタの幹部、いすゞの幹部など、大企業と会談をしてまいりました。それで、「こういう無法な『派遣切り』はやめるべきだ」ということを大企業には言いました。

 その時にですね、どういう論理で大企業に話すかということを随分考えました。共産党の主義主張をそのままぶつけましたら、これは立場の違いということで終わりになってしまいますから、やはり、相手が大企業のトップであっても、否定できないような事実と道理をよく組み立てて話していけば、これは相手もそれに対して何らかの対応をせざるをえないだろうということで、いま行なっている「派遣切り」というやり方が、まず人道に反すること、法令違反であること、そして企業の未来をなくすこと、日本の経済を突き落とすこと、この4点で道理がないということを諄々と説いて話しました。やはり、相手側は「今やっていることは正しい」ということはできませんでした。特に、「巨額の内部留保をため込みながら、首を切るのはおかしい」という主張には反論ができません。

 トヨタの幹部と話した時に、「一方で株主の配当をあんなに増やしながら、一方で働く人の首を切っている。これはおかしいじゃないですか。私は資本主義の堕落だと思いますよ」というように言いましたら、トヨタの代表も、「そういう株主中心のアメリカ的経営は考え直さなきゃならない」と言いました。そういうやり取りもありました。

 私、財界にお話しする時に、前のトヨタの会長の奥田碩さんが、10年前に『文芸春秋』に論文を書いておりまして、「経営者よ、首切りするなら切腹せよ」という論文でありました。それを経営者と話す時に読み上げるんです。そこにはこう書いてある。「不景気だからと言って簡単に解雇に踏み切る企業は、働く人の信頼をなくすに違いない。そしていずれ、人出が足らなくなった時には、優秀な人材をひきとめておけず競争力を失うことになる。……仮に現在、人が余っているというのなら、その人材を使って新しいビジネスに活かす努力をしてこそ経営者というものです。それも出来ないようでは経営者の名に値しません」。

 こう10年前に奥田さん、言われたわけです。ぜひ、今の御手洗さんによく読んでもらって、奥田さんも前に自分が書いたことを読みなおしてもらって、やはり人あっての経営ですから、その立場で大企業は社会的な責任を果たすべきだと思います。

 今そういう中で、労働者が全国で組合をつくり、あるいはそれに結集して立ち上がりつつあります。いすゞ、マツダ、シャープ、パナソニック、キャノン、大きな企業で立ち上がっていますけれども、私、立ち上がった若いみなさんにお話を伺うんです。今、労働者が声を上げて立ち上がっている姿が、よくテレビに映りますでしょう。あのたたかっている若者は、一言で言いますと、本当に自分の仕事に誇りをもっている人たちです。

 いすゞで派遣労働を5年10カ月やらされて、首を切られた佐藤さんという方。私も直接会って伺ったけれども、「私は働くことが好きです。ものづくりが好きです。いすゞが好きです」と言われた。「もっと人を大切にする会社になってほしい」と言われた。そういう仕打ちを受けながら、なお、「いすゞが好きだ」とまで言っている人の首を切っていいのか。この人は、出社時間の1時間前にいつも出社して、工具の手入れや仕事の準備をやって、ミスのないように本当に真剣に勤めてきて、頑張ればいつか正社員になれると、5年10カ月、派遣をやってきたんですね。北海道から家族が呼べる。これを無残に首を切った。こういう労働者として誇りをもって働いている人たちを路頭に迷わすようなことは、本当に企業にとって損失だと思います。

 私ども、この「使い捨て」労働という問題、この間重視してまいりまして、失業者の支援はもちろん大事ですが、やはり「派遣切り」をやめさせること。そして人間らしい働くルールをつくること。労働者派遣法を改正する、均等待遇のルールをつくる。長時間労働をなくす。こういう点で「ルールのある経済社会」に日本をつくり変えなければならないということを決意します。

 まず、この雇用というところから立て直しを図る必要があるというのが、私が訴えたい第一の点でございます。

二、外需頼みから内需主導への転換

 第二の点は、経済全体のあり方です。

 経済全体が、あまりにも外需頼み。内需が犠牲になっている。この事態を正すことが経済のあり方として非常に大事だと思います。

 この間の景気回復といわれる状況は何だったのかということを見てみますと、確かに大企業は空前の利益を上げました。しかし、庶民は景気が回復したという実感は、もともとなかったと思います。

