2011年2月10日(木)「しんぶん赤旗」

日航、TPP、日本経済――解決の方策はここに

BSイレブン「インサイド・アウト」 志位委員長が語る


 BSイレブンで7日夜、生放送された政治番組「インサイド・アウト」。日本共産党の志位和夫委員長をゲストに、二木啓孝BSイレブン解説委員、松田喬和毎日新聞論説委員が2日の衆院予算委員会での志位氏の質問をめぐって議論を交わしました。


「筋の通った質問をしている政党」

 「大きなメディアではあまりとりあげない、しかし筋の通った質問をしている政党があります」――冒頭、二木氏はこう紹介。「国会の先行きが見えず予算はどうなるんだろうと感じるなか、共産党は独自の立場で、ある意味ではぶれないで、一貫した主張をなさっている」として、日本航空の整理解雇問題から質問を始めました。

日航の整理解雇問題――「歴史的課題に一石投じる質問」

 二木氏は、山田孝男・毎日新聞編集委員が、志位氏の質問について「経済再生と人間の幸福をどう調和させるか。歴史的な課題に一石を投じる質問だった」と評価したコラム「風知草」(7日付)を紹介しました。

 志位氏は、この質問で、日本航空の整理解雇問題を取り上げ、ベテランを狙い撃ちにしたリストラ・解雇によって、55歳以上の機長と48歳以上の副操縦士、53歳以上の客室乗務員が1人もいなくなったことを、「空の安全」を脅かす大問題ではないかとしてただしました。

 二木氏は、志位氏がつくった、日航と全日空の機長の年齢構成を比較したグラフを示しつつ、志位氏の質問内容を詳細に解説。そのうえで、「志位(委員長)の追及が視聴者をひきつけたのは、機長に限らず、どんな仕事であれ、プロとしての使命感や倫理観、人間を生き生きさせる職業意識を守り、効率偏重を抑えるという姿勢が明確だったからではないか」という山田編集委員の指摘を引用。次のようなやりとりになりました。

経験の豊かな人から切っていくのは、世界の非常識

 志位 「空の安全」という点からみて、いざという危機に遭遇したときには、経験が最後の頼みの綱になる。そういう(経験をもったベテランの)方々を、こういう形で切ってしまうというのは、「安全第一」の姿勢に反するのではないかというのが、私の問題提起でした。

 二木 解雇というと、定年間近の人、給料体系でもわりと恵まれている人から整理することによって、人件費の圧縮になると考えやすい。

 松田 特に日本の場合は高齢者から切っていくことが多いですね。海外の場合には若年層から切っていく。

 志位 欧米では、レイオフ(一時解雇)という制度があります。勤続年数の順番が付いていて、セニョリティ(先任順位)の低い人からレイオフということになる。しかしそういう方々は再雇用するときには優先的に戻ってもらうというやり方を、どこの国でも常識的にやっているわけです。

 世界100カ国、10万人以上の民間パイロットで組織している国際操縦士協会が、今度の日航のやり方について、「最も経験の豊かな方々から切ってしまうというのは、日航にとって大きな損失だ」、さらに「空の安全を脅かすものだ」、という声明を出したくらい、世界の非常識なんですよ。

 二木 どうしてもわれわれには、長年いる日航の職員はコスト意識がないから今日の事態になった、そういう人たちから辞めていただいて新生JALをつくるんだと、そういうイメージがある。ですが航空の安全という点では、ここ(の年齢層)が抜けることの怖さには、経営効率とは別の大きな問題があるということですね。

国民が望んでいる再生は、「安全第一の日航」

 志位 日航の破たんの原因は、機長の方々にコスト意識が足らなかったからではない。どんどん空港を乱造して路線を増やしていく、アメリカの要求に応じてジャンボジェット機を大量に購入する、こういうところから破たんが起こったわけです。それを働く人に転嫁する、まして安全を脅かすようなやり方をやってはならないと思います。

 二木 そういうことが(経営を)圧迫したというのは、具体的にはそういうことですよね。再建については公的資金を入れており、再生していくとなると。

 志位 たしかに公的資金を入れた。しかし国民が望んでいる日航の再生というのは、安全な日航だと思うんですよ。安全第一でお客さんを運んでくれる。それが何よりも望んでいることだと思います。それを犠牲にする形での人員削減は、私は、間違ったやり方ではないかと思います。