 京都の市民のみなさん、中小企業のみなさん、あるいは地場産業のみなさんにとっても、景気が良かったという感じは、おそらく実感としてなかったと思います。

 一つ数字をあげますと、景気の谷だと言われる2002年からピークだと言われる2007年、この時期に、数字がどうなっているかと言いますと、輸出は159%に増えてます。ところが、内需はどうかというと111%で低迷です。働く人の給料はどうかというと2兆円も減っています。給料が減ってるわけですから消費は冷え込んだままです。

 こうして、内需をないがしろにし、家計をないがしろにして、輸出だけで稼いできた。このやり方がだめになったというのが今度の経済の失墜につながったと思います。

 しかも、この輸出、外需も、まともな外需ではなかったというのが、もう一つ重要な問題だと私は思います。つまり、アメリカの過剰消費をあてこんでの輸出だったわけです。アメリカという国は、ドルが基軸通貨ですから、その特権の上にあぐらかいて、借金をしながら過剰な消費をやるというやり方をやってきた。つまり、実力以上の消費をやってきた。過剰消費です。バブルの消費です。これをあてこんでの輸出ですから、こんな輸出がまともに長続きする道理がなかったわけであります。これがパッとはじけて、そして経済の失墜につながった。ですから、ほんとに日本経済を外需頼みから内需主導に切りかえなければならいと、私どもは主張しております。

 ■内需を活発にする5つの柱

 (1)安定した雇用

 私は、先日の国会の代表質問で内需を活発にする際に5つの柱があると訴えました。

 第一はやはり、安定した雇用です。先ほど言った、雇用破壊をやめさせることに加えて、本当の意味で長時間労働をなくす、本当のワークシェアリングが必要だと思っています。

 一昨日、外国人特派員協会で講演する機会がありましたが、ある記者から「日本は法律で労働時間が8時間と決まっているのに、なんで12時間も働いているのですか。そして12時間も働いてもどうしてこんなに福祉が貧しいのですか」、「フランスではいま週35時間労働だがもっと削ろうとしている」、「そんなときなぜ日本ではこんなとてつもない長時間労働なんですか」という質問を受けました。

 日本には、法律で残業の規制がされていないのです。つまり、法定労働時間8時間と決まっていても、残業は週何時間までと法律で決まっていません。「36協定」と言いまして、労使で合意すれば青天井でいくらでも残業できるようになっている。こんな国は、ヨーロッパにはありません。ヨーロッパでは、残業もみんな法律で決まっています。ですからそういうこともきちんとやり、「サービス残業」といわれるただ働きもなくしていけば、ここに新しい雇用が生まれてきますから、それをやはり大企業が先頭に立って、しっかりやるべきだと、これが第一です。

 (2)社会保障――削減から充実へ抜本的転換を

 第二に、安心できる社会保障が必要です。社会保障の問題を考える際に、社会保障を必要とするのは、まず何よりも所得の少ない方ですが、そういう方が、社会保障から排除されているというのが、最大の問題です。

 たとえば、医療では国民健康保険料が高すぎて払えない。こういう世帯が20・9%にのぼります。こういう方から保険証を取り上げる。取り上げ世帯が7・3%です。保険証を取り上げられて、お医者さんにかかれない、手遅れでなくなった方がNHKの調査で2年間で少なくとも475人です。つまり、医療という社会保障の中でも一番大事な命を守る制度の中で所得の少ない方が排除されている。

 雇用保険はどうか。日本の雇用保険ほどひどいものはありません。なぜかというと、失業した場合、雇用保険を受給できている人はたったの22・1%です。8割の方は、失業しても雇用保険を受けられない。1千万人の人が雇用保険に未加入だからです。これは、ヨーロッパでは考えられないことです。ヨーロッパでは仮に失業しても、かなり安定した雇用保険がセーフティネットとして働きますから、不安がありません。

 最後に残ったセーフティネットは生活保護です。これがどうなっているかと言えば、本来生活保護を受ける資格がありながら、生活保護を受給してるのは、日本の場合1割から2割といわれています。これを捕捉率というのですが、あとの8割〜9割の方は、受ける資格がありながら生活保護から排除されています。ヨーロッパはどうかというと、捕捉率は7〜8割です。だいたい生活保護は、セーフティネットとしてきちんと機能している。安心できるわけです。日本の場合それができない。なぜかといったら、生活保護の申請に役所にいっても、申請自体を受け付けないという「水際作戦」というのが横行してきました。貧しい方をばい菌あつかいして水際で追い返す、違法ですがやられてきた。「硫黄島作戦」というものもあります。これは、いったん受給させて途中で打ち切る。これは、いったん米軍を上陸させて、迎え撃ったのが硫黄島だから「硫黄島作戦」と名付けて、そういうひどいやり方をやって、本来生活保護を受ける資格がある方を見殺しにしてきました。北九州市では、3人の餓死者が連続しました。