 志位氏は、さらに、日航が過去の病欠や乗務離脱を整理解雇の基準にしたことについて、「これでは、少し調子が悪くても自己申告できなくなってくる。体調不良のまま乗務につかざるをえなくなり、空の安全を脅かす」と、国際操縦士協会の声明もひいて批判したことを紹介しました。

 「菅首相はどういう答弁だったんですか」との二木氏の問いに、志位氏は、ベテランの乗務員から切ってしまったやり方については、「事実を初めて知った」という答弁だったこと、「空の安全」に責任をもつべき政府としてはそれではすまないことを批判したことを紹介するとともに、病欠などを解雇の基準にしたことについては、「国交大臣も総理も、たしかに問題があると認めて、状況を掌握して対処すると約束しましたから、これはきちんと是正してもらう必要があると思っています」と答えました。

TPP――「関税撤廃に例外を認めない日米FTA締結」

 話題は環太平洋連携協定(TPP)に移り、二木氏は日本共産党が反対する「大きな理由をいくつかあげていただきたい」と述べました。

 志位氏は、シンガポール、ブルネイ、ペルー、ニュージーランドという小さな4カ国の枠組みとしてスタートしたTPPに、アメリカが加わったことで性格が変わり、「小国のTPPから超大国のTPPになった」と指摘。“TPPに参加してアジアの発展しつつある活力を取り込む”という菅首相の言い分について、韓国、中国、インドネシア、タイなどがTPPに一線を画している現状をあげて批判するとともに、日本のとるべき道を示しました。

 志位 東アジアといったら13カ国ですが、その中でTPP(参加・協議)に入っているのは4カ国だけで、人口にしたら5・7%です。これがいまの枠組みなのです。ASEAN(東南アジア諸国連合)の国々の動きをみてみますと、インドネシア、タイなどを中心に、まずASEANがまとまって経済圏をつくっていく、それにASEANプラス3(日中韓)の13カ国で経済圏をつくっていく、これが大きな流れになっています。

 私は、日本の進むべき方向として、東アジア諸国との経済連携をつくっていく、そのさいお互いの多様な農業も守りながら、平等・互恵の経済関係をつくっていく方向を志向すべきだと思うんです。

 そのうえで志位氏は、仮に日本がTPPに入ると、10カ国の中で日米のGDP(国内総生産)が90・8%を占めることをあげ、「実質上は日米FTA(自由貿易協定)」だと指摘しました。

 二木 うん。GDPの9割を持っているこの2国間での貿易協定になってしまう。

 志位 FTAという2国間協定だったら、(関税撤廃の)例外品目の交渉の余地があるんです。たとえば韓国は、米韓FTAを結んでいますけれども、コメは(関税撤廃の)例外になっている。しかしTPPは関税撤廃に例外を設けない。

 二木 10年で(関税を)ゼロにしようということですね。

 志位 ゼロにするということが大原則です。TPPという枠組みに日本が入ってしまうと、つまり関税撤廃に例外を求めない日米FTAを結ぶのと同じことになるわけですね。

東アジア諸国と平等・互恵、多様な農業を守りながら、経済関係の発展を

 二木 うん、うん。われわれも一生懸命にわか勉強したんですが、どうもこれは「第三の開国」とか「バスに乗り遅れるな」という話でもないんだな。

 志位 そうそう。違うんですね。ASEANの国々は、まずASEANでまとまっていこう、ASEANプラス3(日中韓)で経済的な協力関係をつくっていこう、こういう動きをつくってきた。ところがそれだとアメリカが入っていけない。それならTPPという枠組みに入って、ASEANを二つに分け、日本も取り込んでいけば、東アジアにアメリカの経済的な覇権を及ぼすことができる。そういう道具としてアメリカはTPPを考えているのです。TPPへの参加は「アジアの発展を取り込む」のではなく、アメリカの対日経済戦略に日本が組み込まれる。これが本当の姿ですね。