 「年越し派遣村」では、事態を前に一歩動かして、住所のない方でも生活保護を即日受けられるような制度にしていこうという改善もはじまっていますが、このように所得の少ない方を制度から排除するような社会保障では役に立ちません。やはり、社会保障の削減から抜本的に充実に踏み出す。とくに、2200億円の毎年削減の路線はやめる。こうした方向転換がどうしても必要です。

 (3)中小企業が担っている四つの役割

 第三は、中小企業の問題です。中小企業は日本の企業の99・7%。働く労働者の69・4%が中小企業に働いています。文字通り、日本経済の主役が中小企業です。中小企業の役割、内需のうえでどういう役割があるかと考えてみますと、4つの点が上げられます。

 第一は、中小企業の経営者のみなさんというのは、「利益の最大化」よりも、「雇用の場の確保」、あるいは「社会への貢献」を重視する経営行動をとっているということです。

 印象深く読んだのは、三菱UFJリサーチ&コンサルティングというところが、経営方針を中小企業の経営者の方々に聞いているのですが、何を重視しているか。トップに来るのが、「経営者や従業員への雇用の場の提供」で、これが60数%です。2番目は、「社会への貢献」で40%ぐらい。「利益の最大化」というのは4番目で、だいたい2割台です。こういう経営をしている。

 大企業の方は逆ですよね。利益のためには雇用を切ってはばからない。そのときに、中小企業は雇用を大事にしている。苦しくても人減らしを何とか抑えてがんばっているのが中小企業です。「利益より雇用を」と言うところで、苦労されてがんばっている中小企業を応援することが最大の雇用対策になる。

 第二に、中小企業の場合、数字を調べてみれば一目瞭然ですが、中小企業の仕事の結果というのは、その地域経済への波及効果が非常に大きい。ほとんどの儲けが、そこの経済に還元されてきます。ところが大企業の場合どうかというと、大企業の儲けというのは本社に吸い上げられてしまう。あるいは、外国に行ってしまいます。あるいは、租税回避地といわれるタックスヘイブンといわれるようなところに行き、投機に使われてしまいます。ですから、儲けがきちんと地域に還元されるという点で、これも中小企業を活性化することが、どんなに景気回復に役立つかということが明瞭だと思います。

 第三は、日本の中小企業というのは高いものづくりの技術を持っています。その点で最大の経済資源であり、そして、西陣織に象徴されるように長い伝統を持っている文化でありますから、かけがえのない文化財産だといえます。経済資源であり、文化財産だということを言いたいと思います。

 この問題は、中小企業家同友会の機関誌を読んでおりましたら、そこで座談会がされておりまして、こういう一節にぶつかりました。

 「中小企業自体を一国の経済の中の資源として位置づけて有効に活用するという風に考えるべきではないでしょうか。特に日本のように天然資源があるわけではないし、土地があるわけでもない。何を経済資源として日本が持っているかといえばひとつは労働力であり、それから技術です。そのかけがえない存在が中小企業であり、中小企業は日本の重要な経済資源だという意識を持ってこれを振興させる必要がある」。

 わが意を得たりという感じがするんですが、例えば、東大阪、東京大田区などの中小企業の密集地に行きますと、何だって作れます。ロケットだって作れるし、新幹線だって作れます。もう全部あそこで作っています。技術開発の力もものすごい力を持っています。この西陣織にしても、京都の伝統産業にしても、この力というのは何物にも代えがたいもので、どんな大企業が巨大な機械を持ってしても対抗できるものではありません。ですからそのかけがえのない経済資源であり、文化財産であるという位置づけで、これを支援するというのは、ヨーロッパでやっていることですが、日本でもっと本腰を入れてやらなければなりません。

 第四に、先ほど中小企業は地域経済に還元すると言ったんですが、経済のみならず、私は中小企業というのは地域社会への責任というのを果たされていると思うんです。

 この座談会を読みますと、こういう一節があるんです。「グローバル企業とは違って、中小業者の場合は自分たちが生活する地域の環境を悪くするような経営をすることはあり得ません」。つまり、その地域に責任を持つわけです。中小企業の経営が活発になってこそ、地域をよくしていくのです。地域社会に対する責任を持った行動を、中小企業はしておられると思います。

 例えばキャノンはどうか。大分キャノンが大問題になりました。大分キャノンがどんどん首を切っています。派遣や請負の首をどんどん切っている。ところが、私も大分キャノンの問題を国会で取り上げましたが、あそこは工場を誘致する際、たくさんの税金を自治体が入れてるんです。自治体がたくさんの税金を入れながら、どんどん首切って、地域経済のことなんかお構いなしの行動をとるわけですね。

 それからパナソニックという会社があって、あっちこっちで「派遣切り」をやってます。私、国会で取り上げましたけれど、一体どこでどれだけ「派遣切り」やってるんだと会社に問いわせても答えないのです。私は、「明るいナショナルが、闇の中で、派遣切りやっていいのか」ということ言ったんですけど、こういうやり方すると、その地域にとってはどれだけ雇用が失われているかわかりませんから、対応のしようがないでしょう。

 ですから、この中小企業を四つの角度からもう一回、私たち政治の側がしっかりと位置づけて、ほんとに本格的な本腰を入れた対策が必要だと思っております。

 先ほど、渡辺理事長の方から四点ほどご要望いただきましたが、しっかりと受け止めて、それぞれ私どもの方針でもございますのでやっていきたいと思いますが、一言私申しますと、国の中小企業予算が少なすぎるという問題があります。

 中小企業予算は2009年度で総額1890億円です。たったの1890億円。全事業所といったら420万事業所があるんです。そうしますと、一企業当たりたったの4万5千円です。年間にです。もうないに等しいです。それで、米軍への「思いやり」予算、私たちはよく問題にします。これは2879億円です。在日米軍の米兵は3万5500人ですから、米兵一人当たり811万円でています。中小企業1企業当たり4・5万円、米兵ひとり当たり811万円、200倍です。これはお金の使い方がまちがっている。やはり、これだけ社会的責任と役割を果たしている中小企業に対する手厚い対策に当てるべきだと私は強く求めていきたいと思っております。

 (4)農業の再生なくして地域経済の再生なし

 第四に、日本の農業の問題についても申したいと思います。

 私は、地域にまいりますと、やはり農業の再生なくして地域経済の再生なしということを強く感じます。

 どこでもやはり、農村の小さな都市に行ってシャッター通りになっているところは、農業が立ちゆかなくなって来ているところです。農業生産を増やしますと、だいたい3倍の波及効果があると言われています。すなわち、農業生産が増えましたら、食品工業が盛んになる。サービス業も繁栄する。製造業も育ってきますから、3倍の波及効果がある。ですから農業再生ということを、経済再生の大きな柱として、食糧自給率向上という観点からも位置づけていく必要があると思っています。

 私ども、農業については二つを柱にしておりまして、一つは農産物の価格保障・所得補償によって農家の方々が安心して農産物の再生産に励めるようにすることです。いま、例えば、お米の生産者価格は2007年産米で1俵12000円位まで下がっています。だいたい再生産に必要なのは1俵18000円ですから、まったくのコスト割れです。先ほど、中小企業の方々の労賃の話がでておりました。大変だという話があったけれども、農家も同じ実態です。12000円だとしますと、稲作農家の収入は時給換算で179円です。ペットボトルにミネラルウオーターを入れて売っています。平均価格128円だそうです。そこにぎっしりお米を入れて、生産者ベースで売ったとして、お米の値段は57円です。つまり水の半分以下にお米の値段をしてしまった。これはどんな理由をつけたとしても政治の失政だと言わなければなりません。ですからここは、アメリカでもヨーロッパでもやっている当然の価格保障・所得補償が必要になってきます。

 そして、もう一つ、止めどもない輸入自由化は、食の安全という点からも危険ですからストップをかけていくことです。

 この点では、昨年12月、国連人権委員会にディシッター特別報告官からの報告書がでまして、「現行のWTO農業協定はもうダメだ」という判定をしました。これは、世界の飢餓を減らすどころか逆に増やしたと、こう言っています。「持続可能な食糧安全保証をめざすためには、各国とも世界貿易に依存すべきではない」、「食糧への権利を遵守しないWTO協定は拒否すべきだ」。ここまで言っています。ですからWTOというアメリカ中心の輸出国中心のしかけはもう見直して、各国の食糧は自給で賄っていくという方向に、それぞれの国が努力していくというのが、世界の流れだというのを見て、この方向に日本でも対応していくべきだと考えております。