 二木 2国間でそれぞれの国に従った形でつくっていけばいいというのがFTAなんですが、TPPの場合は(例外なしの関税撤廃という)更地にしてしまう。これが本当に開国として必要なのかと。

 志位 アメリカの言いなりになって丸裸になって関税をなくしてしまったら、農業はつぶれてしまいます。私は日本の進路としてそういう道を行くのか、それとも東アジアの国々と平等・互恵の、お互いの多様な農業を守りながら、経済関係の発展をめざすのか、この選択が問われていると思うんですね。

「食料自給率向上」と「関税ゼロ」の「両立」は不可能――農水省試算でも明らか

 さらに農業はどうなるかに話題は進みます。

 志位氏は、予算委員会の質疑で、「農業の大規模化」と「戸別所得補償」を実施すれば、「関税ゼロ」と「食料自給率50%」が両立するかのようにいう政府の言い分についても、2007年に農水省が詳細な試算をおこない、つぎのように結論づけていることを示して反論したことを紹介しました。

 ――「大規模化」をしても米国は日本の平均耕地面積の100倍、豪州は1500倍でとても競争できない。

 ――安い輸入農産物との差額を補てんしたとしても食料自給率は下がる。しかも差額補てんに必要な額は2兆5千億円にもなり、国民の理解を得られない。

 志位 私が(質問で)これを出しましたら、政府は否定できませんでした。日本の食料自給率はすでに40%まで下がった。そして農産物の平均関税は12%と世界で最大に開かれきってしまっている国なわけですね。(関税撤廃で)それをさらに丸裸にすることがTPP参加ということですから、これはもう食の安定的な供給は不可能になる。これは多くの国民も望んでいないことだと私は思います。

 松田 (安定供給は)難しいでしょうね。現状で関税をゼロにしたら耐えられる状況じゃない。農業というのは、国土の保全という構造がありますから、これをどう保っていくか。

 志位氏は、農水省の試算によればTPP参加によって農林漁業で失われるのは4兆5千億円。さらに(失われる)国土の保全機能をお金に換算すると数兆円だと指摘。農業再生のためには「関税を適度なものに保つことが必要」と述べるとともに、再生産可能な収入を価格保障と所得補償のセットで支える重要性を強調しました。

非関税障壁――BSE対策も残留農薬も緩和が迫られる

 さらに志位氏は「TPPにはもう一つ重大な問題がある」として、「『非関税障壁』といわれる貿易障壁、これも緩和が求められるのです」と提起。BSE(牛海綿状脳症)対策で日本が定めている月齢基準の緩和、ポストハーベストの食品添加物の表示の中止、輸入米の安全検査の緩和、有機農産物の殺虫剤・除草剤の残留容認などを、米国が求めていることを指摘しました。

 志位 食の安全の問題でも、「非関税障壁の改革」と彼らはいうんだけれども、これらを全部丸のみにしなければTPPに入れないぞ、というのがアメリカの姿勢になっているわけです。

 二木 本当に素朴な疑問なんですが、なぜ菅さんは突然TPPを言い出したのか。

 松田 考えられるとすれば、アメリカとの関係の中で、アメリカの要求が出てきたということです。取材をして確証を得たわけではないですけれど、想像できるのは普天間問題で悪化した日米関係をどう改善するのかという一つの材料として、この問題が出てきたのかなと。タイミングとしてはそう想像できますけれどね。

 志位 前原外相などは日米関係を考えるとTPPが重要だという。結局、アメリカに経済でもさらに深く追随する方向の動きだと思います。

社会保障と税の一体改革――新しい財源を誰にどう求めるかが大事

 テーマが社会保障と税の「一体改革」に移り、二木氏は増え続ける社会保障費をどう支えるのか「正直わからない」と述べました。

 志位氏は、「社会保障の拡充に向かう上で新しい財源はいると思うんです。ただ、その財源をどういう形で求めるのか、だれに求めるのかが大事だと思います」と述べ、(1)支払い能力に応じた「応能負担」の原則で税制を立て直す、(2)とくに、ゆきすぎた大企業・大資産家減税をただす、(3)軍事費や政党助成金などのムダにメスを入れる――という改革を提起しました。