 (5)税金と財源の問題について

 最後に五番目ですが、税金と財源の問題についてお話ししたいと思います。

 私、外国人特派員協会で内需拡大の話をしましたら、「志位さん、財源はどうするのですか」、「消費税は反対でしょう」、「どこで賄いますか」という話をされました。

 私はまず、「大金持ちには分相応に所得税は払っていただきます」と言いました。大金持ちといっても本当の大金持ちです。これで7000億円位のお金がでてきます。

 それから、証券優遇税制というのが日本はひどいのです。いま、株の売買、あるいは株の配当で儲けたお金にかかる税金はたったの10%です。10億円儲けても1億円払えば良い。10%という話をしたら外国人特派員協会で、「びっくり」という声がおこりました。隣に座っている司会者が「フランスでは29%だ」と思わず声をあげて言いました。こちらに座っている司会者は「アメリカでは25%だ」と言いました。「日本は10%」にみんなビックリしますよ。こんなに大株主優遇の税制をとっている国はない。これを20%に戻しただけで、1兆円入ってきます。この際一気にフランスなみに払ってもらったら2兆円入ってくる。ですから、大株主優遇税制にもメスを入れる必要がある。

 その上で、大企業というのはいま、色々な優遇税制や社会保障の負担の軽減によって、ドイツに比べて8割、フランスに比べて7割しか税と社会保険料を払っていませんから、大企業にはヨーロッパなみの負担はちゃんとしてもらう。そして軍事費にもメスを入れる。こういうことで賄っていこうということをお話したのです。

 やはり、消費税は絶対に反対です。消費税はむしろ食料品を非課税にしていく。こういう決断こそ必要だということを私たちは求めているということを申し上げておきたいと思います。

三、外資頼みの投機市場からの脱却

 ずっと話をしてきまして、労働の話、経済のあり方を外需頼みから内需主導にというところをお話ししましたが、もう一つ、日本の経済でどうしてもゆがんでいて正さなければならないと思っている問題があるのは、証券市場が投機市場になっているということです。

 「金融ビックバン」というのが橋本内閣の頃からやられて、金融の自由化、規制緩和というのをアメリカのまねをしてすすめました。そして、銀行と証券の間を垣根をなくして、保険との間も垣根をなくして、もう金融機関がみんな自由に、投機商売をできるようにした。これを金融ビックバンでやってしまった。それで、「金融立国だ」、「貯蓄から投資だ」というかけ声でアメリカの物まねをやったわけです。

 その結果どうなったかといいますと、この前、わたし、経済同友会の終身幹事の品川正治さんとお話ししたときに、「志位さん、大変な事態だ。いま、東京証券取引所の一日の売買の6割から7割は外国人投資家によるものなんだ。しかも、この外国人投資家は、ヘッジファンドなどの投機マネーだ。投機マネーに支配される市場になってしまっている」と言われました。

 ヘッジファンドみたいな連中は、日本の経済をまともにしようなどというつもりはまったくありません。企業を育てようというつもりもありません。短期、短期の株の売買で、利ざやだけで儲けていこうという本当にハイエナのような動きをする連中です。この勢力に支配される市場になってしまっているわけです。

 この被害は極めて甚大です。端的にいくつか申しますと、一つは、先ほど、外需だのみをやってきたからアメリカがダメになった、ぺっちゃんこになったという話をしましたが、この証券市場まで外資だのみになっているために、証券市場も外的ショックにものすごく弱い市場になってしまいました。

 去年、どの国が一番株価が落ちたかといったら、日本が一番落ちたでしょう。なんであんなに株価が落ちたかと言いますと、金融危機のもとでヘッジファンドが株の投げ売りをやったからです。投げ売りをやって現金化をおこなったことが急激な株安につながって、金融市場、証券市場をひどく不安定にしてしまった。それが企業経営の首を絞めるという悪循環をつくっているのが一つです。

 それから2つ目は、この短期的な、目先の利益を求める投機的な市場の圧力によって、企業が中長期の展望で経営を健全にやってゆく条件を損なうような状況になっているということです。

 たとえば、会計の方式も、大企業は四半期毎に発表しなければならないでしょう。四半期毎というのはつらいでしょう。四半期毎で成績をはかられて、利益が上がらない企業の株は売られると、四半期で利益が上がるところは株が買われ、株価が上がると、こういうふうになっているわけです。

 品川さんが言うには、こういう投機的市場の中で、まさに市場が企業の「活殺の権」を握ってしまっている。生かすも殺すも市場次第だと。いまの日本はこうなっていると。5%位の利益でも本来企業はやっていけるのに、隣に10%の企業ができたら、みんなリストラをやって10%の利益をめざす。20%の利益があがる企業ができたら、またリストラをやって20%の利益をめざす。みんなリストラ競争を横並びにやって、どんどん働く人の賃金を削ったり、中小企業を痛めつけたりする。そういう競争をさせるような圧力が投機市場から働いているんだという話をしておられました。

 いま、大企業は、株主配当を増やしながら労働者の首を切っています。この圧力は実は、投機化した市場の圧力からのものであるということも言わなければなりません。

 そして3点目、さらにこういうやり方が、企業そのものの首を絞めているということも、私は言わなければならないと思います。

 大企業そのものの首を絞めている、つまり、大企業そのものが、たえず買収合併の恐怖におびえてます。品川さんによりますと、「新日鉄」のような世界的な鉄鋼産業であっても、いつ買収されるかわからないという恐怖で社長さんが世界中を歩いていなければならないというような事態だということです。「志位さん、いまそこまで、この弱肉強食の証券市場はひどいものになっている」ということを私に話してくれました。

 私は、一つのひどい例として、「スチールパートナーズ」というアメリカの投資ファンドがございます。この「スチール」がやった動き、去年一年間ずっと観察していますと、実にひどい動きをしております。

 まずやろうとしたのは、「ブルドックソース」の買収です。これは買収に失敗した。そうしたら、今度ねらったのは「アデランス」です。「アデランス」は、買収からの防衛のために頑張った社長さんを追放しちゃったでしょう。「スチール」の役員を送り込んだ。こういうことをやった。

 この「スチールパートナーズ」というのは、本当の投資ファンド、投機マネーです。おいしいソースをつくろうなんて考えてない。いいかつらをつくるということも考えたことはありません。ものづくりに何の関心もないような投資ファンドです。

 そういう投資ファンドが、次から次へ獲物をねらって歩いている。この「スチールパートナー」は株価の暴落の時に株の投げ売りの先頭に立ちました。まだ「アデランス」の支配権は手にしたまま、次の獲物をねらっているとロイターは、そのように配信しました。

 こういう動きをしているわけです。金融ビッグバンと言って、こういうハゲタカのような連中を、日本の証券市場に招き入れてしまった。やっぱり、これは大きな問題だと思います。アメリカ流「金融立国」はもう破たんしたというのは、アメリカではっきりしたんですから、きちんとした規制の方向に行かなければいけない。ここでも大きな転換が必要だと思います。

経済危機を打開し、日本経済の健全な発展を

 以上3つの点を申しました。人間らしい労働、外需頼みから内需主導に、そして証券市場のあり方を健全なものにしていく。これをまず資本主義の枠内でやろう。「ルールなき資本主義」から「ルールある経済社会」につくりかえていこう。こうしますと、企業のためにも、それはプラスになると思います。

 私たちは、中小企業のみなさんは、もちろん私たちの連帯の仲間だと思っていますが、大企業も敵だと思っているわけではありません。大企業の衰退を願っているわけではありません。むしろ健全な発展を願っているわけです。トヨタにも言いました。トヨタの重役と会ったときに、「あなた方のトヨタが、GMみたいになって欲しいと思っているわけじゃないんです」と。あういうふうにならないためにちゃんと雇用を守ることが大事ですということをトヨタにも言いました。やっぱり大企業も健全な発展してもらわなかったら困るんです。

 しかし、それはやはりルールをつくる必要がある。社会のルールをつくって、ルールのもとで社会的な負担と責任を果たして大企業には健全な発展をしてもらう。そのもとで中小企業には大いに経済の主役として生き生きと発展していただけるようにする、そいういう環境をつくっていくのが政治の責任だと考えております。

 日本共産党は、社会主義・共産主義をめざしておりますが、すぐにやろうというふうに考えていません。まず資本主義の枠内で、いま言った「ルールある経済社会」をつくろうということで、その先の話は、また、ご質問があればお答えしたいと思いますが、まずそこまでいっしょに行こうという方でしたら、どうか、そこまでごいっしょしていただけないかというのが、私どもの考えであります。

 地元のこくたさんも、ぜひ今度は勝たせていただきたいと思いまして、みなさま方のご支援をよろしくお願いしたいということで今日は参りました。あとはご質問に答えたいと思います。ご静聴ありがとうございました。