大企業の巨額の内部留保を社会に還流させ、健全な経済成長をはかる

 さらに志位氏は、財源問題を考えるさいに、「もうひとつ考えなければならないことがある」として、日本の経済成長が20年間にわたって止まっている問題を提起。働く人の賃金が1997年と比べて年間平均61万円も下がる一方で、大企業の内部留保は244兆円まで積み上がっていることをあげ、「ここに成長が止まった原因がある」と指摘しました。そして、この内部留保を「生きたお金として日本経済に還流させる」ために、国民の暮らしを守るルールをつくる、そのことによって、「家計・内需主導の健全な経済の発展の軌道をつくっていく」ことを提案しました。

 志位 内需主導で健全な経済成長すすむようになれば税収が上がってきます。これ抜きにはこの問題は解決しません。GDPの伸びが止まってしまった、成長が止まってしまった状況のままでは、財源問題の解決策も出てきません。

 二木 春闘の時期ですが、働く人の賃金が上がれば消費に回るんだ、だから上げるべきだという意見と、いやいやそんな余裕はないという意見と…。

 志位 UNCTAD(国連貿易開発会議)という組織も、日本の場合、これまでは人件費をカットして国際競争力をあげてきたけれど、やり方を変えて賃上げをやるべきだ、賃上げをやれば内需主導の経済回復ができる、といっています。

内需を活発にすることが国内への投資の条件をつくる

 松田 グローバル化の中で海外には投資してくれるけど国内に投資してくれない。そうすると国内雇用が増えない。(法人税を)とれるところだからとるといっても企業の方は「じゃあ外に出ましょう」というのが今の状況だと思うんです。

 志位 海外に企業が出ていく一番の動機はなにか。政府の調査があるんです。それは「需要」を求めていく。つまり、投資先を選ぶ最大の理由は「需要」だと。国内への投資がなぜ細っているのかといえば、需要がないからです。企業が国内にちゃんと投資するような条件をつくるうえでも、内需をよくする必要がある。内需といえば、家計が6割を占めるわけですから、賃上げをして内需をあたためていく。そうすれば、国内に投資する条件も出てくるわけですよ。

 二木 政府がいっている法人税5%下げも、「海外に行かなくても日本の税負担は少ないですよ」ということです。どれくらい実効力があるかよくわかりませんけれど…。

 志位 でも、いま法人税を下げて何に使うかと大企業にアンケートをやったら、「内部留保を積み増す」が第1位ですよ(笑い)。いま(大企業は)たいへんな「カネ余り」で手元資金、現金・預金だけでも60兆円以上もっているわけでしょう。そこに減税をやっても、「カネ余り」がひどくなるだけで、生きた経済には回りませんよ。

暮らし最優先の経済成長、社会保障の充実、財政再建を一体で

 志位氏は、「国内の需要を活発にして、国内に投資できる条件をつくっていく」ことは、「1社ではできませんから、社会的ルールをつくる」ことが必要だと力説。(1)非正規社員を正社員化する、(2)中小企業にきちんと手当てをしながら最低賃金を時給千円以上に引き上げる、(3)中小企業と大企業の労働者の賃金格差をなくして、中小企業で働いている人の賃金の底上げをはかる、(4)日航のような不当な解雇をやめさせる――という「『ワンパッケージ』の総合的な賃上げ政策」を提案していることを紹介し、「この4点セットで、全体として賃上げが進む方向に政策誘導する。そして家計をあたため、内需を活発にし、そのことがエンジンになって日本経済が健全な発展の軌道に乗るようにしていく。これが私たちの提案です」と述べました。

 最後に次のようなやりとりがありました。

 二木 結局、そういう形で経済を活性化させて、税収(が増える)とか働けるような環境をつくっていかないと、財政の問題、税制の問題を含めて、社会保障の改革は実はできないというところなんですね。そこで立ち止まっていると、財源はどこなのかと、どうも上滑りする(と思います)。

 志位 国民の暮らし最優先で経済が健全に成長することと、財政の再建と、そして社会保障をよくすること。これはみんな一体にやられるべきことですね。